閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1066 GRⅢ、派生機に就て

 考へてみると、GRⅢには派生機が多い。street、dairy、それからurbanと銘打つた外観ちがひ。レンズを四十ミリに変更したGRⅢxと、更にその見た目ちがひ。叉ソフトウェアの新設だか変更だかを施したモデル(HDFと呼ぶのださうな)を出すさうで、かういふ展開が出來るのは、GRⅢの特異さ…記憶にある限り、他はライカM6くらゐ…を示してゐると思ふ。人気があつて、且つ評価もされてゐるのだなあと、愛用者としては嬉しくなる。

 一方でさう無邪気に喜んでいいのかとも思はれる。何故かと云ふに、GR初代の發賣が平成廿五年、GRⅡは平成廿七年の發賣。そしてGRⅢは平成卅年發賣。二乃至三年の周期で新型が用意されてゐて、これはGRデジタルの頃から、ほぼ変らず…詰り伝統と云つていい。それが令和六年の今に到るまで、GRⅣの噂は聞こえず、影も感じられない。代りに出たのがGRⅢxであり、これから出すHDFと見ることは出來、ぢやあそれは、何を意味するのだらう。

 今の技術でGRⅢからの大きな改良は六つかしい。

 リコーはさう考へてゐるんではなからうか。たとへばEVFの内藏。或はズームレンズや可動式液晶画面の採用。技術的な面はさて措き、それらをGR系のスタイリングに取り込むのは、相当な困難と容易に想像出來る。仮に使ひ勝手が大きく向上しても、姿が激烈に変化すれば、GRではない、と間違ひなく非難される。私ならきつとさうする。但しそれが、GR系の意匠を継いだ新機種として登場したら、その限りではないけれど。

 

 別の見方もある。

 GRⅢは現状、ソフトウェアの更新を施せば、十二分に使へるくらゐの完成度を維持してゐるから、大慌てで次世代機を出さなくてもいい。さういふ見立ても誤りにはなるまい。派生機は提案であり、そのフィードバックを洗練さし、熟成もさして、GRⅣに結實させる方針をリコーが持つてゐるとしても、私は不思議に思はない。流行を横目に、緩かな開發が許されるのは、GR系の伝統が育んだ特権(苦悩苦辛もあるだらうけれど)にちがひない。

 どちらが正しいかは判らない。

 どちらも間違ひかも知れない。

 何しろ私は、GRⅢに決定的な不満を感じてゐない。どちらかと云へば、メインテナンスや修理の体制を維持する方が大事だと思つてゐる。機能的な面を敢て云ふなら、マクロモードを廃し、シームレスな近接撮影を可能にしてもらひたいことと、外附けEVFへの対応くらゐで…さう云へばGRの直系で一貫して、後者を採用しないのは、どんな理由があるのか知ら。GXR、もつと遡つてGX100/200では用意したのだから、技術的な困難でないのは確かである。

 EVFはGRの系譜が纏ふ、速さの印象にそぐはない。さうリコーのひとが云ひたいんだらうとは、判らなくもない。判らなくもないが、ファインダを上から覗けると、卓上三脚とあはせて、呑み喰ひや花が撮りやすい。スナップに使ふ場合、周りに自分の視線を感じさせにくい利点もある。GRⅢに速さとは異なる樂み方があるのは、きつと惡くないでせう。これくらゐならGRⅣではなく、GRⅢ markⅡ辺りの型番で出していいと私は思ふが、無理筋の願望と云はれるか知ら。