閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

781 幸せな三位一体

毎度同じ話を繰返すみたい、というより、實際繰返しているのを気にせず云うと、呑むのと食べるのはわたしの場合、ほぼ一直線に結びついている。旨いものを食べたら呑みたくなるし、摘みのない酒席なぞ考えたくもない。それが人情の正しい發露だし、呑み助に…

780 一行で書け

"白身魚フライと海苔おかか弁当"とか、そんな名前だった。五百円くらい。 「白身魚のフライに海苔とおかかの弁当って、すりゃあ見れば判るさ」 と肩を竦めたくなる程度に、そのままの名附けで、コンビニエンス・ストアだけではなかろうが、安直ですなあ。尤も…

779 波の姿

お酒を呑む…ここでは日本酒を指している…以上、肴を欠かすわけにはゆかない。酒肴という素敵な熟語もあるくらいで、お酒と肴は金剛界と胎藏界のように、不二と云える…と書いたら、お大師さまの周辺から咜られるだろうか。併しうまいお酒は肴を呼び、佳い肴が…

778 機會

画像は過日、呑み仲間の女性と共にした久しぶりの酒席で註文した、紅生姜の串焼き。以前に別の呑み屋で、紅生姜の串揚げを食べたが、東都で紅生姜を使った摘みは滅多に目にしない。頼んでみない手はないと思った。出たのがこれだったから、少々驚いた。品書…

777 シヤワセのハムカツ

ハムカツは正しいんである。 これはまったき世界の眞實。 何と云っても旨いんだから。 正直、ごはんのおかずにはなりにくい。 おやつに食べるのも些か、無理がある。 併し麦酒や酎ハイの傍にあると、こんなに嬉しいお摘みも見当るまいと思えてくる。 とんか…

776 コローキアルなハム・サンド

ある朝、詰り仕事の前なんですが、家でトーストを食べるのが億劫になったので、通勤の途中にあるコンビニエンス・ストアに立ち寄ったわけです。何を食べるか数秒間迷いまして、撰んだのが二百七十円のハム・サンド。仕事場に用意された休憩所で食べたんです…

775 閃き

發祥に色々の説はあるらしいけれど、そこは触れない。わたしの印象だと、揚げた鶏肉を甘酢に漬け、タルタル・ソースを添えた料理が、チキン南蛮である。うまいですな。ごはんと一緒でいいし、麦酒にも合う。数ある鶏肉料理で番附けを作ったら、横綱大関は難…

774 ユル

弛緩といふ熟語はどちらも"ユルム"と訓める。 心理肉体の張り詰めた感覚。 世間さまの締めつけの感覚。 さういふのがほぐれる気分を示してゐる気がする。堅苦しく"シカン"と訓むより"ユルム"方が、語感に適つてゐるのではないだらうか。 と始めたのには、ち…

773 列車と習慣に就て

列車と云ふのだから、通勤電車とはちがふ。通勤電車にだつて習慣があるのは勿論として、何時何分どこ驛發の何輌目の何番扉辺から乗るとか、そんなところでせう。後はスマートフォンでニューズや天気予報を確めるとか、眞面目な會社員ならメールその他のチェ…

772 "ギャラリー 居酒屋"に就て

飲み屋というものがいかにありがたい存在かということは知っている。画家が自分の絵をならべて個展をするように、飲み屋というのはあるじ自身の人間の個展なのである。人はその人間に触れにゆくわけで、酒そのものを飲むなら、自動販売機の前でイスを置いて…

771 新書に就て

新書と呼ばれるやや縦長の形態の本がある。直ぐに思ひ浮ぶのを挙げると、岩波中公講談社辺りか。文春や集英社や新潮にもある。他にもある筈だが、よく判らない。 小學六年生の時に買つた講談社が、初めての新書だつた。著者も題名も忘れた。ノアの洪水伝説に…

770 東下御用列車

西上は游び。 東下は所用。 北上と南下を考へないのは、普段或は定期的に北上も南下もしないからである。東京を起点に北上南下したら、どこになるだらう。暇な夜の肴として考へることにする。 「取つとらンのか」 と父親が云つたのは、御用新幹線の切符の話で…

769 大坂の食卓に

父親は食卓に細々乗つてゐないと、不機嫌になる。それも全部食べるとは限らない。お箸はつけるが、満足したらお仕舞ひになる。惡い癖だと思ふ。幼少の一時期を朝鮮半島(平壌かその近郊らしい。詰り事と次第でわたしは今ごろ、偉大な指導者萬歳を叫ぶ男となつ…

768 大坂の棚の奥から

大坂の家の棚の奥に、オートメーターⅣFと、そのアクセサリが埋れてゐた。 若い讀者諸嬢諸氏は御存知なからうから云ふと、乾電池で動く単体の露光計。 画像には無いが、共に立派なケイスに入つてゐた。 いつ頃、何の目的で買つたものか、丸で覚えてゐない。マ…

767 大坂の本棚に~ライカの本

アサヒカメラ別冊が二冊と写真工業出版社の本が二冊。 四半世紀ほど遡つた時期、ライカが慾しくて仕方なかつた頃があつた。併しライカのことは何も知らない。何もと云ふのは不正確で、ふたつは判つてゐた。 第一に色々の機種があること。 第二に諸々が高額で…

