閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1025 感想文~ウルトラマンブレーザーを観て(後)

 残る三話は、散りばめられた伏線を織り上げ、終着点へと辿り着かせる流れなのだが、果して大丈夫だらうか。

 不安に駈られる第廿三話、いきなりゲント隊長のからだの調子がをかしく、医務室ではお医者さまに、骨量の減少と筋萎縮が甚だしいぞ、と咜られてゐるのだから、SKaRDのメンバーは勿論、こつちの不安も大きくならざるを得ない。緊張の中、第三話に現出したタガヌラー(アンリ隊員曰く、"虫")が、世界中で大量に發生する。サイズは十五~廿メートル級なので、各國防衛隊でも対応は出來る。出來はするが、大量發生自体、奇妙ではないか。

 エミ隊員の知人に天文愛好家がゐる。自称ミッチー(廿七歳)そのミッチーが、妙なデータを示す。空間の歪み。画像を解析すると、バザンガゲバルガと同じ軌道であり、その歪みには怪獸とおぼしき姿まで確認される。まさかサード・ウェイブではあるまいな。

 渦巻く疑念を吹き飛ばすやうに、六十メートル級(第三話に現出したのと同じくらゐ)のタガヌラーが姿を見せる。アースガロンmod.2出動…まではいい。大きに活躍してもらひたい。併しネバダでも同サイズのタガヌラーが現れ、アースガロンの出動要請がきた。これはまづい。目の前のタガヌラーに対応し、mod.3に換装後、ネバダに急行する…との判断は妥当だが、第三話の暴れつぷりを思ひ返すに、どこまで早急に対応出來るだらう。今度は不安を吹き飛ばすやうに、ブレーザーネバダを目指す。

 これで二面のタガヌラーに対処出來る。

 と思つたら、任務中のエミ隊員に、ミッチーから聯絡が入る。迷惑な天文おたくだなあと、非難したくなる前に、とんでもない情報が、かれからもたらされる。第三話の最後で宙に放つた光線は、地球に接近しつつあつたゲバルガに命中したのだといふ。ちよつと待て。アンリ隊員とエミ隊員、そしてテルアキ副隊長は、タガヌラーの行動が

 「縄張りに入らうとする外敵を排除する」

のが目的ではないかと、推測をする。であれば、タガヌラーへの総攻撃は止めねばならない。だがそれを、上層部が受け容れる可能性はひくい。

 SKaRDの判断は思ひきつてゐた。アースガロンの残存武器で、タガヌラーへの総攻撃の撃墜を決断し、ネバダブレーザーにも、撃たせてあげてと(音聲をスピーカーで経由して)報らせる。地上の二箇所から放たれたタガヌラーの光線は、約四十万キロメートルの距離を直進し、地球に近づきつつある歪みに命中し…怪獸らしいなにかは、月裏面に墜落した。

 

 結果オーライ。とは云はものの、SKaRDが上層部の指示を無視した事實は動かない。謹慎明けのハルノ参謀長が、その責任を負つたことを知らないまま、かれらは月面の怪獸、即ちサード・ウェイブへの対処を迫られる。ここからが第廿四話。ヴァラロンと命名された宇宙爆弾怪獸は、螺旋状に球状の物体を敷設しつつ、移動してゐる。

 爆發。

 敷設。

 爆發。

 恐ろしい規模でそれは繰り返され、月の軌道に影響を及ぼす可能性まで浮んできた。防衛隊上層部は、SKaRDに命令を下す。全ユニットを統合し、宇宙での作戰行動に対応するアースガロンmod.4で、月裏面に進發。

 「有機爆弾とヴァラロンを排除せよ」

おそらく防衛隊には、宇宙戰をこなせる部隊が、無いからだらうけれど、無茶を云ふな。と思つたのは、テルアキ副隊長も同じで、あの爆發に巻き込まれたら、乗員に損耗…死傷者が出ると、難色を示す。ゲント隊長がそれを理解出來ない筈はなく、併し他に手段が見当らないとも解つてゐて…アンリ隊員が一歩、續いてヤスノブ隊員が、エミ隊員が一歩、前に出る。かれらの姿にテルアキ副隊長も腹を括る。配置を決めたゲント隊長はひとつ、命令をつけ加へた。

