閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

719 好都合

(寄席や寿司屋辺りで)(お客が脱いだ)下駄や草履の類を下足と呼んだ。ゲソクと訓む。元は履物自体を指してゐたのが足の意に転化して、更に烏賊の足の隠語になつた。その間のどこか、或はその後でゲソクからクが落ち、ゲソになつたといふ。従つて烏賊のゲソも…

718 汁もののひとつに

冬の時期の食事に、あつて必ず嬉しいのは汁ものだと、これはまあ断言しても反論はされまい。お味噌汁でも粕汁でも豚汁でも、或はポタージュ、範囲を拡げて雲呑や水餃子。何にせよ嬉しく好もしく、また望ましい。具がたつぷり入つてゐれば、ひと椀で食事が完…

717 小さな一品

日本に伝はつたのは五世紀の終り頃といふが、信用は六づかしい。長葱の話である。我が國の記録で最もふるい時期に記された葱の文字は『日本書紀』に見られるさうで、成立した年代を考へれば、矢張り怪しい。併し公的に記録されたくらゐだから、ありふれた野…

716 赤くて辛くて旨いやつ

どこだつたか、確か福島だつたと思ふが、實にうまい。 麺の上に乗つてゐる赤いやつ。 すりおろした生姜と(多分)唐辛子を混ぜてどうかしたやつの壜詰でからい。 鍋ものや湯豆腐の藥味は勿論、蕎麦やにうめんに乗せてよく(にうめんなら、温泉卵を落としたい)、…

715 丸太花道、東へ

東に下らねばならない。下りたいのかと訊かれたら、さうでもないと応じなくてはならず、併し厭だとは思はない。要は二週間と少し、大坂の家で過した結果、無精ものの性根が顔を出してゐる。一方で東にはよい友人がゐて、旨い呑み屋もあり、恋しくないと云へ…

714 令和四年が開いた話

母方の祖父母が存命の内は、毎年正月二日に親族が集まるならはしがあつた。帰りに最寄り驛近くのレコード屋で、コンパクト・ディスクを買ふのも習慣だつたが、祖父母が西方浄土に行つて、そのならはしもお仕舞ひになり、箱根驛傳の見物が取つて代つた。勿論…

713 長閑な春

出羽櫻(純米吟醸無濾過生原酒)をお屠蘇に、お澄しでお餅を三つ、煮物に蒲鉾に黑豆、それから棒鱈。 寅年の正月元日、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏に、新年の御挨拶を申し上げる。 天が下 のどけき春の お餅かな 寅も肉をば 啖ふを忘るる

712 令和三年を〆る筈だつた話

知りあつたのが中學生二年生の頃だから、もう四十年になると気が附いて、少々驚いた。知人のエヌのことである。中學校を卒業してから、異なる進路を進み續け、わたしは東京に棲息し、あちらは加西に長く単身で赴任してゐる。それでも現在に到るまで年に一度…

711 丸太花道、西へ(後)

ところで大坂に帰る以上、カメラは持たねばならない。年末の一日、友人とぶらぶら歩きをする時に使ふからで、何を持つて帰らう。確定してゐるGRデジタルⅡだけだと不安を感じなくもない。例年だと三台あるマイクロ・フォーサーズのどれかに、レンズを一本か二…

710 丸太花道、西へ(前)

師走の廿四日金曜日に、西へと上る。その前に、中野で呑んだ話。 「そろそろ、大丈夫ではないか知ら」 と意見の一致を見たからで、二年半か三年ぶりくらゐに、ある女性と酒席を共にすることになつた。我われの定席は都立家政なのだが、丸ちやん(とその女性から…

709 冬の曇り

当り前の心得として晝間は呑まないことにしてゐる。但し用意されてゐたら、それは不本意であつても、その気遣ひに敬意と感謝を示す意味で呑む。また旅行先や(特別)急行列車に乗る時は、当り前から外れた時なので、心得の前提からも外れる。だから呑む。かう…

708 饗宴(贋)

吉田健一の『酒肴酒』といふ随筆集(光文社文庫に入つてゐる)に、「饗宴」と題されたやや長めの一篇がある。胃病で飲食に不自由した時に想像する、"もの凄いご馳走の夢"に就ての一文で、實際と経験と妄想が入り交つた、随筆なのか何なのか、兎に角讀んでゐる内…

707 曖昧映画館~機動警察パトレイバー the Movie

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 平成元年公開だから、令和三年から卅年余り遡つた頃の映画として観る必要がある。 平成三年、Windows3.1發賣。 平成七年、Windows95發賣。 当時のパーソナル・コンピュータのOSはMS-DOS 4が主流(参考までに云ふと…

706 曖昧映画館~水戸黄門漫遊記 怪力類人猿

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 YouTubeに東映EXTREMEチャンネルといふのがある。そこで、期間限定での公開時、何の予備知識も無しに観た。題名に惹かれたからなのは、云ふまでもない。水戸の老公と類人猿(然も怪力)の組合せですよ。酷い題名だが…