766 大坂の本棚に~街道をゆく

司馬遼太郎/朝日文庫 この小説家を知つたのは、小學校の五年生か六年生の時に讀んだ、文春文庫の『竜馬がゆく』だつた。母親の本棚から勝手に持ち出した。幕末史…もつと大きく、近世の日本史といつてもいい…には無知だつたのは当然で、併し熱中して讀んだ。…

765 大坂の本棚に~コンパクト・ディスク

世の中にコンパクト・ディスクがあつたことを知つてゐるひとは、ひよつとして古老の部類になるのだらうか。 一体わたしは臆病なたちなので、新しい技術には中々手を出せない。それだものだから、デジタル式のオーディオ・プレイヤーに飛びつけないまま(いや…

764 大坂の本棚に~上橋菜穂子

"守り人"のシリーズなど/新潮文庫 母親には少女小説趣味がある。村岡花子が訳した"赤毛のアン"に夢中だつたと云ふくらゐで、後は歴史小説(司馬遼太郎)と探偵小説(クリスティとクィーン)さういふ趣味の持ち主にとつて、上橋菜穂子は好感を抱くに足る小説家だ…

763 大坂の本棚に~ちくま日本文学全集

日本の文學者たち/筑摩書房 少し豪華な装訂の、まあ文庫本と云つていい。 一冊千円で全五十巻。筑摩はよく全巻を出せたと思ふし、わたしもよく全巻を買つたと思ふ。尤もほぼ、目を通してはゐないのだけれど。 画像は第三回配本の第三巻、内田百閒で、平成三…

762 大坂の本棚に~一夢庵風流記

隆慶一郎/読売新聞社 初版は平成元年。手元のは翌平成二年の第十刷。 天下の奇人…傾奇者、慶次郎前田利益を主人公に云々と説明するより、漫画『花の慶次』の元になつた小説、と云ふ方が通るかも知れない。中身については後日、"本の話"で触れることにする。 …

761 大坂の本棚に~ドリトル先生 アフリカゆき

ヒュー・ロフティング/井伏鱒二 訳/岩波書店 "ドリトル先生"ものの第一巻。"ドリトル先生物語全集"の第一回配本でもある。 菊判。クロース装。上製函入り。製本が立派な上、ロフティングじしんが描いた挿絵も収めてある。 これだけでも十分に贅沢なのに、井…

760 西上臨時列車

五月の二日と六日は平日だが休みになつた。 それで四月廿九日から五月八日まで、十日間の連休が出來ると気が附いた。 成る程と思つた。 何に納得したのか、我ながらよく解らないけれど、成る程と思つたのだから仕方がない。 成る程と思ひながら確めると、こ…

759 時と場合の半熟卵

うで卵は堅茹でをもつて佳とす。 と思つてゐる。 原則としては。 念を押した理由は、画像から易々と推察出來るでせう。 経験的に云ふと、にうめんやカレー・ライス、それから丼ものにあはす場合、生卵より半熟卵の方がうまい。 いや私は断然、生卵派ですと反…

758 メモ帖

ミドリカンパニーのDiamond memoといふのを買つた。二重リング式のメモ帖で、百五十円くらゐ。何の為かと云ふと、メモの為であつて、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は 「だから何をメモするのだ」 きつと呆れると思ふ。後でちやんと話はしますから、少し辛抱してく…

757 結び目

イタリー人曰く、小麦を粉にして捏ねて麺状にするのは、イタリーの技術で、それが東へ東へと伝はつたのだと云ふ。我われが愛好する饂飩やラーメンの類を遡ると、あの長靴の姿の土地に辿り着くことになる。 一方、話は逆で、中國大陸から西へ向つたのが、實態…

756 曖昧映画館~別館

記憶に残る映画を記憶のまま、細切れに書く。 昔…さうですな、昭和の末期辺りだから、四十年近く遡つたくらゐ…、巷間にはポルノ映画館といふ建物があつた。ピンク映画とも云ひましたな。秘密の上映會に掛つたのはブルー・フヰルムと呼ばれた筈だが、そつちに…

755 何とかなる

困つた時はコロッケがあれば何とかなる。 何とかなると思ふのは、コロッケが身近に感じられ、またありもするからで、念を押すとクロケットではない。わたしが云ふのは、明治後に輸入された調理法に手を加へ、変貌したコロッケを指す。大雑把に 馬鈴薯。 少量…

754 好きな唄の話~ハレルヤ

泉谷しげると云へば不良爺である。 それも青臭ひ不良爺。 ほら、"新しい"思想とやらに、うつかりかぶれた若ものがゐたでせう。かれらを纏めて煮込んで、出來あがつた人物像が、そのまま爺になつた感じがする。 多くの…殆どの場合、現實のさういふ人物は、自…

753 本の話~記されぬ人びと

『エーゲのタタール』 G.マスペッロ(著)/河内明美(訳)/明民書林 三千年余り前の東地中海。 有名人の名を挙げると、エジプトのファラオ・ラムセス二世の統治から、百年かそこら過ぎたくらゐの頃(ユーラシアの東端に目を向ければ、大陸では殷朝の後期。我が日…

752 祟りぢや

室谷信雄といふ喜劇役者がゐた。吉本新喜劇のひと。おつむりが少々さみしくなつたのを種に 「祟りや…玉葱の祟りや」 と嘆くのが名物で、平参平の"あーほー"や、桑原一男の"神さま"、原哲男の"だれが河馬やねン"と共に、ある年代の大坂で少年だつた、詰りわたし…