 「そして全員、無事に帰還せよ」

第一話の出撃シーン、当時の部下(第十二話で再登場したのは嬉しかつた)への指示と同じである。

 アースガロンmod.4進發までの十八時間、SKaRDには自由行動が許可された。

 アンリ隊員は第九話で、ツクシの小父さんが演奏をしてゐた公園を走る。

 ヤスノブ隊員は通ひ馴れたコインランドリー(第六話)で、くるるを見つめる。

 テルアキ副隊長は實家に電話を掛け、父親に病院での検査を勧める。

 エミ隊員はアースガロンのコクピットで、アー君と話す。V99の目的は地球への侵略か、或は報復なのか。そこがはつきりすれば、対処も考へられるのに。だがアースガロンは、何も云へない。V99についての思考は、"機密事項に抵触する"から、禁止されてゐるのだといふ。詰り知つてゐる。その知つてゐることを教へてほしい。さうすれば

 「皆を危険な目にあはせず、済むかもしれない」

A.I.…機械である筈のアースガロンは、この時、SKaRD隊員のアー君になつた。

 ゲント隊長は解任されたハルノ参謀長、訂正、元参謀長の自宅を訪れる。月面に行く自分は、地上で打開策を調べるエミ隊員を守れない。ぐつたり背を丸めた元指揮官が、その瞬間に顔つきを変へて

 「アオベはお前の部下だらう。さつさと戻つて、首根つこを掴んでおけ」

敬礼で辞した元部下を見送る男の手に、焦げた一冊の本。

 帰宅した隊長は、奥さん(サトコさん)と息子(ジュン君)と夕食の時間を持つ。設備課と所属を偽る隊長は、防衛隊総出で、アースガロンを手助けするのだと説明する。終つたら、リフレッシュ休暇だぞ。作戰の成功を疑はないジュン君は、"怪獸の化石展"に行きたいさうだ。

 翌早朝、ジュン君お手製のブレスレットを着け、こつそり家を出ようとするゲント隊長を、サトコさんが呼びとめ、夫を信じる表情で、夫の任務を察した表情で云ふ。

 「帰つてきてね」

こちらの涙腺が緩みに緩んだのは、改めるまでもない。

 

 mod.4に登場する四人を、整備チームとエミ隊員が握手で見送る場面が素晴しい。ことにアンリ隊員とエミ隊員の握手は、このふたりが同僚ではなく、友人になつたのだと納得させるのに十分であつた。アースガロンmod.4、各セクションGo or No判断。

 メインエンジン、Go。

 mod.2ユニット、Go。

 mod.3ユニット、Go。

 問題無く確認完了…と思つた時、ゲント隊長が静かに呼び掛ける。バンドウ、ヤスノブ。ヤスノブ隊員が応へる。

 「バンドウヤスノブ、Go!」

 ミナミ、アンリ。

 「Goです、ゲント隊長」

 ナグラ、テルアキ。

 「Go」

 アオベ、エミ。

 「Go」

 そんで最後に、アー君。

 「Go」

アースガロンmod.4、オールシステムズ・グリーン。ゲント隊長が中央指揮所に云ふ。こちらSKaRD、アースガロンmod.4、Go!離昇したアースガロンをエミ隊員…彼女には、アー君から託されたデータ解析任務がある…が見送る。

 ところでアースガロンの發進にあはせてか、中央指揮所…CCPにいきなり、ある人物がやつてきた。ドバシユウ。退役してゐながら、権力を隠然と保ち續けてゐるらしい。怪人物であつて、寺田農さんに似合ひの役どころですなあ。

 サード・ウェイブ、ヴァラロンが強敵なのは、云ふまでもない。尻尾で爆弾を高速に生成しつつ、頭部からは光線を發射できるし、動きも俊敏。CCP(正確にはドバシ)の強引な指示で、アースガロンは近接戰、CQCを強ひられるが、すりやあ惡手ではないかね。

 出撃メンバーの無事を祈りつつ、エミ隊員は、アー君から渡されたデータのロック解除に苦心してゐた。パスワードを何とか突破した彼女の目に入つたのは、TopSecretと記されたV99の資料。謎が明かされる、と思つた時、ドバシ配下の男たちが彼女に銃を突きつけた。惡辣。

