閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

507 寒くなつたら

定食を平らげ、その辺を歩いてから。 夜はおでんと焼鳥で、地酒を一ぱい。 もしかすると、二杯か三杯も。

506 誘惑、また

迷ふのも、味のうち。 罐麦酒を、片手に持つて。

505 好きの話は六づかしい

世界史を俯瞰して、何となく好きなひとをひとり挙げませんかと訊かれたら、わたしは多分、カエサルの名前を出す。洋の東西を問はず、尊称が個人と結びつく例は、三藏(玄奘三藏)や大師(弘法大師)で見られるけれど、苗字が個人を指し示す例は少ないと思ふ。こ…

504 誘惑

迷惑。 と断ぜられない我が心の弱さ。

503 リリパット・ブレックファスト

尊敬する内田百閒は日に一ぺんしかお膳につかなかつた。本人がさう書いてゐたもの。正しそれは一日一食でなく、お膳を用意して食べるのが一ぺんの意味。朝は英字ビスケットやら果物と牛乳、晝はもりかかけ(麦めしに塩辛い鮭や梅干やたくわんのお弁当を用意し…

502 ある晩突然どうしても

ある晩どうしても焼き餃子が食べたくなつた。かういふ突然の慾求はたちが惡い。 近所のマーケットに行けばパックに入つたのを賣つてゐるがそれだと寧ろ我慢出來なくなるだらう。 冷凍ものを食べる気持ちにもなれない。 無理をして我慢して食べると腹が立つて…

501 本の話~いのちの顔料

『梟の城』司馬遼太郎/新潮文庫 天正九年…西暦でいへば千五百八十一年、伊賀の忍びは織田信長麾下の軍勢に擂り潰された。伊賀天正ノ乱と呼ばれる戰である。辛うじて生き延びた伊賀衆が信長にうらみを抱いたのは云ふまでもない。併し伊賀忍は自らの手で本懐を…

500 イホ

歴史的仮名遣ひの表記である。發音は"io"、漢字で書くと五百。音は五(i)/百(o)に分解出來る。五百羅漢なんて云ひますな。この場合、はつきりした数といふより、漠然とした大きな数字と考へるのが正しい。 ある俳人が自撰の句集に『五百句』と附けておいて、…

499 好きな唄の話~Out of Blue

我われのご先祖はエロチックな話題が好きだつたし巧くもあつた。前者は今でも同じとして、後者はさて、どうだらうか。卑語を使はずにさういふ話をする為、ご先祖は和歌狂歌や發句川柳を活用した。詰り何かにかこつける思はせぶり…暗喩の技法である。といふこ…

498 好きな唄の話~元祿名槍譜 俵星玄蕃

日本人はどうして忠臣藏を甚だしく好むのだらう。その疑問に、丸谷才一は"御霊信仰"と"カーニヴァル"といふ一見よく判らない組合せで、併し鮮やかな解を示した。詳しいところは『忠臣藏とは何か』をご一讀あれ。納得するかどうかは別として、何故を突き詰め…

497 好きな唄の話~韃靼人の踊り

モンゴル帝國がロシヤの広範囲を支配に置いたざつと二世紀半を、ロシヤでは"タタールの軛"と呼ぶ。司馬遼太郎の云ふ遊牧帝國の群れが、暴風雨のやうにユーラシアを駆け抜けた時代と云つてもいい。軛と呼ぶ以上、ロシヤ人にとつて、誇らしい歴史ではない。但…

496 好きな唄の話~天国列車で行こう

永井豪といふ漫画家がゐる。元天才。かう書くと激怒するひとも出るだらうが、天才にすらなれない漫画家が殆どの世界で、天才であつた事實は凄いことなのだと云つておく。序でに讀むなら、『デビルマン』(但しオリジナル版)は勿論、『手天童子』にも目を通し…

495 好きな唄の話~夜歩く

筋肉少女帯のアルバムで一ばん完成してゐるのは『サーカス団、パノラマ島へ帰る』ではないかと思ふ。ことに冒頭、[ビッキー・ホリデイの唄]から[詩人オウムの世界]は大槻ケンヂの猟奇好み、乱歩趣味がちやんと唄物語になつてゐる。今確かめたら發賣は平成二…

494 好きな唄の話~ガラスの天球儀

涙の雨が降る天球儀の中を、走れ君のレイン・コート、さう呼び掛けるのである。 (これはもう、ジュブナイルではないか) ジュブナイルとは何ぞやと訊かれたら応じるのは六づかしいが、少年の冒険小説…いや冒険の物語と(ここでは)(一応)云つておかう。今でもあ…

493 好きな唄の話~Oh!クラウディア

古代のローマ人は個人の名前に無頓着だつた。たとへばセクストゥスを日本語にすると六郎くらゐの意味。そのくせ渾名は好きで、アフリカヌス(大スキピオ)やフェリックス(スッラ)、マーニュス(ポンペイウス)辺りは有名でせう。外にもファビウス(愚図、鈍間が転…

