閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2017-01-01から1年間の記事一覧

034 旧い友人と呑む話

自慢ではなく、卑下することでもないだらうが、わたしは広範な人間関係がどうにも苦手である。公の部分は公が求めるのだから仕方がないと諦めるとして、私の方は自分から狭めはしなくても、積極的に広げ、或は深める積りになつたことがない。その所為か知ら…

033 新大阪驛まで

12月23日。土曜日。中野の某呑み屋で知人の女性と1年ぶりくらゐに会ふ。昨年も同じ時期に会つてその時は1月か2月辺りにまた呑まうと云つてゐたのが丸々一年過ぎて仕舞つた。どうも彼女はわたしが誘ふと思つてゐたらしく、笑ひながらどういふことよと云つてき…

032 分割の問題

普段から比較的、持ち出す物が多い。多くなつて仕舞ふ。惡癖ですね、これは。 手帖にペン。 財布。 小銭入れ。 煙草とライター。 ポケットティッシュ。 ハンケチ。 スマートフォン。 コンパクト・デジタルカメラ。 文庫本。 主なところを挙げるとこれくらゐ…

031 西へと上ること

某日、帰省の為に新宿のJTBで“ぷらっとこだま”のチケットを買ふ。10,500円。12月24日の13時56分東京驛發こだま661號。喫煙車輌の2人席通路側。新大阪驛着到は17時50分予定。4時間ほど掛かるけれど、350ミリリットルの罐麦酒1本または170円を追加して187ミリ…

030 野蛮な串

焼き鳥やもつの串焼きはうまい。ねぎま(本來は葱と鮪を鐵鍋で煮た料理の筈だが、この際煩いことは云ひますまい)は勿論、ハラミにレヴァ、ハツにタンにコブクロ、ボンジリ、セセリ、その他、諸々…うーむ。書き出しながら嬉しくなつてきた。と云つたそばから串…

029 習慣

普段は朝めしをちやんと食べない。珈琲(マグカップに半分くらゐを二回に分けて飲む)にトースト一枚とほんの少しの野菜程度だから、これでは食事と呼べない。血圧が低めの所為なのか無精なのか、寝起きが惡いのは事實で布団から這ひずり出てから一時間ほどが…

028 牛丼を食べる

中途半端な時間にそこそこの空腹を感じて、立ち喰ひ蕎麦では物足りない気分だつた場合、うつかり牛丼を食べて仕舞はないだらうか。四百円くらゐで素早く出てきてまあまづくない。同じ値段の立ち喰ひ蕎麦ならたぬき蕎麦か月見蕎麦辺りかと思はれて、満腹感は…

027 手繰らない

蕎麦を手繰るといふのは余り品のいい言葉ではない。字面を見れば直ぐに判るとほり、手を使つて引き寄せる意味合ひで、これを"お箸(手)を使つて蕎麦を口許に寄せる"と解釈するひともをられるみたいだが實感に乏しいよね。饂飩が相手の場合に手繰るは用ゐない…

026 懊悩とは別

建物の姿は植物と共にあるとか何とか、さういふ意味のことを谷崎潤一郎が『陰影礼讚』で書いてゐた記憶がある。幹や葉の姿や蔭、庇の形に壁の色といつた要件をひとつに捉へたから、かういふすすどい見立てが出來るわけで、こちらとしては大谷崎は凄いなあと…

025 山梨に行つたこと

⚫️11月23日。 起床6時。雨音を耳にネスカフェを一ぱい。 天気予報で北斗市を調べると午后から晴。捨てる前提のビニール傘を持ち出すことにする。 07時08分發の落合から中野経由07時15分快速で新宿着は07時19分。残念ながら立ち喰ひ蕎麦を啜る閑はなし。 新宿…

024 試し飲み

呑むと云ふ場合、大体は呑み屋か家での話になるでせう。わたしが書く時は殆どがその前提になつてゐるし、讀者諸嬢諸氏がさういふ話をする時だつてさうではないかと思ふ。勿論それがいけないのでなく、例外があるのだと云ひたいので、それが何かと云へば試飲…

023 人生の先の

かう云つては何だが、俗に"B級グルメ"と呼ばれる食べものは大体それほど旨くない。それぞれの地元のひとに叱られるだらうから、具体的な名前を挙げるのは避けるけれど、ほら、皮肉含みで"名物にうまいものなし"と云ふでせう、あれに事情は近い。尤も伊豫の別…

022 山梨に行くこと~寫眞

冩眞はわたしと頴娃君が属するニューナンブの主な娯樂品目である。これまで頴娃君とは何べんかまたは何べんも一泊二泊の旅行に出たことがあつてその時も冩眞を撮つた。今度の山梨行きでも撮ることになる。頴娃君は熱心な冩眞愛好家でフヰルムの利用者でプリ…

021 山梨に行くこと~計劃

毎年秋口には山梨の方向に行く。かういふのは切つ掛け次第であつて大体はその切つ掛けも他愛ないと相場が決つてゐる。ただ一ぺん勢ひがつくと止めるにも切つ掛けが必要なのだが今のところそちらは見当らない。見当らなくても困りはしないので山梨の方向に足…

020 有り体に死に体

有り体に云へばコンパクト・デジタルカメラは瀕死の状態である。改めて強調するまでもなく、スマートフォンのカメラ機能が飛躍的に跳ねあがつたからで、この傾向がより激しくなるだらうこともまた自明と云つていい。近年のコンパクト・デジタルカメラがコン…

