閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

478 本の話~番外篇

手元に『アメリカ素描』といふ本がある。新潮文庫。著者は司馬遼太郎。奥附を見ると平成元年四月廿五日に第一刷。同十年九月晦日に廿三刷となつてゐる。単行本は昭和六十一年に讀賣新聞社から發行された。定価は消費税別で六百九十二円。尤もわたしは古本で…

477 煮玉子を追加して

普段は進んでラーメンを食べには行かない。そんなら蕎麦や饂飩の方がいいと思ふ。ラーメンがきらひなのではなくもつと単純にどうでも宜しい。併し繰返すときらひではないから偶には食べたくもなる。普段ではないのだから矛盾してゐることにはならない。それ…

476 汁で呑む

お酒…この稿では日本酒に限ることにするが、そのお酒を呑む時には食べものが慾しくなる。さうでもないよと云ふひともゐるだらう。友人の頴娃君はそつちに属してゐて、腰を据ゑて呑みだすと何も食べなくなる。平気なのかなあと不安になるが、その不安は措いて…

475 隧道

吉田健一に『旅』と題された短い随筆がある。要するに旅行に出たいと書いてあつて、末尾に"旅行がしたい"とあるのだもの、わたしの要約は間違ひでも乱暴でもない。かういふ一文は非常に迷惑で、こちらも旅行に出たくなる。出無精な身なのに。 そこで甲府に行…

474 定食、また

前々回、気に入りの定食屋で久しぶりに食べたことを書いた續きである。何故かと云ふと中華風肉豆腐定食をやつつけながら目にした"日替り"定食の献立に、鶏とピーマンの甘味噌炒めとあるのに気附いたからで (こいつを食べない法はないといふものだ) と思つた…

473 活用

今どきの若ものには想像が六づかしいと思ふが、昔…四十年近く前、世間の片隅にエロ映画館といふのがあつた。エロチックな場面のある映画の意味でなく、文字通りのエロ映画で、ポルノ映画、ピンク映画とも呼ばれてゐた。にっかつロマンポルノと云へば、聞いた…

472 定食

家の近所に小さな飯屋がある。晝間は定食、夜はちよつとした呑み屋。まあよくある営業形態だと思ふ。それが諸々の事情で晝のお弁当と夜の持帰りになつて、夜はもとから足を運ぶ機会が少かつた(小さなお店だから禁煙なのである)から我慢出來るとして、晝の定…

471 シグマについて

最初に買つたカメラはキヤノンのEOS1000QDで、EF35-80ミリレンズが附いてゐた。その後にシグマの70-210ミリを手に入れた。シグマを撰んだのはEFレンズより廉価だつたからで、70-210ミリにしたのは第一に素人が陥る"望遠レンズ"指向にわたしも陥つたからで、…

470 本の話~がんらい何をしてもいい

『居候匆々』 内田百閒/福武文庫 がんらい何をやつてもいいのが小説で、併しさう云ひだすと何だか落ち着かない。とは云へ何とか定義附けを試みたところで、例外は幾らでも出てくるだらうし、その内定義そのものより例外の方が多くもなりかねず、千年も経てば…

469 ライカM4-2のこと

昭和五十一年にライカ社からM4-2といふ機種が發表された。昭和五十三年から五十五年にかけて、一万六千百台が造られた。ざつと確かめた限り、Mバヨネット・マウントのライカでは最も製造期間が短く、また台数の少い機種である。 この時期のライカは会社とし…

468 れんげ盛り

焼飯にウスター・ソースをかける。 醤油ラーメンに酢や辣油を垂らす。 といふのはお行儀の惡い食べ方である。週末の午后に家で食べる分にはかまふまいが、さうでなければ、詰りお店で食べる場合は、實行しない方が無難であると思ふ。 ただお店の焼飯…こつち…

467 うで玉子ふたつ

ふとその気になつて、たぬき蕎麦を啜つた。東京風の揚げ玉を散らしたやつ。立ち喰ひ蕎麦の種ものも色々とあるけれど、蕎麦でやつつけるなら、たぬきが一ばん気らくに思はれる。牛蒡の掻き揚げや春菊の天麩羅だつて惡くはないにしても、蕎麦つゆに対して些か…

466 変格不便

ライツ社のレンズにデュアル・レンジ・ズミクロンといふMバヨネット・マウントのレンズがある。『ライカポケットブック』(デニス・レーニ/田中長徳/アルファベータ)を参照すると 附属のゴーグルを附けることで十九インチまでの接冩が可能になり、パララック…

465 本の話~巨山に挑む

『ツァイス 激動の100年』 アーミン・へルマン(著)/中野不二男(訳)/新潮社 レンズ好き冩眞好きにとつて、第一等のブランドと云へばツァイスである。ライツ・ライカにも優れたレンズがあるのは勿論だし、ニコンにも豊かな伝統があるのは認めつつ、矢張りツァ…

464 魅惑ののり弁

普段のわたしは言葉の省略を好まない。たとへばデジカメではなくデジタル・カメラ、或はパソコンではなくパーソナル・コンピュータ。特にカタカナ言葉の場合、省略した表記は要するに符牒であつて、それは何も意味しない。元の意味と略された表記を結びあは…

