閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

450 技倆めし

不意に頭に浮ぶと落ち着かなくなる食べもののひとつに炒飯を挙げたい。作るのはさう六づかしくない。但し旨い炒飯となつたら話は別で、旨いオムレツを作るのに並ぶくらゐの困難があるのではないかと思ふ。単に作るのと美味しく作るのはまつたく別である。両…

449 縄文の塩焼き

ふと気になつたので、鯖の塩焼きの作り方を調べてみた。 先づ鯖の切り身に塩を振る。 暫く置いてから水気を切る。 もう一ぺん塩を振つて焼く。 煎じ詰めるとたつたこれだけで驚いた。本当かと思つて確めると、本当になのでまた驚いた。そこに大根おろしだの…

448 特権マウント

公式にはElectro Optical Systemの頭文字でEOSだと記憶してゐる。初代機のEOS650は昭和六十二年發賣。旧國鐵が分割され、アンディ・ウォーホルが亡くなり、利根川進博士がノーベル賞を受賞した年でもある。 わたしが最初に買つたのは初代から三年後に發賣さ…

447 たかがと云ふなかれ

東都人がミンチカツをメンチカツと呼ぶのには未だ馴れないくせに、茹で玉子だとうで玉子…厳密には聲に出すなら"ゆで"で、文字の時は"うで"…と云ひたくなる。何故と訊かれても、好みに属する部分なので、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏にはご容赦願ひます。 一体わ…

446 崩す

この手帖で使ふ画像は殆ど呑み喰ひの際に撮つてある。それについて過日、某氏から 「段々と藝の域に近づいてゐるのではないかね」 と云はれた。お世辞の成分が濃ささうだし、或はふと思つた程度ではないかとも(何しろ具体的な指摘が無かつたから)考へられるが…

445 清楚でも清潔でもない

割烹は割クと烹ルの意。割くのは魚や獸の肉でせうな。どちらも高級な調理法と云つていい。ことに烹るのは高級と同時に贅沢でもあつた筈だ。一定の火力を長時間保たねばならない。またその火力で使へる器を手に入れるのは、かなりの難儀だつたにちがひない。…

444 厄介な紅いあいつ

わたしの経験なんぞ大した事ではないから、そこは差引きの必要がある。東都で滅多に見掛けない食べもののひとつに紅生姜の天麩羅を挙げて、異論や疑念は出るだらうか。薄切りの紅生姜を使ふ。辛みがあつて酸つぱくて、おかずにも饂飩の種にもなる。大坂では…

443 オスカー小父さんの誤算

135判のフォーマットでは50ミリの焦点距離を標準レンズと呼ぶ。ではその標準レンズとは何ぞやと、(辞書的な)定義を知りたくなるのは人情であらう。結論を先に云ふと、明確な定義は無い。"何に対しての標準"なのかが曖昧なのだから当り前である。身も蓋もなく…

442 温故知新の山葵考

山葵が日本原産の植物なのは知つてゐた。併し ・學名:Eutrema japonicum ・シノニム:Wasabia japonica とは知らなかつた。どちらにもjaponの語が含まれるのが象徴的ですな。學名とシノニムの細かなちがひまでは触れない。元は藥(草)として用ゐられたらしい…

441 忠實蒲鉾

たまに蒲鉾を食べたいと思ふ。併し毎日食べたいとは思はない。蒲鉾はさういふ食べものである。幾つかの辞書から解説を引きつつ、取り纏める。 ◾️大きく云ふと 白身の魚を擂り身にし、調味料や片栗粉等を加へて練り、それを板につけ、或は簀巻にし、(時には)…

440 丼王

小學生の頃、國語の授業で 「遠くの大きな氷の上を多くの狼十づつ通る」 といふ一文を教はつた。妙な文であつて、何かと云へばこれは"遠く"、"大きな"、"氷"、"多く"、"狼"、"十"、"通る"の仮名が、現代仮名遣ひではすべて"お"になるといふ意味がある。教科書…

439 西から東の佃

ごはんとお供で作る輪つかと肴の輪つかは、多くの部分が重なる。どちらもお米出身だから、似合ひも近しくなるのだらうか。鯖の味噌煮、若芽と胡瓜と蛸の酢のもの、豆腐と油揚げのお味噌汁にごはんが適ふのは当然だが、お茶碗が徳利或は銚釐に代つてゐても不…

438 八杯

先日何の弾みだつたものか、八杯豆腐といふ名前が目に入つた。豆腐料理なのは当然判つたし、見覚えのある字面でもあつたが、どんな食べものなのかが浮んでこず、取敢ず検索をしてみたら、直ぐに大体のところが判つた。かういふ時に便利ですな、インターネッ…

437 蕎麦を掻く

蕎麦掻きといふ食べものがある。取り急いでWikipediaを見ると 蕎麦粉を熱湯でこねて餅状にした食べ物。 蕎麦粉を使った初期の料理であり、蕎麦切りが広がっている現在でも、蕎麦屋で酒のつまみとするなど広く食されている。「かいもち」ともいう。 と書いて…

436 伝統重んずべし

いきなり、引用。 なほ行き行きて、武藏野の國と下つ総の國との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりにむれゐて思ひやれば、限りなく遠くも来にけるかなとわびあへるに、渡守、はや舟に乗れ、日も暮れぬ、といふに、乗りてわたら…

