閑文字手帖

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1026 ウルトラマンブレーザー~感想余話

 かれは、何ものだつたんだらう。

 全廿五話に及んだ『ウルトラマンブレーザー』を観て、結局さつぱり、解らなかつた。

 円谷ステーションから、設定…といふより、紹介の箇所を丸ごとコピーすると

 

https://m-78.jp/character/ultraman_blazar/

 

主人公・ヒルマ ゲントが変身する新たなるウルトラマン。地球から遥か彼方の天体、M421からやって来た光の巨人。

ゲントが正義のために強く力を欲した時、変身アイテム「ブレーザーブレス」が左腕に出現する。光の力を宿した結晶体「ブレーザーストーン」に強く願いを込めながら「ブレーザーブレス」に装填すると、まばゆい光を放ちながらウルトラマンブレーザーへと変身を遂げる。

必殺技は、右手から発生させた光り輝く二重らせん状の槍を投てきする光線技「スパイラルバレード」。

 

なのだといふ。だと云ひはするが、本篇で"M421"は単語すら出てこなかつたし、ゲント隊長が、"正義のために強く力を欲した"時だつて、一ぺんもなかつた。隊長の名誉の為に附言すると、命を守らうとする強靭な意志の持ち主なのは、疑ひのないところである。

 大体から、第一話の登場が、ウルトラのセオリーから云へば滅茶苦茶だつた。怪獸バザンガから部下を助けるべく、孤軍奮闘してゐたところに、予兆も何もなく、ブレーザーブレスのブレーザーストーンを出し、導くやうにといふより、半ば無理やり、変身さしたのだから。私の記憶なんて、いい加減なものだけれど、こんな強引な変身は、ウルトラ史上初めてではなからうか。

 知性乃至人格があるのは、續く第二話で、さつさと変身しろと云はん計りに、ストーンを熱したことで解る。変身を催促するウルトラマンなんて、嘗てゐたか知ら。それからも暫く、ブレーザーとゲント隊長は、息のあはないコンビであり續ける。成る程、さういふキャラクタなのね。とは云へ、ブレーザーが何ものかは、矢張り謎のままである。

 叉どうやら、戰ふ前に祈るやうな仕草を見せることから、その行為を特別と認識してゐるらしいとも解る。尤もやつてゐるのは、ワイルドでダイナミックな狩猟めく動作だから、スマートやスタイリッシュには縁遠い。敢て譬へれば、勝新太郎が演じた座頭市の殺陣にちかいか。御存知ない讀者諸嬢諸氏に云ふと、座頭市の殺陣は泥臭く、實に恰好いい。

 途中途中で、ゲント隊長のフラッシュバックが入る。三年前に起きた、ある爆發事故の現場で、救出作業にあたつてゐた時、光の中から伸びた手を掴む光景。どうやらこの時、ブレーザーはやつてきて、ゲント隊長と出逢つたらしい。いや待て、そもそも君はどこから、何故やつてきたのだ。何かが明かになつたら、もつと謎が深まるといふ、推理小説的な描き方だなあ。

 従來のウルトラマンは、変身者とウルトラマンが、何かしらのコミュニケーションをとつた。『ウルトラマンZ』ではそこが突きつめられ、漫才が繰り広げられるまで到つたのだが、ブレーザーはゲント隊長に、明確な意志を示さない。

 「まつたく異なる生物なんだもの、意志の疎通なんて、出來る筈がないでせう」

 といふことらしい。ただブレーザーは、ゲント隊長と同じく、不条理に暴れる怪獸は倒すべき(でなければ、倒してもかまはない)と考へてゐる。他方でブレーザーは、爆發事故で自分の手を取つてくれた男に、恩といふか感謝の念といふかを感じてもゐる。

 それで両者の思惑がずれてしまふ場合もあつた。その辺りは第十話のデマーガ親子への対応や、第十一話でゲバルガを相手に、躊躇せず逃げた様子から伺へる。續く第十二話、ゲント隊長は、ブレーザーが自分を、"無事に帰還させたがつてゐる"ことを悟り、かれらの関係は半歩くらゐ、縮まつた風に思へた。詰り、何もかも通じない宇宙人ではない、といふことか。

