閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

963 タマゴサンドの話

 何の動画で観たのか、記憶は曖昧なのだが、外ツ國人にタマゴサンドが人気なのだといふ。日本のコンビニエンス・ストアで賣つてゐるやつ(なので"タマゴサンド"表記にした。この稿はこれで通しますよ)である。うで玉子を崩し潰したのを、マヨネィーズで和へ、食パンで挟めば出來上るから、サンドウィッチの作り方としては、簡単な方に属する。勿論、簡単かどうかと、旨いまづいは別であつて、タマゴサンドは簡単でうまい。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏も、よく御存知でせう。

 

 併しサンドウィッチといへば欧州、それも英國の筈だし、各國各地域各家庭に、それぞれ自慢のサンドウィッチがあるだらうとは、容易な想像である。わざわざ異國の、それもコンビニエンス・ストアで賣つてゐるサンドウィッチを撰ぶ、積極的な理由があるのか知ら。

 考へられるのは、卵とマヨネィーズで…いや煎じ詰れば卵に尽きる、気がする。先づ日本の卵は、生食に差支へない程度に新鮮清潔…餌と飼育環境に由來するさうだ…である。他國の卵事情を鑑みると、これはどうも異常らしい。第二に日本のマヨネィーズは、その卵の黄身で作られ、粘り気がつよく、濃い味になるといふ。英國紳士に限らず、欧米人には縁がうすい味なのだらう、であれば、かれらがうで玉子とマヨネィーズを活かしきつたタマゴサンドを喜んでも、不思議とは云ひにくい。併し改めて

・玉子を使つた料理は、洋の東西を問はず、数多い。

・マヨネィーズが、佛國生れの偉大なソースである。

ことを思へば、ヨーロッパ方面の、"玉子を使つた"サンドウィッチが豊かでなささうに見えるのは、矢張り不思議だなあと云はざるを得ない。

 

 崩し玉子(と呼んでいいのか知ら)はところで、色々と応用がきく。チーズをあはせて旨いし、ツナ罐と玉葱、或は刻んだハムを混ぜても宜しく、ハムより細かく刻んだたくわんを入れれば(麺麭には兎も角)、ちよつとしたお摘みになる。調味だつてマヨネィーズに固執する必要はなく、ウスター・ソースは元より、醤油でも味噌でもオイスター・ソースでも、自在に組合せれば、タマゴサンドは更に広がるでせう。日本風の"ケチャップ炒め式ナポリタン・スパゲッティ"に、何種類かのタマゴサンドから撰べる店を出したら、人気が出さうに思はれる。ひとまづはコンビニエンス・ストアでタマゴサンドとナポリタンを買つてきませう。