閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

369 一筆書きの裏のところ

文章を書く時、わたしのやうな素人だと、その前に何かしらの縛りを附ける方が書き易い。主題を持つて書くといふことではなく、いやそれも含めて自分に條件を課すので、長月の條件は 「短く、話を逸らさず」 であつた。ただそのままだと、意地惡な魔女が幼気…

368 辛子を食べるうまい方法

普段は殆ど使はない調味料…いや香辛料が正しいのか、まあどちらでもいいが、わたしの場合は辛子である。といふより、どこで使へばいいのかよく判らない。何年前になるのか八丈島料理だつたかの呑み屋で島寿司を食べた時、山葵ではなく辛子だつたのは驚いた。…

367 いいおんなといふ名前の國

最初に云ふと何ひとつ根拠は無い。 わたしの先祖は源平合戰の折り、屋島で平家方について敗北し、伊豫に落ち延びて、その後村上水軍に従つたといふ。 屋島合戰は寿永四年。 伊豫村上氏の成立はその四半世紀ほど前の永暦元年頃と云はれてゐる。 いづれも十二…

366 特別急行列車に乗りたい

妙なことを云つて、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏を煙に巻く積りではない。どこかに行きたいのでなく、特別急行列車に乗りたいといふ、ただそれだけの話。なので行き先はまあ膠泥しない。特急(とここからは省略する)が停車する驛…町なら、降りて周りを見渡して …

365 棚から卸した切掛けと云ひ訳

この手帖を公にしたのは平成二十九年の十月朔日で、そこから数へて三百六十五回に達した。詰りその日から毎日書いてゐたとすれば一年分の分量であると。それが令和元年になつたのはそれだけ書く頻度が鈍かつた…単純な計算で概ね二日に一ぺん…といふことにな…

364 鯵フライの懐の深さ

鯵はどうしたつて美味い。 たたきにお刺身。 骨を使つたお吸物。 塩焼に干物。 マリネー、なめろう、南蛮漬け。 冷や汁。 炊きたてのごはんとひと粒の梅干しがあれば、前菜から汁ものまで、鯵尽しの食卓が成り立つのは大したもので、鯖や鮭もさうだらうさと…

363 大正十五年ライカのこと

大正十五年は十二月二十五日に昭和へと改元された。西暦では千九百二十六年。三月に『アメージング・ストーリーズ』誌が、翌四月に『アサヒカメラ』誌が創刊された。余分な情報を追加すると、クリスティ女史の『アクロイド殺害事件』が英國で刊行され、怪優…

362 お殿さまにはばれない様に

内田百閒の『御馳走帖』に[お祭鮨 魚島鮨]といふ一篇が収められてゐる。お祭乃至魚島鮨とあるのは、我われが思ふ散らし寿司だと思へばいい。尤も丸で同じと考へたらえらい目にあふのは間違ひない。上の一篇には宮木檢校に届けた時の寿司種が列挙してある。そ…

361 書き手と書くことと書く道具

普段使ひの手帖にはシグノの0.28ミリで書き込んでゐる。この太さはもう何年も使つてゐて、馴染んでもゐる。字が小さい(他人さまには呆れられる)ので、これくらゐの細さが丁度よい。 それで先日、久しぶりにグラフ1000のメカニカル・ペンシルで字を書いたら、…

360 何をしなくてもかまはない日の歓び

朝起きて、その日が何をしなくてかまはない日だと気づいたとする。ここで云ふすることは洗濯や買物や掃除…要するに日頃我われをうんざりさせるあれこれの意味で、そんな都合のいい日があるものかと思はないで、兎に角何かの拍子でそんな日が出來たと想像した…

359 格段に不便の無い行為

眞面目に寫眞を撮らなくなつて、何ヵ月かそれ以上経つ。と書いてから、眞面目に寫眞を撮るのはどういふことだらうと思つた。カメラに触れてゐないのはその通りとしても、毎日のめしはスマートフォンのカメラ機能で記録はしてゐて、それは不眞面目な心持ちで…

358 峻別をしないといふこと

わたしの周辺には酒好きがゐる。この場合の酒はアルコール飲料全般を指してゐる積りだが、大体は日本酒に落ち着く。こちらも嫌ひではないけれども、深くどうかう云へないので、お酒(今度は日本酒の意)の話題が深まると尻がもぞもぞする。尤も話題が葡萄酒や…

357 秋の聲の連想

秋の聲が微かに聞こえてくると、沖縄の食べものが恋しくなる。琉球料理ではなく、大雑把に米國の占領期を経た後に成り立つた沖縄めし。十余年前の十一月から翌年の二月にかけて、沖縄県にゐたからで、あの土地の夏にうらみがあるわけではない。お金を貯めて…

356 生煮え鮪を食べる為

偶さか手にした本に、新橋茶漬けといふのが載つてゐた。何なのかといふと 要するに、丼にご飯を入れた上に鮪と海苔を載せて胡麻を散らし、醤油と山葵にお茶をかけたもので(中略)、喉が乾いているのに辛いものが欲しくて、お腹も空いているという、一晩飲み廻…

355 利き酒風の儀式

利き猪口の蛇の目に映る色を見る。 猪口を緩やかに揺つて香りを確かめる。 口に含んで空気を通す。 呑込みつつ鼻から息を抜く。 といふのがお酒の利き方と聞いた記憶がある。呑込むのが本当なのかどうか判らない。本式に利き酒をするひとは何十盃何百盃を味…

354 牛丼の日佛友好

何の漫画だつたか、男が牛丼屋でめしを喰ふ場面があつた。牛丼屋で喰ふのだから勿論それは牛丼で、懐が暖かい男(本人が云ふのである)は壜麦酒を一本奢り、牛丼の具をつまみにそれを呑む。残つたごはんには紅生姜を打掛け、熱いお茶で茶漬けにして平らげる。…

353 文學的なストーヴを

何の本で讀んだか忘れたが、和歌集で夏の部に収められた歌の大半は、涼しげな口調なのだといふ。夜に吹き渡る風が快いとか、池の水面に映つた月の蔭が秋のやうだとかそんなの計りで、筆者はそれを、夏は暑くてうんざりする季節だから、歌で涼を取らうとする…

352 土鍋といふ大きな物体

一人用の土鍋といふのを、獨居自炊を始めた頃に使つてゐて、それで天麩羅饂飩を煮たことがある。天麩羅はその辺のマーケットで買つた。饂飩が煮えるの待つ間に、そのマーケットの天麩羅が冷たいのが気になつたので (饂飩が煮上がる直前に天麩羅をはふり込め…

351 麦酒を招くやうなカメラ

手元にリコーのXR‐7MⅡといふ旧式のカメラがある。調子のよくない個体で、時々ミラーが上りつぱなしになるから、気がるに持ち出しにくい。 併し機能の面を見るとまつたく気がるな機種であつて、詳しいことはご自身でお調べなさい。特筆すべき点は何も無く、カ…

350 ティオ・ペペが呑みたくなる

偶にティオ・ペペが呑みたくなることかある。シェリーの一種。酒精強化ワインなどと分類されるさうで、確かにさうではあるが、無愛想でまづさうな呼称でもある。酒屋に入つてシェリーがマデラと一緒に酒精強化ワインの棚に並んであつたら踵を返すだらうな、…