閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2017-11-01から1ヶ月間の記事一覧

020 有り体に死に体

有り体に云へばコンパクト・デジタルカメラは瀕死の状態である。改めて強調するまでもなく、スマートフォンのカメラ機能が飛躍的に跳ねあがつたからで、この傾向がより激しくなるだらうこともまた自明と云つていい。近年のコンパクト・デジタルカメラがコン…

019 廉価な方法

廉な呑み屋はわたしの好む場所である。串焼きを賣りにすることが多くて、暖簾には焼き鳥焼きとんもつ煮などと書かれてゐる。一本百円から百五十円くらゐだらうか。タンハツハラミレバー。この手の呑み屋なら馴れるまではたれがいい。焼き肉師の才能は天性だ…

018 方向ちがひ

南米産で欧州に持ち込まれた頃(勿論西班牙人の仕業)は観葉植物だつたらしい。トマトの話である。最初は毒を持つと考へられてゐて、飢饉の折に無理をして食べたのが我われに馴染む切つ掛けだつたといふ。栽培され流通に乗り出したのは十八世紀辺り。といふこ…

017 三十年分の器

二十台の頃までの食事は量が正義だつた。思ひ返すと高校生くらゐから二十台前半の時期がわたしの大食期で、この辺は讀者諸嬢諸氏も似たやうなものだつたのではないか知ら。たつぷりと旨いがほぼ一直線に結びついてゐた。とんかつや唐揚げやフライド・ポテト…

016 本の話~何度目かの同道

『阿房列車』 内田百閒/旺文社文庫 大坂…関西方面の云ひ方で、これに近い東京…関東方面の言葉は莫迦だらうか。まあどちらも惡くち。尤も語感には微妙な差異があつて(どちらも罵倒と揶揄が混ざつてゐるが濃淡がちがふ)、特に他の言葉と結びつく時にそれがはつ…

015 もてなしは焔

印度には"火は一年をとほして佳きもてなし"といふ箴言があると、わたしはサヴァラン教授から教はつた。ご存知でない方がゐるとこまるので云ふと、ブリア・サヴァランは十八世紀半ばから十九世紀初頭の佛國人。法律家で政治家でもあつたが、わたしたちにとつ…

014 罐詰雑考

罐詰には日頃からお世話になつてゐる。鯖に秋刀魚、焼き鳥、その他、諸々。そのまま食べることがあれば、小鍋にあけて屑野菜と炊いたりすることもある。便利なものです、あれは。妙な罐詰に出会ふ機会も稀にあつて、とど肉の大和煮とカレー煮は忘れ難い。北…

013 白くてふはふはして曖昧な

冬になると湯豆腐が恋しくなる。 尤も夏は夏で冷奴が慾しくなる。 そんなら春や秋は恋しくも慾しくもならないのかと云へば、下物でちよいとつまみたくなるもので、積り豆腐は年中うまい。生眞面目な豆腐愛好家や厳密な食通はもしかすると、今の日本でうまい…

012 本の話~文字を食べる宵

『私の食物誌』吉田健一/中公文庫ビブリオ 食べものの話は六づかしい。お喋りの場なら表情や聲音、身ぶり手ぶりの助けを得られるから、まだ救ひはあるが、文字で話さうとするのは至難の域ではないかと思ふ。わたしの讀書量なんぞ、大したことはないが、一讀…

011 たぬきを讚す

偶に無性に立ち喰ひ蕎麦を啜りたくなることがある。カレーや大蒜の匂ひが食慾を刺戟するのは今さら改めるまでもないが、立ち喰ひ蕎麦のつゆの匂ひだつて、不意に鼻を擽られると、我慢するのが六づかしい。生眞面目な蕎麦好きには叱られるかも知れないが、些…