 他にも第十九話でSKaRDの面々が、ブレーザーを共に戰つた仲間と云ひきつた時、ブレーザーストーンを熱して、(きつと)喜んだ場面、第廿三話で体調を崩したゲントを、ブレーザーストーンの力で殴り倒し、失神させた場面が思ひ出される。少くとも異星の小さな聯中が、自分に行為を抱いてゐるのは、理解出來るらしいし、自分の共にある男を、休ませねばならないと判断出來る様子でもある。

 上の第十九話では、ブレーザーの出自に関はりさうな描冩がある。物語の鍵となる研究施設…ゲント隊長のフラッシュバックは、その施設の爆發事故の記憶なのは、第十四話で明かにされてゐる…で實験してゐたのは、異星の技術を復元した、ワームホールの發生装置だつた。その装置の残骸から、ブレーザーのペット…相棒の方が近いと思ふが、炎竜怪獸ファードランが現れる。ワームホールの出入口が、ころころ変る筈もなからうから、ブレーザーはホールのあつち側、即ち設定に記された、"M421"からやつてきたと推察出來さうである。併しファードランが同行してゐなかつたことから、ブレーザーが地球に來たのは、まつたくの偶然…寧ろ不慮の事故に等しい事象だつたとも考へられる。

 オフィシャルな見解がどうなのか、判らないけれど、仮に偶然乃至事故で地球に來て仕舞つたとすれば、ブレーザーにとつて、迷惑以外の何ものでもあるまい。その惑星の為に怪獸の戰はうとする理由は何なのか知ら。

 と書く以上、一応の想像はある。ごく簡単な想像で、詰り傍迷惑に巻き込まれた自分に、早く逃げろと手を差し出した奇妙な生き物、詰りゲント隊長に、恩義や感謝を感じたのではないか。もうひとつ、メイン監督を勤めた田口清隆によると、ブレーザーの一族は、狩猟を好む(頭部の特徴的なデザインは、"戰ひの中で負つた傷の、瘡蓋のやうなもの"ださうな)といふから、ここに居れば、怪獸狩りを樂めると思つたのかも知れない。バザンガの襲來まで、姿を見せなかつたのは、狩りに値する相手が現出しなかつたからと考へたら、辻褄はあふんぢやあなからうか。

 併しそれだけで、ブレーザーが地球の為に(最終的には身命を削つてまで)、戰つた理由になるだらうか。誤りではないにしても、そこに詰め込むと、かるくなつてしまふ気がする。恩義なり感謝なりが、切つ掛けになつたのは、疑いを容れないとして、それからゲント隊長と過し、SKaRDの面々と過し、サトコさんやジュン君とも過した時間で得た変化の方が、遥かに大きかつたと思はれてならない。最終回の

 「オレモイク」

は、その意味で、"そんなに人間が好きになつたのか、ウルトラマン"の、令和式な示し方であつた(田口清隆は、以前もメイン監督だつた『ウルトラマンZ』の最終回で、"令和式ウルトラタッチ"を見せてゐる)と解釈しても…ブレーザーが"ウルトラ世界の正しい意味"で、ゲント隊長と一体となり、ウルトラマンとなつた瞬間…、無理のある見立てと批判されずに済みさうである。さうでなければ、ジュン君お手製のブレスレットが、最後の光線のトリガーにはならなかつた。

 ここまで書いてみたが、本篇を観ての推測に過ぎず、實際はどうだつたのか、まつたく解らない。田口の胆の底には、明確な設定があるかも知れず、併しひとりのファンとして云ふと、公にしてもらひたくない。知性を持ち、敬意の表し方を知る、謎めいた蕃族、ウルトラマンブレーザー。かれに就て頭を捻り、叉あれこれ推し測ることは、本篇が終つた後の我われに残された樂みだもの。

 

 かれは、何ものだつたんだらう。