閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2022-01-01から1年間の記事一覧

850 丸太花道、西へ~道行

西へ上る。 その前に師走廿四日の話。 某所にあるお酒も摘みも旨い立呑屋がこの日で、令和四年の営業を終へるから、顔を出すことにした。出掛け序でに散髪(と云つてもおれの場合、ぐりぐりの丸坊主にするんだが)に行つたら、年内で廃業するんですと云はれて…

849 丸太花道、西へ~撰択

西へ上る。 西へ上つたら、旧い友人…この稿ではエヌと呼ぶが、星新一のショート・ショートに登場するエヌ氏とは別人なので、為念…と会ふ。思ひ返すと四十年に及ぶつきあひだから、旧いと称して、まちがひとは云はれまい。 年末のどこか。 晝前から落ち合つて…

848 丸太花道、西へ~儀式

西へ上る。 東海道新幹線に乗る。 ここまでは決めてある。 のぞみ號に乗るかこだま號にするかは、この時点で決めかねてゐる。 のぞみ號は速い。便利で宜しい。 東京新大阪間を移動と見立てれば、のぞみ號である。 こだま號は遅い。悠々と出來る。 樂む時間と…

847 ホワイトなフィッシュのフライ

偶に食べると、コンビニエンス・ストアのお弁当もうまいと思ふ。うまいが大袈裟なら、惡くないと云ひませうか。尤もおれは臆病且つ保守的な男である。変り種には手を出すまいと決め、海苔弁当や幕の内弁当か、その辺を買ふ。 そのコンビニ弁当(とここからは…

846 未定

令和四年も終りに近づいてきて、当然おれは西へと上る予定をしてゐる。カメラを持ち帰るのも当然で、そのカメラは出來るだけ小さく、かるいのが望ましい。 GRデジタルⅡが最良だらう。 と思つてゐた。併しGRⅢを買はうと考へてゐる今、詰りまだ買つてはゐない…

845 曖昧な焼賣

餃子や春巻と較べて、焼賣にはどうも地味な感じがある。大体、"焼イテ賣ル"つて何だらう。と思つたら焼麥と書くこともあるさうで、"麥"と"麦"は同じ意味らしい。併し焼賣(以降はこの表記にしますよ)は蒸し料理だと気がついた。"焼"の字を当てるのはをかしい…

844 大御馳走

玄冬の御馳走のひとつに粕汁を挙げて、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏から異論が出るとは思へない。 大根。 牛蒡。 人参。 蒟蒻。 豚肉。 焼き豆腐。 油揚げ。 厚揚げ。 里芋。 鮭。 葱。 大きなお椀にどつさり盛られた粕汁を目の前に、昂奮しないひとがゐるだら…

843 えらくまた旧式な

シャープのAQUOS sense3(au版)を使つてゐると云つたらきつと、我がスマートフォンに詳しい讀者諸嬢諸氏は 「またえらく旧式な機種を」 苦笑ひを浮べるだらう。事實である。さう認めたら今度は 「どうして新しい機種にしないのか」 指摘が續く筈で、それもまあ確…

842 覆し

何日か前、久しぶりにオリンパスのE-PM2を取り出した。パナソニックの14ミリ/F2.5(初期型)を附けてゐる。元々はステップアップ・リングを経由してズイコー28ミリ用の円形フード(中古で二千円くらゐだつたか)をあててゐたが、ふと思ひついて、F-FOTOのスリッ…

841 思ひ出した

四半世紀ほど前、腰椎間板ヘルニアで年末年始を挟み、三ヶ月前後、六人部屋に入院した。身動きに不便がある以外、不調はなかつた。その病院には当時、一階に喫煙所が、地階に雑貨屋があつて、病室でぼんやりテレ・ビジョンを見るのでなければ、その喫煙所と…

840 おでんつゆ

最近マーケットで賣つてゐるおでんが、中々に便利だと気がついた。練りものや結んだ糸蒟蒻で嵩増しした後、適当に味を調へたら立派な摘み乃至おかずになる。余つたつゆで蕎麦や饂飩を煮るのは勿論、雲呑を入れるのもうまい。それで餃子を煮ても宜しからうと…

839 残り半分

家に引き籠つてゐると、外で呑む機會がぐんと減る。元々が出不精なので、出掛ける気になりにくい。尤もそれが家で呑まないのと一致しないのは当然で…いやかう云ふと、我が辛辣な讀者諸嬢諸氏から 「内外は知らず、呑んでゐるなら同じぢやあないか」 きつと云は…

838 「三」

特定の数字に意味を見出だすことがありますね。末広りの八だとか、ラッキー・セブンだとか。ああいふのを"聖数"と呼ぶ。いきなり余談をすると、基督教では十三を不吉な数と見立てる、とする説は不正確なんです。ひとりの王と十二人の従者。ユダヤ的な視点で…

837 昂奮と落ち着き

黑酢と聞いたら何となく昂奮しませんか。おれはする。 酢豚と聞いたら何となく昂奮しませんか。おれはする。 なので品書きに「黑酢酢豚(定食)」とあつたのを目にしたおれの昂奮が二倍…訂正自乗になつたのは、不思議ではないといふより寧ろ、当然の帰結であつた…

836 たちの惡い記憶、更に

ライカのM6が再生産だか復刻だか、するさうである。新宿のカメラ屋でポスターを見た。その値段が七十五万円とかそんなだつたから、一驚を喫した。大昔…四半世紀余り前、中古カメラ屋で働いた時期があつてM6は現行機だつたが、十八万円から十九万円で、廿万円…

