閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

079 アンビバレント

串を焼いてもらふ場合、ハラミ、タン、シロ、ハツ、レヴァのいづれかから撰ぶことが多い。初見のお店ならたれで。信用出來てからは、塩を混ぜる。どちらかと云ふと、たれの方が好みなのだが、この話題は以前にも触れた筈だから、ここでは踏み込まない。 串を…

078 ありふれた有能

正しくは魚偏に生と書くらしい。 鮭のことである。 色々細かい意味のちがひがあるさうだが、まあその辺は云はない。気になるなら、ご自身でお確かめなさい。 鯵や鯖、鰯と並んで、“ありふれたお魚”四天王の一角でせう。惡くちではありませんよ。ありふれてゐ…

077 小道具バーガー

さう云へば随分と長いこと、ハンバーガーを食べてゐない。記憶を辿ると数年前、松本に泊つて上高地に行く早朝、ホテルの食事が間に合はないから、驛近くの[マクドナルド]で、何やらを買つたのが最後だと思ふ。いやあの時はマフィンだつたから、所謂ハンバー…

076 嗚呼紅生姜

東都に棲みだして二十年ほどになるが、“紅生姜の天麩羅”は殆ど見掛けない。近畿人には馴染みのある食べものだと思ふ。なに、捻りも何もあつたものでなく、一枚の紅生姜を天麩羅に仕立てたもので、そのまま食べることがあれば、饂飩に乗せたりもする。旨いこ…

075 安直に敬意をば

尊敬する檀一雄は『檀流クッキング』(中公文庫ビブリオ)の中で“豚の舌だの、豚のモツだの、さまざまの内臓”を食べる工夫を紹介するにあたり 「日本人は、清楚で、潔癖な料理をつくることに一生懸命なあまり、随分と、大切でおいしい部分を棄ててしまうムダな…

074 色に還らうか

この手帖は基本的に、スマートフォンで画像を撮り、文章を書いてゐる。パーソナル・コンピュータを使はないのは、ちまちま書く分にはこの方が樂だからで、キーボードを叩くのと、フリックでは、書き上がりが随分ちがふのだらうなと思はれる。そんな莫迦なと…

073 偶に意味のない無駄遣ひ

偶に意味もなくビジネスホテルに泊りたくなることがある。どうしてと訊かれても“意味もなく”だから説明は六づかしい。当り前に考へればビジネス抜きのホテルの方が快適ではないかとも思へるし、確かに間違ひではないのだが、どうもビジネスホテルでなければ…

072 思ひ出すまま

旨かつたかどうか、そこは曖昧なのだが、何となく記憶に残る食べもの呑みものを、思ひ出すままに挙げてゆく。 まづは心斎橋にあつた獨逸料理屋で出されたグリンピースのソップ。 今もわたしはグリンピースが苦手なのだが、これは實に旨かつた。塩胡椒であつ…

071 始めました

気温が高くなると食慾がぐつと落ちる。それで大体は素麺に頼る。樂だもの。尤も樂ではあつても毎日毎食を素麺に頼るわけにもゆかず、勿論『檀流クッキング』(檀一雄/中公文庫ビブリオ)を参考に、“少しく奮闘して、さまざまの薬味を”用意すれば事情は異なるか…

070 本の話~バイブル

『文章読本』 丸谷才一/中公文庫 bibleを単純に翻訳すると“本”の意味になるさうで、頭のbを大文字のB…即ちBibleにすると、キリスト教の『聖書』に意味が転ずる。頭文字が大文字か小文字か、定冠詞がつくかどうかで意味するところが異なるのは、どうも我われ…

069 ヰスキィの希望

ウイスキーではなくヰスキィと書くのは内田百閒の眞似である。whisky乃至whiskeyの綴りを日本語に移すにあたつてどちらが適切か、の判断は我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に委ねるとして、頭文字がwの点から考へると、百閒式の表記の方がわたしとしてはしつくりく…

068 先發麦酒

身近にあつて取敢ず呑める酒精と云へばわたしの場合は麦酒で併し麦酒を酒精に含めていいのかどうか。ピーター・オトゥールが酒は止めた、かるいものしか呑まないとシャンパン・グラスを見せたといふゴシップ…大急ぎで調べてみたが手元の中では見つからなかつ…

067 金魚とセロリ

外で呑み歩く機会がぐんと減つた。 いつ頃からかはつきりしない。 確實に云へるのは厭になつたからでなく、弱くなつたことで、家で呑む方が樂になつた。 併しどちらが先の事情か知ら。 考へたつて詮のないことであらう。 念を押すと外で呑むのを止めたわけで…