 月裏面の戰ひは、アースガロンとSKaRDに不利な状態で推移してゐる。気がつけば爆弾を生成する相手だもの、当り前ぢやあないか。追ひ込まれたゲント隊長は、自分の体を省みず、ブレーザーへ変身した…のはいいが、体を省みない代償は大きい。ヴァラロンに対峙した時点で、限界に近いことを示すタイマーが点滅してゐる。まづい。ファードランを召喚する余裕もないらしい。實にまづい。更にヴァラロンの敷設した爆弾の絶大な威力は、月の軌道を歪めるに到る。まづいどころの話ではない。

 ブレーザーは残つたちからを搾りきるやうに、月を押す。ねぢ曲げられた軌道を戻す為に。併し宇宙爆弾怪獸が、その前に姿を見せる。何といふ狡猾さ。それでも寸手のところではねのけたヴァラロンは、寄りにもよつて、地球へと落下する。そして限度を過ぎたブレーザーは、強制的にゲント隊長と分離し、宇宙を漂ふ…。

 

 やべエ。前作『ウルトラマンデッカー』の最後を飾つた、マザースフィアザウルスは、デッカーの救援に駆けつけたトリガー(然も最初から最強の姿)を、大気圏外から地上へ叩き落す放れ業で、シンプルな靭さを見せた。それはそれで凄かつたが、ヴァラロンは丸でちがふ。敷設も投擲も出來る有機爆弾で距離に、頭部と腕部の光線で近接に対応し、ブレーザーの行動を先讀みする知性まで有してゐる。対処にあたる防衛隊にとつて、厄介きはまりない、どーすンだ、これ、勝てるのか。不安に駆られながら私は、第廿五話、即ち最終話に挑んだのである。

 

 強制的に、辛うじて電源を回復したアースガロンは、ブレーザーを抱きかかへ、地球へ落下するヴァラロンを追ふ。仲間を見捨てるわけにはゆかない。地上への帰還は奇跡的と云つていいが、宇宙爆弾怪獸は健在だし、アースガロンには整備の時間が要る。ゲント隊長は立つのがやつとの有り様。

 「(メインテナンスは)出來るところまででいい」

ふらふらのまま、指示を出すゲント隊長とSKaRDの元に、通信が入る。各所の整備隊が、おそらくは獨自に近い判断で、集結してきたのだ。安堵の息をついたアンリ隊員が云ふ。

 「どんだけ他部隊に、貸しがあるんですか」

隊長は覚えてゐないらしい。この辺は第一話の、航空部隊との會話が思ひ出される。貸しは兎も角、これなら再出動へのタイムラグが削れる。俺は医官に御墨附きをもらふ。テルアキ副隊長にさう告げ、ゲント隊長は一端、その場を離れた。嘘である。

 地上に落下したブレーザーは、横たはつたまま、沈黙してゐる。謎だらけの巨人、併し自分とSKaRDと、地球の生命を護つてくれた巨人に、ゲント隊長は静かに礼を云ひ

 「この戰ひは、俺たちSKaRDで行く」

と伝へ、背を向ける。『ウルトラセブン』のウルトラ警備隊隊長であるキリヤマが、地球は地球人の手で護らねばならないと宣した、その令和式の決意と云つていい。ゲント隊長の背に、何かが立ち上らうとする音が響く。振り向いたかれの目に、半身を起こしたブレーザーの姿が映る。

 「オ、レ…オレモ、イク」

巨人との初めてのコミュニケーションは、テルアキ副隊長、エミ隊員、アンリ隊員、ヤスノブ隊員、アー君と共に、危機に立ち向ふ意志の、器用とは云へない、併し美事な示し方であつた。

 医官に診てもらつたが、絶対安静と云はれた。ゲント隊長はテルアキ副隊長に、さう云つて、SKaRDの全指揮権を、信頼する部下に委譲する。

 You have control.

 I have control.