835 ごく安つぽいあのカメラ~續 たちの惡い記憶

ごく短い期間、ライツ・ミノルタCLを使つた。半ば衝動買ひ。そんな買物が出來たのは、露光計がいかれた分、廉価な個体だつたからである。コシナ・フォクトレンダーのカラースコパー35ミリ(ねぢマウントのやつ)を附けた。 まあ實に安つぽいカメラだつた。握つ…

834 たちの惡い記憶

小さなフォーマットで、レンズ交換の出來るカメラがあつた。ペンタックスの「Q」とニコンの「1」がさうで、どちらも数年で姿を消した。どちらも買はうかどうか迷つてゐる間(おれは優柔不断のベテランなんである)に製造が終つたことを思ふと、不人気…少くとも数寄…

833 それぢやあの親子丼

甘辛いつゆで鶏肉を煮て、溶き卵でとぢたのを、丼に盛りきりのごはんに乗せたら、親子丼が出來上る。以前ざつと調べた時の記憶を辿ると、最初は店で出さず、食べたければ出前を取るしかなかつたらしい。どうも料理屋で盛りきりめしを出しまた食べるのは、品…

832 融通

天麩羅とおでんに共通するのは、元々が串に刺して供された点である。串一本が四文とか、廉なおやつだつたといふ。丁稚さんがお使ひの途中、こつそり食べてゐたのだらう。一本幾らだから、賣る方も食べる方も、勘定が樂だつたにちがひない。尤も天麩羅とおで…

831 中庸無難

コンビニエンス・ストアのおでんが中々にうまいとは、最近まで知らなかつた。偶々五種類くらゐの種を袋詰めにしたのを見掛けて、何の気もなく買つて食べたら、こりやあ惡くないぞと驚いたんである。きちんとお出汁を引いて、きちんと下拵へした好みの種を、…

830 仄暗い部屋

この稿を書いてゐるたつた今、雨の音が聞こえてゐる。その音は窓外の仄暗さと寒さを聯れ、暖房も灯りと使はない部屋に染み込むやうで、何とも快い。その部屋でラヂオを附けつぱなしにして、その辺にはふり出した吉田健一の短い随筆に、散ら散ら目を通すのは…

829 一抹

画像はそれなりに顔を覚えられただらう小さな呑み屋で出すツナ・マカロニ・サラドである。マヨネィーズは少めで、黑胡椒を効かしてある。マカロニの数へ方は知らないが、兎に角すこしづつ摘むと酎ハイなんぞをゆるゆる樂める。 かう書いて気がつくのは、割り…

828 マンネリズム

呑みに行くと肴を撮る。 さういふ癖が身についてゐる。 まことにお行儀が惡い。 その程度の自覚はある。 自覚はあるけれど、癖だから仕方がないとも思つてゐる。 かういふのを居直りと呼ぶ。 屁理窟を捏ねれば、自分の頭に入らない分を、撮ることで補つてゐ…

827 新品

GRⅢを買はうと思つてゐる。 リコーの"高級コンパクト・デジタル・カメラ"…と云つたら、我がカメラ好きの讀者諸嬢諸氏はきつと、失笑を浮べるだらう。おれもさうだ。GRⅢは發賣から暫く経つてゐるのになんでまた今さら。とも云はれさうで、そつちはおれがリコ…

826 厭らしい話

どうも呑み喰ひの話が多い。おれが書いてゐるのは『閑文字手帖』なのだから、その手の話題でなくたつて、かまはないのだけれど、直ぐにその手の話題を撰んでしまふ。安直と云はれたら、反論が六つかしい。尤も安直でいけないのかと反論する余地はある。食べ…

825 順序立て

過日、某所にある某呑み屋に足を運んだ夜の短い話。 焼酎や泡盛がうまい。蒸溜酒なんてどこで呑んでも一緒ですよと思ふのは間違ひで、ヰスキィのソーダ割りがありますな。あれは上手なバーテンダーが作ると實にうまい。ヰスキィとソーダがひとつになつて、炭…

824 不思議ではない

尊敬する吉田健一の随筆に、食堂車で"ハム・エッグスにソオスと辛子を塗り"たくつたのを摘みに、麦酒を呑む一節があつて、確か"(ウスター・ソオスは)西洋の醤油"なのだと續いてゐた。感心したのは忘れ難い。一ぺん試してみたいのだが、食堂車自体が稀になつ…

823 安蕎麦を弁護する

蕎麦好きには莫迦にされるから、あんまり云ひたくはないのだが、おれは立ち喰ひ蕎麦が好きなんである。と書いたら 「ああいふのは蕎麦とは呼べない」 「だから丸太の舌は駄目なのだ」 我がシビアな讀者諸嬢諸氏から、厳しい指摘が出てくるだらうことは解つてゐる…

822 摘んで咬んで

肉味噌と聞いたら無闇に昂奮する。どんな経緯で成り立つたかは知らない。勝手な推測を云ふと、ミート・ソースからの応用ではないかと思ふ。根拠は無いから、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏よ、信じてはいけません。 過日、某処の立呑屋に顔を出した夕刻の話。そこ…

821 新酒どんたく

神無月の第三土曜日は我われニューナンブにとつて重要な意味を持つ。ニューナンブに就ては省略してその日の意味に触れると、奥多摩の小澤酒造が藏を開くからで、ここで云ふのは新酒の御披露目と考へていい。新酒の御披露目と云へば霜月第三木曜日のボージョ…