463 出し月かも

阿倍仲麻呂。八世紀のひと。貴族で政治家で文人。祖父に阿倍比羅夫を持ち、系譜には安倍晴明がゐるといふが、こちらは怪しい。遣唐使として渡唐。帰國に際して開かれた宴席で詠んだと伝はるのが あまの原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも の一…

462 未完成のまま

特別急行列車に乗りたいと思ふ。 どこに行かうといふのではなく。 元來わたしは出無精な男である。麦酒と煙草、お米とお漬物、それから気に入りの本があれば、外に出なくても平気なたちなのだが、だからと云つて何がなんでも外に出たくないのではない。外に…

461 取り込みと取り出し

この手帖をちよいと休む事にした。 おほむね月水金曜日に更新をしてきたが、話の種がどうも不安になつてきたからである。實に判り易い事情でせう。こんな場合に素人といふ立場は有難い。併しそれだけだと何だか安直な態度と思はれる。安直なのは事實だから、…

460 化石レンズを使ふ為

ペンタックスM50ミリ/F1.7といふレンズが手元にある。同じペンタックスのM28ミリ/F2.8といふレンズもある。古い冩眞機好きから 「化石のやうだね」 と笑はれさうであつて、またそれは正しい。何しろどちらもプログラム露光に対応しない(絞り値優先の自動露光で…

459 弾み

何の弾みだか、時に和歌が…正しくは和歌の一部が頭をよぎる事がある。たとへば 憶良らは今は罷らむ子泣くらむ それその母も我を待つらむそ の前半部分。六づかしい歌ではない。憶良めはそろそろ帰ります、子供たちが泣いてゐるだらうし、家内も待つてゐるで…

458 きつねいろの誘惑

"コッペパンはきつねいろ"といふ題をご存知の方はをられるだらうか。いや題ではなく…きつと題だと思ふのだが…中身。何となく記憶に残つてゐて、それが絵本なのか童謡なのか、外の何かなのか、さつぱり解らない。などと書いたら、我が先進的な讀者諸嬢諸氏か…

457 時事的な気分

がんらいこの手帖は時事的な話題を取り上げない。正確に云へば取り上げられない。これはわたしの技倆の事情なので時事性が原因ではないと念を押す。併し未だ収まる気配のないのがCOVID-19…(武漢發の)新型コロナ・ウイルスに端を發する諸々で、この稿を書いて…

456 快樂的な大蒜

學名はAllium sativum(何と訓むのか知ら)で、同属にタマネギ、ネギ 、ワケギやラツキヨウ、ニラが含まれる。 詰りニンニク。わたし好みの表記では大蒜。 佛教が厭ふ"五辛"のひとつで、残りの四つもすべてネギ属に含まれる。これらには強壮作用があると信じら…

455 敏感である事

本棚の奥から『間違いだらけのカメラ選び』(田中長徳/IPC)といふ本が見つかつた。"1993年版"となつてゐるが、翌年版以降は記憶にある限り出てゐない。あまり賣れなかつたのだらうな。 卅年近く前の本だから、取上げられてゐるのはすべて、フヰルム式である。…

454 cheeseburgers

外題はたれだつたか失念したが、海外の小説家が書いたエセー集から盗用…訂正、拝借してゐる。それでまづWikipediaにチーズ・バーガーの項があつたから笑つた。何が可笑しかつたのか、自分でもよく解らない。その該当項から一部を引用すると(改行の修正を施し…

453 梅干しを一粒

尊敬する檀一雄の『檀流クッキング』(中広文庫ビブリオ)にかういふくだりがある。 梅干だの、ラッキョウだの、何だか、むずかしい、七めんどうくさい、神々しい、神がかりでなくっちゃとてもできっこない、というようなことを勿体ぶって申し述べる先生方のい…

452 牛丼を考へる

我が國の本格的な食肉史は明治の直前に始まる。一応の区切りでいふと、安政六年…明治改元のほぼ十年前…の横濱開港以降からか。貿易商人が持ち込んだと考へていいが、かれらが何を持つてきたかはよく解らない。当時の日本に牛肉や豚肉を食べる習慣は殆ど無く…

451 花のF

Fの文字を冠するカメラといへば、最初に浮ぶのはニコンである。昭和卅四年發賣。その三年後、昭和卅七年にニコレックスFが發賣され、實はこれがニコンFマウントを採用した二番目の機種(ニコマートは昭和四十年發賣)であつたらしい。但しニコレックスはマミヤ…

450 技倆めし

不意に頭に浮ぶと落ち着かなくなる食べもののひとつに炒飯を挙げたい。作るのはさう六づかしくない。但し旨い炒飯となつたら話は別で、旨いオムレツを作るのに並ぶくらゐの困難があるのではないかと思ふ。単に作るのと美味しく作るのはまつたく別である。両…

449 縄文の塩焼き

ふと気になつたので、鯖の塩焼きの作り方を調べてみた。 先づ鯖の切り身に塩を振る。 暫く置いてから水気を切る。 もう一ぺん塩を振つて焼く。 煎じ詰めるとたつたこれだけで驚いた。本当かと思つて確めると、本当になのでまた驚いた。そこに大根おろしだの…