 この場面、テルアキ副隊長を演じる伊藤祐輝さんの、驚きから覚悟を感じさせる表情が、實に素晴しい。画面には映つてゐないけれど、踵をあはせた姿勢が見える。後顧の憂ひを断つたゲント隊長が再び、ブレーザーとなつて、ヴァラロンに挑む…一方、我われはたれかを忘れてはゐまいか。

 エミ隊員である。前話で銃を突きつけられたSKaRDの情報担当は、冒頭で軟禁されてしまふ。髪を掻き毟り、叫ぶ。

 「こんなことを、してゐる場合ぢやないのに!」

タツキに関はる件以外、取り乱すことのなかつた彼女の、初めての姿である。序盤は半ば心を閉ぢ、クールとおちやらけを意図的に取り混ぜ續け、第十六話辺りから少しづつ変化を見せ出したエミ隊員が、本当の意味でSKaRDの一員になつたのだと解つて、厳しい場面なのに、頬が少し、緩んだ。

 とは云へ、エミ隊員がピンチなのは事實で…部屋の外が騒がしい。乱暴に開かれた扉の向ふに、ハルノ(元?)参謀長の姿。急すぎる展開に戸惑ふ(こんな姿も初めてではなからうか)"囚はれの姫"に小父さんが、焦げた本を突き出して云ふ。

 「アオベタツキが遺してくれた、眞實だ」

その頃、CCPでは新たな緊張が走つてゐた。月軌道上に突如として、十三隻の宇宙船団が現出。然もそこには怪獸らしい姿まで確認される。報告を聞いたドバシユウは、業を煮やしたV99が、直接行動に出たかと呟く。何を云ふんだ、この怪人物は。我われ同様、疑念を抱く司令官に元長官は、総司令部にフォース・ウェイブ襲來と打電せよ、とだけ云ふ。

 CCPは發進の準備を整へたSKaRDに指示を出した。可及的速ヤカニ船団ヘ対処セヨ。それを指揮車で聞いたテルアキ副隊長は、僅かな沈黙の後

 「アースガロンは、地球に甚大な被害をもたらす、ヴァラロンへの排除を最優先とする」

序盤前半では、有能であつても、些か堅苦しく、生眞面目な男として描かれた副隊長が、指揮権を委譲され、為すべきことを為す判断を示した、素晴しい場面である。アースガロン内のアンリ操縦士が、嬉しさうに"いいぢやないですか"と呟き、ヤスノブ機長が、"流石テルアキ副隊長"と聲を上げたのも宜なるかな

 

 各國の防衛隊が次々、V99船団への対応準備を了らせてゐるとの報告が入る中、射程に入つたのを確認次第、射てと云ふ。いやあなた、退役してるでせう。指揮する権限、無いですよね。思はず画面につつこみさうになつたところ、CCPにふたりの人蔭が現れる。エミ隊員とハルノ参謀長。剛愎なドバシも周章てたらうが、それでも露骨な態度にはせず

 「解任されたひとが、作戰中の指揮所に入つちや、駄目でせう」

だからあなたと再びつつこみさうになつた私と、ドバシそのひとに目もくれず、ハルノは司令官に、最後の意見具申の許可を求め、それは許可される。エミ隊員が前に出て、指揮車のテルアキ副隊長と、アースガロンのアンリ・ヤスノブ両隊員にも聞かせるやうに、話し始めた。曰く。

 

 千九百九十九年、防衛隊が撃墜したのは、隕石ではなく、異星人の宇宙船。

 命令を發したのは当時、現役の長官だつたドバシユウ。

 宇宙船の残骸を解析した結果が、第六十六實験施設で扱つてゐたワームホールの發生装置、そして二三式特殊戰術機甲獸、詰りアースガロン。

 そして。アオベタツキのノートにあつた、"宇宙船の残骸から、兵器の類は見つからなかつた"といふ記述。

であつた。

 ファースト・ウェイブのバサンガ、セカンド・ウェイブのゲバルガ、そして今回のヴァラロンは、同胞を殺められた対応ではないのか。

 

 眞相が表に出た。ドバシユウが謀つたのは、丸腰の相手を撃つたといふ事實の隠蔽。『ウルトラセブン』が好んだ、侵略と防衛の逆転のやうな眞相。半ば告發的な具申に、隠蔽の本人はびくともしない。地球への脅威になると判断して、撃墜を命じたのだ。だから今回も、墜とす。

 子供なら猛烈に反發しただらう。こんなの、ただの居直りぢやあないか。併し齢を経た今の私には、その判断を頭から非難し、叉否定もしにくい。少くとも第三話に登場した曽根崎社長みたいな、私利私慾(曽根崎じしんは、"リスペクトを求めてゐる"と強調してゐたけれど)に駆られた行動ではなかつたもの。ドバシは云ふ。仮に丸腰の相手を射つたのが、事實だつたとして、目の前のV99にはどう対処するのか。地球の危機は現實ではないか。