435 不要不急の八高線

この稿を書いてゐる今、巷間では肺炎の噂が八釜しい。こちらは元が極端な出無精だから、大して気に留めてはゐないのだが、世間が 「不要不急の外出を止めて、マスクをして、嗽と手洗ひは念入りに」 と騒ぐ聲を耳にすると、自分の出無精を棚に置いて、部屋に押…

434 ばら寿司について

仄聞するところだと、岡山のばら寿司はたいへん豪華だといふ。その昔お殿様が 「倹約をせンならンけの。町民の食事は一汁一菜ぢや」 と御触れを出し、それで町民輩が 「一菜なら、お咎めは受けンのぢやらう」 耳打ちしあつたかどうかは兎も角、ばら寿司の具に凝…

433 ハムは肴になるものか

不意にハムと生ハムはどうちがふのか、気になつた。どちらも食べた事はあるし、生ハムは生といふ割に生肉ではないのも知つてゐるが、なら何が異なるのか、そこまで考へた記憶が無い。明宝ハムの[生ハムとハムの違い]から抜粋すると https://www.meihoham.co.…

432 これもまた物慾の

手元にトキナーのレンズがある。 SZ-X28-105ミリ(f3.5-4.8) マニュアル・フォーカスのKバヨネット・マウント。 いつどこで幾らで…そもそも何故買つたのか、さつぱり覚えてゐない。銀塩カメラの主力は二台のリコーで、リコーの一眼レフはKバヨネット・マウン…

431 ハポンなチリー

辞書でチリー・ソースを調べると、chili sauceと綴る。ざつと"トマトに唐辛子などの香辛料、塩や砂糖、酢、更に玉葱や大蒜やセロリーを加へ煮詰めた"ソース。 ここで云ふ唐辛子(序でながらナス科の植物。トマトやタバコの親戚でもあるさうです。知らなかつた…

430 ミンネザングで詠ふ餅

頴娃君はわたしの友人であり、醉つぱらひ仲間であり、ニューナンブの構成員でもあり、『プラトンの洞窟』といふウェブログを持つてゐる。その中の[タンホイザー]に https://lapislazuli.exblog.jp/28842024/ 梅まつりの時だけは、お餅は肴に。 といふ一文が…

429 不便な食堂車

内田百閒や吉田健一の随筆を讀むと、屡々食堂車といふ言葉を目にする。いちいち引用はしない。今は無いらしい。お座敷列車などの名前で走つてはゐるから、無いと断言するのは極端かも知れないが、当り前に運行してゐる列車には連結されてゐないから、滅んだ…

428 ジェンキンス・エグス

煎り卵とスクランブルド・エグスでは、頭に浮ぶ姿が随分と異なる。前者は塩胡椒で堅めに炒めた感じで、後者だとバタやクリームでふはりと仕立てた感じ。それぞれは定義といふか、作り方で呼び名もちがつてくるのだらうと思ふ。『宇宙の戦士』(ロバート・A・…

427 赤羽ガンマン

先づ地名について[日本大百科全書]から引くと ◾️赤羽(アカバネ) 東京都北区の北部(中略)、江戸時代は赤羽根と記し、この一帯に赤土が多く赤埴といわれたことが地名の由来ともいう(中略)江戸時代は岩槻街道(日光御成街道)筋の寒村であったが、千八百八十七年(…

426 棒喰ひ

出してもらへれば食べるとして、自分から積極的には食べない…さういふ食べものの代表格に海老を挙げたい。積極的に食べないだけで、口にしたら旨いとは思ふ。例外は早鮓やお刺身の甘海老くらゐか。併し無いなら無いで平気だから、海老全般に冷淡なのだらう。…

425 消費の一種

どうも整理が苦手でいけない。使はなくなつたら処分すればいいのに、がらくた箱にはふり込む惡癖があつて、忘れた頃に、何故こんな物が残つてゐるのかと驚く事がある。 画像もそれで、見ての通り、VistaQuest(VQ1005)といふ玩具デジタル・カメラ。序でに記す…

424 無頓着

概してわたしはお酒(ここでは日本酒を指す)に無頓着であるらしい。好きな銘柄が無いわけではないし、呑むのだつて決してきらひではないけれど。 「そんなの、前から判つてゐるよ」 と笑ふひとは、以前からの讀者にちがひない。この場を借りて、御礼を申し上げ…

423 好事家の玩具

ニコン1といふカメラがあつた。訓みはニコン・ワン。ニコワンなどと省略されもしましたな。一インチのセンサーを採用したレンズ交換式のミラーレス・カメラで、ニコンでは"レンズ交換式アドバンストカメラ"と称した。何故だかはよく判らない。最初に上位機種…

422 旧い友人曰く

過日、旧い友人と呑んでゐて、カメラの話になつた。以前なら、どこから出たあの機種は、と新製品について、ああだかうだと云ひあつたものだが、さういふ熱狂とは縁遠くなつた小父さんふたりである。 「どうやつて、持ち出すカメラとレンズを最小限に纏めれば…

421 はしご

梯子で呑まうといふ話になつた。ニューナンブの頴娃君が多摩某所での酒席を予約したので、それに乗る趣向である。 起床五時半。 珈琲とヤマザキのロールケーキで朝めしとする。平日はこんな時間に起きるなど、ぜつたいに出來ないのに、人間の躰は不思議なも…