閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1068 春野菜を満喫した後

 野菜の前に四季の冠をつけ、一ばん旨さうに感じるのは、春であらう。瑞々しさ、新鮮さ、やはらかさと甘み、香りの高さを束ねたやうな語感が、春野菜の三文字にはあつて、その春野菜を使つたちやんぽん麺なのだから、大きに期待して註文したのであつた。

 画像で見ると、端的に云つて、地味の一言に尽きる。實際は鼻孔を擽る湯気が立ち上つて、何とも嬉しい心持ちになつたのだが、かういふ場合、静止画像は不便でいけない。

 ソップを一口。

 麺をひと啜り。

 それから春野菜をば、ひと嚙み。

 刻んだ鳴門巻き、貝の剥き身、海老まであしらはれて、まことによろしい。

 更にソップと麺と春野菜を蓮華に乗せたのを纏め、開けた大口にはふり込めば、もつとよろしい。このお店の麺には酢が適ふのを思ひだしたので、数滴垂らしたら、もつと佳くなつた…ここは好みだから無理強ひは控へませう。

 

 春野菜を満喫して、御馳走さまを云つた。お店を出て、その春野菜を摘みながら、麦酒をやつつける手があつたのにと思つた。