2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧
弛緩といふ熟語はどちらも"ユルム"と訓める。 心理肉体の張り詰めた感覚。 世間さまの締めつけの感覚。 さういふのがほぐれる気分を示してゐる気がする。堅苦しく"シカン"と訓むより"ユルム"方が、語感に適つてゐるのではないだらうか。 と始めたのには、ち…
列車と云ふのだから、通勤電車とはちがふ。通勤電車にだつて習慣があるのは勿論として、何時何分どこ驛發の何輌目の何番扉辺から乗るとか、そんなところでせう。後はスマートフォンでニューズや天気予報を確めるとか、眞面目な會社員ならメールその他のチェ…
飲み屋というものがいかにありがたい存在かということは知っている。画家が自分の絵をならべて個展をするように、飲み屋というのはあるじ自身の人間の個展なのである。人はその人間に触れにゆくわけで、酒そのものを飲むなら、自動販売機の前でイスを置いて…
新書と呼ばれるやや縦長の形態の本がある。直ぐに思ひ浮ぶのを挙げると、岩波中公講談社辺りか。文春や集英社や新潮にもある。他にもある筈だが、よく判らない。 小學六年生の時に買つた講談社が、初めての新書だつた。著者も題名も忘れた。ノアの洪水伝説に…
西上は游び。 東下は所用。 北上と南下を考へないのは、普段或は定期的に北上も南下もしないからである。東京を起点に北上南下したら、どこになるだらう。暇な夜の肴として考へることにする。 「取つとらンのか」 と父親が云つたのは、御用新幹線の切符の話で…
父親は食卓に細々乗つてゐないと、不機嫌になる。それも全部食べるとは限らない。お箸はつけるが、満足したらお仕舞ひになる。惡い癖だと思ふ。幼少の一時期を朝鮮半島(平壌かその近郊らしい。詰り事と次第でわたしは今ごろ、偉大な指導者萬歳を叫ぶ男となつ…
大坂の家の棚の奥に、オートメーターⅣFと、そのアクセサリが埋れてゐた。 若い讀者諸嬢諸氏は御存知なからうから云ふと、乾電池で動く単体の露光計。 画像には無いが、共に立派なケイスに入つてゐた。 いつ頃、何の目的で買つたものか、丸で覚えてゐない。マ…
アサヒカメラ別冊が二冊と写真工業出版社の本が二冊。 四半世紀ほど遡つた時期、ライカが慾しくて仕方なかつた頃があつた。併しライカのことは何も知らない。何もと云ふのは不正確で、ふたつは判つてゐた。 第一に色々の機種があること。 第二に諸々が高額で…
司馬遼太郎/朝日文庫 この小説家を知つたのは、小學校の五年生か六年生の時に讀んだ、文春文庫の『竜馬がゆく』だつた。母親の本棚から勝手に持ち出した。幕末史…もつと大きく、近世の日本史といつてもいい…には無知だつたのは当然で、併し熱中して讀んだ。…
世の中にコンパクト・ディスクがあつたことを知つてゐるひとは、ひよつとして古老の部類になるのだらうか。 一体わたしは臆病なたちなので、新しい技術には中々手を出せない。それだものだから、デジタル式のオーディオ・プレイヤーに飛びつけないまま(いや…
"守り人"のシリーズなど/新潮文庫 母親には少女小説趣味がある。村岡花子が訳した"赤毛のアン"に夢中だつたと云ふくらゐで、後は歴史小説(司馬遼太郎)と探偵小説(クリスティとクィーン)さういふ趣味の持ち主にとつて、上橋菜穂子は好感を抱くに足る小説家だ…
日本の文學者たち/筑摩書房 少し豪華な装訂の、まあ文庫本と云つていい。 一冊千円で全五十巻。筑摩はよく全巻を出せたと思ふし、わたしもよく全巻を買つたと思ふ。尤もほぼ、目を通してはゐないのだけれど。 画像は第三回配本の第三巻、内田百閒で、平成三…
隆慶一郎/読売新聞社 初版は平成元年。手元のは翌平成二年の第十刷。 天下の奇人…傾奇者、慶次郎前田利益を主人公に云々と説明するより、漫画『花の慶次』の元になつた小説、と云ふ方が通るかも知れない。中身については後日、"本の話"で触れることにする。 …
ヒュー・ロフティング/井伏鱒二 訳/岩波書店 "ドリトル先生"ものの第一巻。"ドリトル先生物語全集"の第一回配本でもある。 菊判。クロース装。上製函入り。製本が立派な上、ロフティングじしんが描いた挿絵も収めてある。 これだけでも十分に贅沢なのに、井…