492 野菜を焼く

串焼きは以前から好物である。 以外と古くない調理法ではないかと思ふ。串はそのまま、肉や魚や貝や野菜を焼くには、火力の適切な調整が必要で、 さういふ設備を調へるのは困難だつたらうといふのが理由のひとつ。串を焼かず、肉や魚貝や野菜に火を通すには…

491 殿上人もご存知ない

麦酒。お酒。葡萄酒。焼酎。泡盛。ヰスキィ。ウォトカ。わたしが主に呑む酒精はおほむねこんなところで、念を押すと葡萄酒にはシェリーやコニャックも含まれるし、焼酎は黒糖米麦芋を纏めてあり、ヰスキィにはアイリッシュもスコッチも入つてゐる。それぞれ…

490 麦酒を下さい

内田百閒は冬の麦酒を好んだといふ。"味が引き締つてうまい"のださうで、そんなものなのかなあと思ふ。[たいめいけん]の初代は常温…温めた麦酒を好んだらしい。温かい麦酒が旨いのかどうか。確かに醸造の中でお湯を通しはするけれども。エセーの中で初代は、…

489 ポテト・サラド呑み屋

廉な呑み屋で外れ(る心配の少)ないつまみと云へば、煮込みとポテト・サラドが双璧である。わたしは大体の場合、どちらかを註文する。両方同時に註文したことはない。煮込みとポテト・サラドを同時に註文すべきではないといふ規則があるわけでなく、自分にさ…

488 胡椒を削つて

先日、近所の定食屋で"鶏肉と茸の黑胡椒炒め定食"といふのを食べた。實に判り易い名附けだから、その辺の説明は省略して、鶏肉よりその脂を吸つた茸の方がぐつと旨かつたことは特筆しておく。 ところで普段なら品書きに"胡椒"とあつたら敬シテ遠ザクのが習性…

487 本の話~予告篇

過日、やうやく『梟の城』(司馬遼太郎/新潮文庫)を讀み了へた。耻づかしながら初讀である。 久しぶりに、本当に久しぶりに、小説を讀む昂奮を存分に味はへた。 率直に云つて手放しの賞讚は出來ないけれども、それはそれである。なので"本の話"で取り上げたい…

486 カーテン・コール

独りで呑みに行くのに躊躇ひを感じない。小さなお店の暖簾(があれば)をひよいとあけて 「よ御坐んすか」 さう聲を掛けて、どうぞと云はれたら、隅の方に坐る。乃至立つ。それでたとへば金魚を下さいなど註文をすればよい。金魚は大葉と唐辛子をあしらつた焼酎…

485 うつかり(續々)

併しレンズは肴にするより使ふのが本來である。お酒を四杯呑んでなほ余裕があつたわたしは撮れるものなら何枚か撮る積りになつて、ふらりと歩いた。夕方の残照が間もなく夜にならうとする時間帯は、ひとの動きの緊張がほぐれてゆく時間帯、盛り場が目を覚ま…

484 うつかり(續)

前回の[うつかり]で、パナソニック製レンズを入手したと書いた。時系列で云ふと今回はその直ぐ後になる。一体わたしはカメラに関はる何かしらを買ふのに慎重で、ひとつには慌てて手に入れなくても、平気ぢやあないかと考へるからなのだが、それ以上に購つた…

483 うつかり

結論を先に云ふと、パナソニック製のG14ミリ/F2.5レンズを買つたのが、うつかりである。衝動買ひではない。以前からあればよからうと思つてゐて、この手帖でもなんどか触れた記憶がある。Ⅰ型と呼ばれる旧式の方。Ⅱ型は外観がちがふだけで、中身は同じださう…

482 アンテナのあつち側

夕焼けのアンテナのあつち側では "帰ってきたウルトラマン"が 怪獸と闘つてゐる 今

481 ふはふは

前回の[マイコン]で中古でhpのパーソナル・コンピュータを買つたと書いた。買つて使ひ始めて、思つてゐたより常用してゐるau版のAQUOS sense3で、十分ではないにしても、どうにかなるものだと気が附いたから少々戸惑ひを感じてゐる。今のところ、外附けのハ…

480 マイコン

中學生の頃はマイコンと呼んでいた記憶がある。或日父親が突然買つた。日本電気のPC8800系統だつたと思ふ。曖昧な記憶だが、BASICで記録媒体はカセット・テイプを使つてゐた筈だ。その何年か後に自分でも買つた。EPSONが出してゐたNEC互換機。MS-DOSの3.0だ…

479 無精式の豆腐

蒸し暑くなると食慾が減退するのは毎年のことで、それを何で實感するかと云へば、お米を炊く機会がぐつと減る。 (まあ今日は麺麭でエエか) 麺麭が豆腐になることも素麺になることもあつて、詰りさういふ気分を感じると、(わたしにとつて)一ばん厭な季節が始…

478 本の話~番外篇

手元に『アメリカ素描』といふ本がある。新潮文庫。著者は司馬遼太郎。奥附を見ると平成元年四月廿五日に第一刷。同十年九月晦日に廿三刷となつてゐる。単行本は昭和六十一年に讀賣新聞社から發行された。定価は消費税別で六百九十二円。尤もわたしは古本で…