閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

723 本の話~別冊

『文藝別冊 高橋葉介 大増補新版』 河出書房新社 高橋葉介の名を知つたのは、高校生の頃だつたと思ふ。先輩に熱心なファンがゐて、教はつたのだ。何を最初に目にしたかは忘れた。ライヤー教授かブンか、もしかするとクレイジーピエロだつたかも知れない。 当…

722 漫画の切れ端~番外篇

記憶に残る旧い漫画の話。 令和四年が明けて直ぐ、水島新司の訃報を耳にした。ごく僅かな例外はあるが、漫画家として生涯、野球を取り上げ續けたのは驚嘆に値する。それだけの豊かさが野球といふスポーツにはあるのだと云つていいが、その豊かさを描ききつた…

721 好きな唄の話~番外篇

大の無精者にとつて朝、布団から這ひ出るのは、一日の最初の、もしかすると最大の困難である。なので音樂のちからを借用して、どうにかその気になれないものかと思つた。 先づ浮ぶのは映画音樂ですな。『スーパーマン』(クリストファ・リーヴ版なのは云ふま…

720 兎にも角にも

何といふ銘柄だつたか、酸つぱい林檎か、八朔を混ぜるとポテト・サラドはたいへん旨くなる。殆どの場合、賛意を得られないのが、不思議でならない。 かう云ふと、さては丸太め、酢豚にパイナップル派だなと思ふひとが出さうで、確かにその通りである。肉を軟…

719 好都合

(寄席や寿司屋辺りで)(お客が脱いだ)下駄や草履の類を下足と呼んだ。ゲソクと訓む。元は履物自体を指してゐたのが足の意に転化して、更に烏賊の足の隠語になつた。その間のどこか、或はその後でゲソクからクが落ち、ゲソになつたといふ。従つて烏賊のゲソも…

718 汁もののひとつに

冬の時期の食事に、あつて必ず嬉しいのは汁ものだと、これはまあ断言しても反論はされまい。お味噌汁でも粕汁でも豚汁でも、或はポタージュ、範囲を拡げて雲呑や水餃子。何にせよ嬉しく好もしく、また望ましい。具がたつぷり入つてゐれば、ひと椀で食事が完…

717 小さな一品

日本に伝はつたのは五世紀の終り頃といふが、信用は六づかしい。長葱の話である。我が國の記録で最もふるい時期に記された葱の文字は『日本書紀』に見られるさうで、成立した年代を考へれば、矢張り怪しい。併し公的に記録されたくらゐだから、ありふれた野…

716 赤くて辛くて旨いやつ

どこだつたか、確か福島だつたと思ふが、實にうまい。 麺の上に乗つてゐる赤いやつ。 すりおろした生姜と(多分)唐辛子を混ぜてどうかしたやつの壜詰でからい。 鍋ものや湯豆腐の藥味は勿論、蕎麦やにうめんに乗せてよく(にうめんなら、温泉卵を落としたい)、…

715 丸太花道、東へ

東に下らねばならない。下りたいのかと訊かれたら、さうでもないと応じなくてはならず、併し厭だとは思はない。要は二週間と少し、大坂の家で過した結果、無精ものの性根が顔を出してゐる。一方で東にはよい友人がゐて、旨い呑み屋もあり、恋しくないと云へ…

714 令和四年が開いた話

母方の祖父母が存命の内は、毎年正月二日に親族が集まるならはしがあつた。帰りに最寄り驛近くのレコード屋で、コンパクト・ディスクを買ふのも習慣だつたが、祖父母が西方浄土に行つて、そのならはしもお仕舞ひになり、箱根驛傳の見物が取つて代つた。勿論…

713 長閑な春

出羽櫻(純米吟醸無濾過生原酒)をお屠蘇に、お澄しでお餅を三つ、煮物に蒲鉾に黑豆、それから棒鱈。 寅年の正月元日、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に、新年の御挨拶を申し上げる。 天が下 のどけき春の お餅かな 寅も肉をば 啖ふを忘るる