閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

875 計劃に纏わる話

 折角、生麦まで麦酒を呑みに行くのだから、カメラを持ち出そうと思う。撮るかどうかは別の話として。前々からリコーのGRⅢが慾しいと思っている。思ってはいるが、この稿を書いている時点では買っていないから、候補には入らない。

 GRデジタルⅡを持ち出すことは考えられる。併し頴娃君がライカを持ち出す可能性はあって、それだとこまる。こまるというのは、かれがまったく速撮りのひとだからで、煽られる恐れがある。我がGRデジタルⅡは實に使い易い…手に馴染んだ…機種なのだが、速さの一点で云えば、現行機の頃はさて措き、とても対処しきれない。自分の速さで撮ればいいと思っても、そうはゆかないのが煽られるということなので、迷惑と考えるべきだろうか。

 

 冩眞は撮らないと冩眞にならないもの、と頴娃君は云う。ライカ…精密な距離計聯動式カメラを使いながら、目測、ノーファインダで百枚二百枚撮って平然としているのは、かれのそういう"思想的な立ち位置"…二百枚撮って一枚か二枚、良いと思えればいい…に依る。"絶対非演出のスナップ"(と云って御存知の讀者諸嬢諸氏は何人いるだろうか)の系譜に属すると見立てたい。

 公平の為、おれの立ち位置を云うと、頴娃君とは異なっている。撮影や冩眞はこちらの表藝ではないもの。二番目か三番目辺りではあるけれど。更に云えばこっちが撮るのは呑み喰いでなければ、妙な看板の類が好みだから、一回で百枚どころか五十枚も撮れはしない。そのおれが頴娃君のように撮ろうとするのは無理にもほどがある。煽られて撮ってしまえばなおで…だからどうだという話ではなく、ちがうと云いたいんである。

 

 尤も久々の麦酒工場(何年振りになるか知ら)、久々のぶらナンブである。なので軽々撮れるカメラの方が好もしい。暫し迷って、オリンパスE-PM2パナソニックの12-32ミリを附けたのを持ち出す気になった。このレンズは手に入れてから、きちんと使っていないのが大きな理由である。

 ライカ判換算で24-64ミリ相当の画角だから、撮るのに不便を感じる心配はなく、沈胴式の構造はコンパクトに持ち歩ける。結果的に(殆ど)撮らなかったとして、負担を感じにくい大きさ重さ形状なのも宜しい。こう考えるに、大きさと重さと形状は、"カメラの性能"としてもっと批評が求められてもよい要素かと思われる。

 ここで白状すると、上の要素は若いころ、大して気にならなかった。有り体に云えば、加齢に伴う体力の衰えが、その要素を重く視させる切っ掛けになったので、我が若く体力の漲る讀者諸嬢諸氏には實感が湧かないだろうが、いずれその日はくるのですよと忠告をしておこう。併しだとしたら、最良の撰択は、GRⅢじゃなあないかと話が戻ってきて、さてその日までに手に入るものか、どうか。