 ここで我われは、アースガロンの開發には、V99の技術が使はれてゐることを、思ひ出さねばならない。それが意味することに気がついたのは、アンリ隊員だつた。彼女は勘がすすどい。デルタンダルが積乱雲を隠れ蓑にしてゐること、モグージョンの見せた幻覚が、恐怖や嫌悪を刺戟してゐるらしいことを、最初に指摘したのはアンリ隊員である。V99の技術が応用されたアー君はもしかして、V99と対話出來はしまいか。アンリ隊員に問ひ掛けられたアースガロン、ではなかつたアー君は、可能性はあると応じる。

 そんな莫迦なと冷やかなドバシに対し、アー君が送つたメッセージに、V99が返信をしてくる。

 新天地。

 光ノ星。

 青イ星。

 危険。

 恐怖、恐怖、恐怖。

 断片的なそれらには、敵意も侵略の意図も感じられない。

 エミ隊員が云ふ。武器を持たず、新天地を目指すV99は、地球を恐れてゐるだけではないでせうか。

 テルアキ副隊長が云ふ。こちらが武器を降さないまま、相手が進行を止める筈はありません。

 ブレーザーは既に、ファードランの鎧を纏ひ、チルソナイトの刃を持ち、アースガロンmod.4と並んで、ヴァラロンに対峙してゐる。地球人は、戰ひを望んでゐないのに。

 「エミさん、信じます」

アンリ隊員がこの時、思ひきつた。mod.2及びmod.3をパージしたアー君が、ブレーザーとヴァラロンの間に立つ。危険である。彼女の意図を察したブレーザーが、刃を納め、鎧まで解き、空に手を差し伸べる。私タチハ戰ヒヲ、望ンデハヰナイ…何を考へてゐるのか知ら。

 と思つたのは私だけでなく、ドバシユウも同じだつたらしく、早急な攻撃指示を出せと司令官をせつつく。割り込んだハルノ参謀長が穏やかに、だが強い意志を込めて云ふ。ドバシさん、嘗てのあなたは撃つた。併し今、それを繰り返してはならないのだ。加藤雅也さん、訂正、参謀長を信じてよかつたと、胸を撫で下ろしたのは、私だけではなからう。ゆつくりとその場を立つのは、それでも)為すべきことを為した退役長官。司令官は参謀長に促され、命令を下す。日本支部隷下の航空部隊は、攻撃を中止、警戒体勢へ移行せよ。それを切つ掛けに、各國防衛隊が次々と警戒体勢へ移る。

 

 激変する状況を背に、エミ隊員がアー君、V99に伝へてほしい…未來つて。

 V99の進行が停り、その返信は、未來。船団はいづくとも知れぬ彼方へ、姿を消した。

 

 残るはヴァラロン。地球に甚大な被害をもたらす脅威は、未だ健在である。叉敷設された爆弾群も。先づはヴァラロンへの可及的速やかな対処。全部隊はヴァラロンへの対処を開始。司令官の命令を受け、精密誘導弾でアースガロン及びウルトラマンブレーザーを援護せよ。ハルノ参謀長の指示は、かれが以前、ブレーザーを"訳の判らない巨人"と呼んだことを思ふと、感動的と云つていい。SKaRDとブレーザーと司令部が初めて一体となり、最後の危機に挑む。

 ブレーザー(スパイラルバレード)とアー君(マックスパワーのアースキャノン)は、見事なコンビネイション…ウルトラマンZとセブンガー、或はウルトラマンデッカーとテラフェイザーのやうに…を見せるが、まつたく手強い。更に爆弾が熱を帯びる。聯鎖爆發が起きたら、地球の危機では済まない。

 その時。有機爆弾が沈み出す。何が起きた?

