閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

285 ソノママ離レ

過日、久しぶりにニューナンブの頴娃君と一献を交す機会に恵まれた夜の話。我われが好む話題のひとつに歴史を題材にしたドラマがあつて、配役を論ずるのは恰好の肴になる。詰りドラマに登場したある人物をたれが演じたかを論評…かどうかは甚だ疑はしいが…す…

284 ミックス

ミックスフライ(定食)といふのがありますな。複数のフライものをひと皿に纏めたやつ。クラッシックな洋食屋が得意にするメニュだとも思ふ。 コロッケ。 クリーム・コロッケ。 (両者は峻別せねばならない) ミンチカツにヒレカツ。 チキンカツ。 海老フライ。 …

283 僅かな余生の樂しみに

吉田健一がハムエッグ…かれの書き方だとハム・エッグス…について触れた一文があつて、以前にどこかで引用した筈だから、ここでは引かない。辛子とソースを塗りたくり(吉田いはく、西洋風の砂糖醤油の味)、麦酒のお供にしたといふのが實に旨さうである。 残念…

282 オイル

味噌漬け。 醤油漬け。 塩漬け。 酢漬け。 までは兎も角、油漬けの歴史は、ひどく浅さうな気がする。ああこれは我が國の場合。 なに、ややこしい理由を考へる必要はなく、要するに油を絞り、或は精製する技術が拙劣だつたからに過ぎない。記憶にある限り、数…

281 世界の涯ての玉子焼き(習作)

コンスタンティノポリス。 ポンペイ。 サマルカンド。 バルセロナのアパートメントで、シンガポールのレストランで、ダブリンのパブで。 草原のパオ。 湖畔のロッジ。 川縁の板敷。 見知らぬ路地裏。 見馴れた町角。 夕暮れと夜とが蕩けた時間。 (月はやはら…

280 80%

仮の話である。何かの切つ掛け…たとへば“日本國民ハ法ノ定ムルトコロニ拠リ常用スルレンズヲ決ル義務ヲ負フ”といつた状況になつたとして、我われはどのような態度を取ればいいのか。圧政と暴虐に叛旗を翻す方法も考へられなくはないが、それはどうも血腥くて…

279 数ある中の

数々ある玉子料理の中で、どうもわたしは玉子焼きが一ばん好きらしい。煮抜きや韮の卵とぢ、ベーコン・エグズ、煎り玉子に目玉焼き、オムレツ、その他諸々あるけれども、玉子焼きといふ響きには及ばない…まあ、わたしにとつては。 我が親愛なる讀者諸嬢諸氏…

278 蛸の味

西班牙や希臘では食べる。 印度から中國では食べない。 猶太は“鱗のない魚”として忌避する。 我が國では歓んで食べる。 タコの話。 英語ではoctopusと綴る。そのoct乃至octoは羅典語で“8”の意。october(こちらは“8番目の月”)と同じ語根で、あの生きものを端…

277 ハラミとカシラとネギマ

何しろわたしは老人である。他人さまに云はれると腹は立つが、老人であるのは事實であつて、我が若い讀者諸嬢諸氏もいづれ老人になるのだと思ふと、ざまあみろと厭みな笑みが浮んでくる。 老人であると自覚したのは、先づ食べものの嗜好の変化で、何度か触れ…

276 距離を厭はず

好感を持つてゐる…詰り行つてみたい土地への運賃を順不同で調べてみたらかうなつた。金額は正価。すべて新宿發である。 ◾️金沢:吉田健一を尊敬すると公言してゐるんだもの。矢張り、訪れないわけにはゆかない。 大宮経由/新幹線はくたか;13,390円 大宮経由/…

275 サバハイスタンブール

鯖はうまい。生き腐れと揶揄される足の早さは難点ではあるが、ごく新鮮な鯖ならお刺身でもいいし、当り前に〆てよく、塩焼き、味噌煮、干物に竜田揚げに罐詰。どうしたつて旨い。もしかすると鮭に匹敵する応用力を持つ魚の筆頭は鯖であるかも知れない。鰯や…

274 男色葷

不許葷酒入山門と書いて、葷酒山門ニ入ルヲ許サズと訓む。山門はお寺の正門…転じてお寺そのもの(禅寺が多いさうだが)または修行の場の意。葷酒の酒があのお酒なのは云ふまでもない。現代風に云へば“持込み禁止”くらゐのところか。それなら葷酒の葷は何を指す…

273 その筈ではないかな

外ツ國ではどうだか知らないが、我われがコロッケと云ふ時、茹でた馬鈴薯を崩したのを使つたそれを連想する。ベシャメル…ホワイト・ソースを用ゐた場合はクリーム・コロッケであつて、(所謂)コロッケとは別扱ひになる。 その筈である。 ではないかな。 馬鈴…

272 夜九時の暖簾

齢を喰ふと呑みに出ても新しいお店を探さなくなる。さういふ冒険をするなら馴染んだ場所で安心したい。保守的な老人の態度と云はれたら確かにその通りだが、酒肴にある程度の好みが固まつて仕舞ふと自分の舌に適ふお店があれば後はまあどうでもよくなる。 そ…

271 新しい元号(發表の後)

“令和”が新しい元号だといふ。 “レイワ”が訓み。 典拠は萬葉集(巻五/詞書)ださうで、我が邦の古典から引かれるのは初めてとのこと。 元号に“令”が用ゐられるのは初めて。 対して“和”は二十回目。 新人とヴェテランの共演といふことになる。 取り急いで[漢字/…