019 廉価な方法

廉な呑み屋はわたしの好む場所である。串焼きを賣りにすることが多くて、暖簾には焼き鳥焼きとんもつ煮などと書かれてゐる。一本百円から百五十円くらゐだらうか。タンハツハラミレバー。この手の呑み屋なら馴れるまではたれがいい。焼き肉師の才能は天性だ…

018 方向ちがひ

南米産で欧州に持ち込まれた頃(勿論西班牙人の仕業)は観葉植物だつたらしい。トマトの話である。最初は毒を持つと考へられてゐて、飢饉の折に無理をして食べたのが我われに馴染む切つ掛けだつたといふ。栽培され流通に乗り出したのは十八世紀辺り。といふこ…

017 三十年分の器

二十台の頃までの食事は量が正義だつた。思ひ返すと高校生くらゐから二十台前半の時期がわたしの大食期で、この辺は讀者諸嬢諸氏も似たやうなものだつたのではないか知ら。たつぷりと旨いがほぼ一直線に結びついてゐた。とんかつや唐揚げやフライド・ポテト…

016 本の話~何度目かの同道

『阿房列車』 内田百閒/旺文社文庫 大坂…関西方面の云ひ方で、これに近い東京…関東方面の言葉は莫迦だらうか。まあどちらも惡くち。尤も語感には微妙な差異があつて(どちらも罵倒と揶揄が混ざつてゐるが濃淡がちがふ)、特に他の言葉と結びつく時にそれがはつ…

015 もてなしは焔

印度には"火は一年をとほして佳きもてなし"といふ箴言があると、わたしはサヴァラン教授から教はつた。ご存知でない方がゐるとこまるので云ふと、ブリア・サヴァランは十八世紀半ばから十九世紀初頭の佛國人。法律家で政治家でもあつたが、わたしたちにとつ…

014 罐詰雑考

罐詰には日頃からお世話になつてゐる。鯖に秋刀魚、焼き鳥、その他、諸々。そのまま食べることがあれば、小鍋にあけて屑野菜と炊いたりすることもある。便利なものです、あれは。妙な罐詰に出会ふ機会も稀にあつて、とど肉の大和煮とカレー煮は忘れ難い。北…

013 白くてふはふはして曖昧な

冬になると湯豆腐が恋しくなる。 尤も夏は夏で冷奴が慾しくなる。 そんなら春や秋は恋しくも慾しくもならないのかと云へば、下物でちよいとつまみたくなるもので、積り豆腐は年中うまい。生眞面目な豆腐愛好家や厳密な食通はもしかすると、今の日本でうまい…

012 本の話~文字を食べる宵

『私の食物誌』吉田健一/中公文庫ビブリオ 食べものの話は六づかしい。お喋りの場なら表情や聲音、身ぶり手ぶりの助けを得られるから、まだ救ひはあるが、文字で話さうとするのは至難の域ではないかと思ふ。わたしの讀書量なんぞ、大したことはないが、一讀…

011 たぬきを讚す

偶に無性に立ち喰ひ蕎麦を啜りたくなることがある。カレーや大蒜の匂ひが食慾を刺戟するのは今さら改めるまでもないが、立ち喰ひ蕎麦のつゆの匂ひだつて、不意に鼻を擽られると、我慢するのが六づかしい。生眞面目な蕎麦好きには叱られるかも知れないが、些…

010 リコーのXR-8

リコーのカメラは何となく、好きである。何となくだから、ここがかういふ理由で好きなのだと云へるわけではない。好惡の感情はさういふものだから、仕方がないでせう。 最初に買つたのが、XR-8といふ一眼レフ。リケノン50ミリF2レンズが一緒になつて、29,800…

009 上代好み

日本語が時に厄介なのは、ひとつと思つてゐた言葉が、ふたつ乃至それ以上に分解出來る場合があることです。たとへば躓く(ツマヅク)は、ツマとツクに分かれる。ツマは爪先のツマ。ツクは引掛りくらゐの意。或は稲妻(イナヅマ)もさうですね。これはイネとツマ…

008 藏が開いた日

青梅奥多摩の小澤酒造は例年、神無月の第三土曜日に藏開きを催す。数奇者として行かない道理がない。 それで雨を衝き、醉つ払ひ仲間の頴娃君と共に足を運んだ。普段は見學路にもなつてゐる藏の中で、順に利き酒が出來て、雨足の所為だらう、いつもより人影は…

007 女房おにぎり

女房詞といふのがあります。宮廷の女官が使つた獨特の云ひ廻しで、お味噌汁をおみおつけと呼ぶやうなもの。このおみおつけには御御御付(け)や御味御付、御味御汁と幾つかの漢字が宛てられてゐる。これを見ると、"(お)み"と"(お)つけ"に分解出來るのが判りま…

006 伯爵閣下のあの食べもの

ジョン・モンタギューといふ名前に聞覚えのあるひとは、きつと少ないと思ふ。17世紀の英國人で伯爵。3度に渡つて海軍大臣を歴任し、ジェームズ・クック…キャプテン・クックと呼ぶ方が通りがいいだらうか…を支援した人物でもある。西班牙や葡萄牙といつた、カ…

005 由無し言の

今の世の中、手帖を常用するひとは一体どの程度なのだらう。見掛ける機会が多くないから、少数派と考へられるし、時節になると手帖賣場が混雑する様を思へば、それなりの利用者がゐても、をかしくない気もする。わたしは使つてゐます。この数年は高橋書店の…