 デマーガの親子が、ズグガンが。

 地上に降りたデルタンダルが。

 喰つてゐる。爆弾を、喰つてゐる。平成の『ガメラ』で、肉を貪つたギャオスのやうに。成る程、有機爆弾なら、美味いかどうかはさて措いて、食べられはする。肉食の筈のモグージョンが姿を見せなかつたのは、不味さうだつたからか知ら。怪獸の味覚は兎も角、地球の怪獸が外敵を相手に、行動を共にするのは、『ウルトラマンガイア』だつたか『ウルトラマンコスモス』を聯想させる。

 決戰は、決着へ。

 どこに避難しても意味がない。サトコさんとジュン君は自宅で、SKaRDとアースガロン、そしてブレーザーの戰ひを観てゐる。がんばれ、がんばれブレーザー。ファードランの鎧を脱ぎすて、チルソナイト剣も持たない巨人とひとつになつたゲント隊長の左手が、光を帯びる。そこには息子がプレゼントしてくれたブレスレット、妻との絆を示す指輪。ここまで描かなかつた、所謂ウルトラのインナースペースが、初めて明瞭に示された。

 コレハ、ナンダ。

 かかげた左腕がつよい輝きを發する。その腕を縦に構へ、更に右腕は横に。十字となつた両腕から、ブレーザーの光線が放たれる。ブレーザーから力を得たゲント隊長が、サトコさんとジュン君と共に、ブレーザーへ力を頒け…終にヴァラロンは爆散した!歓喜と安堵の渦巻く中、巨人は相棒に敬意を表し、飛び立つてゆく。空耳でなければこの時かれは、微かに"シュワ"と云つた。

 物語は終る。V99はいつかきつと、遠く遠く、眩い光の彼方へ辿り着くだらう。SKaRDは参謀長に咜られながら、怪獸災害に対処し續けるだらう。ヤスノブ隊員はアー君を愛で、アンリ隊員は優れた勘で対処を支へ、エミ隊員は自在に情報を集め、テルアキ副隊長が纏めてゆくだらう。そしてゲント隊長は、ありふれた間取りの家に帰る。ジュン君がパパに飛びつき、サトコさんが控へめな笑顔で迎へる。

 「お帰りなさい」

 「ただいま」

 

 前後に分けて、『ウルトラマンブレーザー』を遡つた。さうせざるを得ないと思はせる、密度の高さだつた。

 それで改めて感じるのは、ブレーザー対怪獸より、そこに到るまでの流れが、印象深いことである。それは間違ひなく、意図された手法で、たとへば第十話や第廿一話は、ブレーザーが登場しなくても成り立つた。尤もそれで夢中にさせたのだから、最初の練り込みが正しかつたことになる。併し不満が無いとは云へない。

 第一話の特殊弾頭は、バザンガの鼻孔に一發撃てばいい筈なのに、何故か腹部に二發と指示が変つた理由。

 同じく第一話で、"ウルトラマン"は数十年前から、宇宙飛行士の間で伝説となつてゐる、ヒト型宇宙人のコードネイムといふ科白。

 第十二話で再登場した特機団が、最終決戰で描かれなかつたこと。

 ハルノ参謀長に犬好きの一面があるといふ設定(これは第廿四話で描冩出來たと思ふ)

 第十六話でエミ隊員が見た恐怖の対象が、自分だつたことの克服(SKaRDのメンバーに"ありがとう"と云つたのが、その暗示かも知れない)

 ドバシユウが現役だつた頃の掘り下げ。

 我が儘を云ふなら、エミ隊員を演じた搗宮姫奈さんの師匠筋、アクションお化け、坂口拓さんを、どこかで出してもらへなかつたか知らとも思ふ。

 勿論あれもこれも詰め込むと、却つて冗長になるだらうことは解る。限られた話数が前提にあることを考へれば寧ろ、たいへんによく纏つた骨組みと云つていいけれど、五話…せめて三話あれば、その骨組みにしつかり、肉がついたんぢやあないか、とも思ふ。贅沢な不満と云はれたら、認めるのに吝かではない。

 

 長くなつたこの感想文の最後に、ウルトラマンブレーザーを演じた岩田栄慶さんに敬意を表したい。獨特のポーズ、ダイナミックで美しい動き(綺麗な蹴りの動作は、特筆大書したい)、時にコミカルな仕草は、岩田さんなくして成り立たなかつたと思ふ。叉あの象徴的な叫びもかれの聲であつて、キャラクタとしてのブレーザーは、ゲント隊長を演じた蕨野友也さんとの合作と云つて、差し支へないでせう。