閑文字手帖

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1024 感想文~ウルトラマンブレーザーを観て(前)

 毎週末の樂み、『ウルトラマンブレーザー』が先日、最終回を迎へた。初回から第十二話までは

 [977 感想文~ウルトラマンブレーザーの前半を観て]

に記してある。この稿では、第十三話から第廿五話(最終回)を主に(前半に伏線の描冩が幾つか、含まれてゐるから、そちらも触れざるを得ない)、私の目に映つた、SKaRDとブレーザーの物語に就て書く。所謂ネタバレの遠慮は出來ないので、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、ご用心をば。

 

 最初に綜合的なところを云ふ。第一話から熱中して追ひかけてよかつた。更に不公平を承知して書けば、前作の『ウルトラマンデッカー』や、前々作の『ウルトラマントリガー』より、物語全体の纏まり具合は優れてゐたと思ふ。

 併し無條件の絶讚でないのも勿論で、これも先に書くと、全廿五話は短かつた。制作側の事情都合に目を瞑り、間に二度入つた"特別総集編"を本篇に使へてゐたら、終盤の展開の説得力が増したのになあ、と云ひたくなつてきて…いやひとまづ、第十三話からの各話タイトル(特別総集編は除きます)を挙げませう。

 

第十三話 スカードノクターン

第十四話 月下の記憶

第十五話 朝と夜の間に

第十六話 恐怖は地底より

第十七話 さすらいのザンギル

第十八話 そびえ立つ恐怖

第十九話 光と炎

第廿話 虫の音の夜

第廿一話 天空の激戦

第廿二話 ソンポヒーロー

第廿三話 ヴィジター99

第廿四話 第3波接近襲来

第廿五話 地球を抱くものたち

 

 後半最初の第十三話は、ぱつと見、"振り返り"のやうな内容に思はせる。暢気な會話を挟みながらも併し、宇宙甲殻怪獸バザンガ(第一話)と、宇宙電磁怪獸ゲバルガ(第十一話、第十二話)が、同じ軌道で地球にやつてきたらしいと判る。この段階で怪獸の二ツ名に"宇宙"が附くのは、バザンガ、ゲバルガの二体。第一話のタイトル「ファースト・ウェイブ」と、第十二話最後のハルノ参謀長の科白…セカンド・ウェイブ対処…と相俟つて、怪しさがぐつと増す。

 きな臭エなあと思ひながら観た第十四話、月光怪獸デルタンダルが"現出"する。戰ひの場面がすべて空中といふ特異な演出とあはせ、V99、第六十六實験施設といふ、謎解きの鍵になりさうな単語、そして地球防衛隊日本支部の元長官であるドバシユウが姿を見せる。叉SKaRDの情報担当、エミ隊員の過去の断片と、明かになつたハルノ参謀長との関係が示され(最後の場面、参謀長を演じる、加藤雅也さんの聲と表情が素晴しい)…詰りここで物語は、最終盤への舵を切つた。

 と感じたところの、第十五話から第十七話で、ひとによつては、肩透かしをくらつた気分になるかも知れない。

 第十五話。『ウルトラマン』の「恐怖の宇宙線」(メイン監督の田口清隆が、この回に登場したガヴァドンAの熱烈なファンだといふ)の丹念なリメイク。ぶもー。

 第十六話。コミカルながらたちの惡い…光線を見た相手の恐怖心を煽る…幻視怪獸モグージョンの暴れつぷりと、搗宮姫奈さん演じるエミ隊員のウェイブ披露に驚ける回。

 第十七話。見た目が如何にも惡党な宇宙侍ザンギルの話。この演出もコミカル寄りだつたが、實は死せる宇宙人が、死した怪獸の魂を斬るといふ、ホラーな回でもあつた。

 肩透かし云々は、単獨の回が三週、續いたから云ふので、獨立した話として観ると、『ウルトラマン』のやうにヴァラエティ豊かな三週と云つていいとは、念を押しておかう。

 第十八話と第十九話は、事實上の前後篇。汚染獸イルーゴ(対称を意図したデザインは秀逸)の生態の推測、対処の立案と實行。更にイルーゴはゲバルガの幼体…セカンド・ウェイブは終つてゐなかつた!…との結論。現出した宇宙汚染超獸ブルードゲバルガは、以前に飛來した個体の約六倍の巨体を誇る。対怪獸と平行し、第六十六實験施設に潜入したエミ隊員は、行方不明だつた父タツキとの再會を果し(この時の搗宮姫奈さんの表情が實にいい)、ブレーザーの相棒(らしい)炎龍怪獸ファードランを解き放つ。鎧袖一触、イルーゴを蹴散らしたファードランに気づいた、歓喜のジャンプがいい。

 父の遺した日記が、V99案件の重大な鍵らしいと解り…その日記は、讀み解かれる寸前で、ドバシユウの手に渡り、ハルノ参謀長は謹慎に追ひ込まれる。謎の行方や如何に。

 續く第廿話。今度は實家の畠の土を荒らす、地底甲獸ズグガンが、テルアキ副隊長に迫る。森の中、親父さんと共に襲はれる場面は、『エイリアン』を聯想させる怖さ…ここがタイトル通りの夜なら、子供たちは泣いたにちがひない…があつた。怪獸生態の豊かな知識で撃退するのは、好もしい見せ方だつたし、卵の爆破に際して"すまん"と呟くのは、第八話での、横峯教授とのやり取りを思ひ出させた。

 我らがアースガロンに空戰機能が追加された。mod.3である。従來の飛行能力は移動目的だから、大規模な機能向上と云へる。その新装備、ウラヌス・ドライブは、第十四話に現出した、デルタンダル有する重力制禦を応用したらしく…待て超科學ぢやあねエか、これつて。

 といふ前提で第廿一話が始まる。尤も重力制禦を応用した超科學装備を使ふには、人間さまにも訓練が欠かせない。操縦者候補のヤスノブ隊員が、アンリ隊員に較べ、体力的に劣るのは意外だつた。ヤスノブ君のmod.3操縦は、上層部からストップがかかり、運用をどうするか悩ましい。そこに三百メートルのデルタンダル("爆撃機のやうだから"と、呼称はデルタンダルB)が現れる。ゲント隊長が、機長にヤスノブ君、操縦にアンリさんといふ、"屁理窟も理窟"な配置で乗り切つた…アンリヤスノブのコンビネーションも、美事だつた…のが、何ともSKaRDらしい。

 アー君が空を飛べるに到つて(ジェットスクランダーを装備した、マジンガーZのやうだ)、物語は佳境に入る。と思つたら、第廿二話だつたのは、苦笑を禁じ得なかつた。

 確かに怪獸が踏み荒した町や家屋、或は被害者の生活を、どう復興さすんだといふ疑問はあつた。第四話で、(特定の)怪獸に効果的、と称する藥剤を賣りつける企業が出たのだから、"日本怪獣損害保険株式会社"があつても、をかしくはない。それはさうだが、このタイミングかと思ひもした。レッドキングとギガスの二体が登場する中、ソンポの営業マン(古い云ひ廻しだなあ)と老女のささやかな交流が描かれる、ウルトラ的な人情話。SKaRDとその営業マンの間に、まつたく接点がなかつたのは、怪獸は立場によつて見え方がちがふことの暗示にも感じられる。