閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

768 大坂の棚の奥から

 大坂の家の棚の奥に、オートメーターⅣFと、そのアクセサリが埋れてゐた。

 若い讀者諸嬢諸氏は御存知なからうから云ふと、乾電池で動く単体の露光計。

 画像には無いが、共に立派なケイスに入つてゐた。

 いつ頃、何の目的で買つたものか、丸で覚えてゐない。マニュアル・フォーカスのカメラに凝つた時期、折角だから、かういふのも持たなくちやあいかんとか、そんな風に考へたのだらう。軽薄である。

 併し何故オートメーターだつたのか。露光計なら、セコニックやゴッセンといつた、専業の會社があつたのに。

 多分…自分のことだが前後を忘れた現在、多分と云はざるを得ない…使ひ易さうなデジタル式であり、カメラ・メーカーが造つた唯一の露光計だつたからではないか。わたしの知る限り、ニコンペンタックスも、かういふ単体露光計は出してゐない。

 ただミノルタは、自社製品の為に、オートメーターを出してゐたわけでなからう。露光計を搭せてゐないカメラを使ふひと…その中にはたとへば、ミノルタのオートコードなどもあつたらうが…向けに、用意し續けたと考へたい。

 詰るところ、カメラとレンズから生れる冩眞…表現や文化になり得るものへの敬意が、會社の底流にあつた。そんな風に想像する方がなだらかな気がする。仮にキヤノンに同様の製品があつても、もつと早いどこかの時期でばつさり、切り落したにちがひない。

 ミノルタは立派な會社だつたと思ふ。