705 曖昧映画館~激突 将軍家光の乱心

記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。 平成元年公開の当時、映画館で観たと思ふ。観たかつたからではなく、何かの都合か弾みだつた筈だ。期待してはをらず、だから面白く観ることが出來た…と思ふ。尤も後日に観直す機会があつて、何とも微妙な気分にな…

704 魅惑の柳葉魚

この稿を書く前に調べたら、日本の固有種なのだといふ。分布は北海道の一部。川に生れて海で育ち、川に還る。語源は"シュシュ・ハム"…アイヌ語の"楊ノ葉"にあるらしい。楊が柳になつた経緯は判らないが(親戚の植物ではある)、ほぼ原意そのままを漢字で宛てて…

703 クリーム・シチューを懐かしむ

もう何年も、或は何十年も、クリーム・シチューを食べてゐない。ビーフ・シチューはざつと卅年余り、無沙汰をしてゐるから、それより長いのは間違ひない。 先にビーフ・シチューの話をすると、初めて食べたのは平成元年、千葉県の市川市にあつた、[ヨシカミ]…

702 本の話~購入と分解

『田宮模型の仕事』 田宮俊作/文春文庫 ポルシェの模型を造りたい。 さう考へてシュトゥットガルトまで飛んだ筆者は、組立て工程を見學して、綿密に取材を重ねたけれど(都合七回に渡つてドイツに行つたさうだ)、ボディ・シェルやエンジンの骨格が判らない。…

701 同盟

メロンパンの何が、或はどこがメロンパンなのだらう。メロンのやうな見た目だから、メロンパンなのですよと、我が親切な讀者諸嬢諸氏は教へてくれる筈で、おそらく正しいのだらう。併しそのメロンは、我われが頭に浮べるムスク・メロンではなく、眞桑瓜だよ…

700 昭島どんたく

序~当然の如く 東京都の西側、旧國で云ふと武藏國多摩郡に昭島といふ市がある。周りには八王子立川福生日野の各市があつて、そこに較べれば、市民と市長には申し訳ないが、地味ですな。ただ地名と昭島驛の名前は、以前から知つてゐた。先に行けば羽村青梅沢…

699 拡散するごはん

我われが"ごはん"と云ふ時、そこには幾つかの意味が隠れてゐる。先づ白米を炊いたの。一ばん狭い(もしくは厳密な)意味での"ごはん"と云つていい。そこにお味噌汁や焼魚、お漬物も含めた、伝統的な食事…ご膳を"ごはん"と呼ぶ場合もある。もつと広く、白米の有…

698 未だ経験せず

半世紀余り生きてきて、出前を註文したことがない。饂飩も蕎麦もラーメンもかつ丼も親子丼も、出前で運ばれるのを見たことがなくて、いや正確には、岡持ちをぶら下げた自転車やスーパー・カブを外で目にしても、それが遂に家にまでやつては來なかつた。だか…

697 おでん美田

いつだつたか。 美田とおでん。 いつになるか。 おでんに美田。

696 廉な蕎麦の樂み

画像は吉田健一風に云へば、かけに生卵と天かすをのせたやつ、である。あの旅行を好んだ批評家兼小説家兼呑み助兼喰ひしん坊は、急行列車の途中驛の停車中に、構内の立ち喰ひで蕎麦を啜つたりしたらしい。当り前に考へたら、驛の立ち喰ひ蕎麦なんて、さほど…

695 知つたこと

夕暮れ、残照の風景が好きなモチーフである。 と書いて不意に、そもそもモチーフはどんな意味かと気になつた。取急いでコトバンクを参照すると、幾つかの定義があつたので、わたしの責任で一部を端折りつつ紹介する。 https://kotobank.jp/word/%E3%83%A2%E3…

694 レインボー・ライン

いつ撮つたか忘れた、といふのは嘘で、画像の情報を確めるのを怠けたに過ぎない。随分以前なのは間違ひなく、大慌てで撮つたのは記憶にある。自然現象は油断すると直ぐに失せて仕舞ふ。その画像を加工したのがこれで、何か一文を草する積りだつた。思ひ浮ば…

693 保守的の例外

コンヴィニエンス・ストアでは食べものを殆ど買はない。 普段なら煙草と精々がライターか。 それでも偶か稀か、兎に角何ともかとも、面倒で堪らない時には便利だとも思ふ。その何ともかともは、眞夏に感じることが多くて、そんな時に冷し麺の類を買ふ。麺を…

692 残照好み

一日の中で好きな時間帯がありますかと訊かれたら、夕方と応じるのに躊躇はない。陽が落ちて、落ちきらない…薄つすらと晝があつて、夜に移らうとする残照の辺りがいい。気の早い路地では、ぽつりぽつりと灯りが点つて、何と云ふのか、自分ひとりの時間がやつ…

691 宙ヨリ來ル

宇宙人ガ襲ツテクルゾ キツト…タブン…サウヂヤアナイカナ

690 日替りを待つ

令和二年霜月。 この月は火曜日のが、出色の出來だつた。 令和三年霜月。 残念ながら日替りは、再開されてゐない。