閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

876 鶏の皮の話

 ここ最近、ちょいと顔を出す呑み屋がある。陋屋から歩いて十分かそこら。元々は立ち喰い蕎麦屋だったのが、いつの間にか開店していた。何かの弾みで入ったら、お酒も摘みも客あしらいも値段もまずまずだったので、気が向いたら足を運ぶようになった次第。そうしたら(これも)いつの間にか、顔を覚えてもらっていて、喜んでいいものかどうか。

 過日の夜、そこの品書きを見たら、違和感があった。なので大将…というか店長というかに

 「メニュ、変えましたか」

そう訊いたら、ええ少し変更しましたと返事があった。成る程よく見ると、それまでの串ものは豚だけだったのが、鶏が加わっている。他にも細かな差違があった。確かここは(一応)チェーン店の筈だから、何か影響があつたのだろうかと思ったが、おれが普段ここで呑み叉食べるものに大きなちがいはなかったから、気にしないことにした。

 呑むのはホッピーの白。

 さてお摘みは何にしよう。いつもならマカロニ・サラド、もつ煮、ハムカツか蛸の唐揚げ辺りから始るのだが、品書きに鶏皮ぽん酢の文字があるのに気がついた。鶏の皮もぽん酢も好物である。鶏皮ぽん酢が好物なのは云うまでもない。一方で鶏皮ぽん酢は当り外れが案外に大きい。併しこのお店なら外れの確率は低かろうから(勿論何度か食べた上での判断である)註文した。保険の為にハムカツも頼んでおいた。

 意外なことに少し、待たされた。

 出された鶏皮ぽん酢の器を見た。

 ぽん酢で和え、白葱を乗せた皮は、ちゃんと揚げてある。

 鶏皮は茹がいてあると思っていた。なのでそんなら少々、待つのも仕方がないねと納得して早速に摘むと、ほの温かく歯触りも宜しい。鶏皮特有のぬめっとした感じ(これが苦手なひとは少くないと思う)が、うまいこと抑えられている。もうひとつの特徴である脂っこさも、ぽん酢と白葱が受けとめているのが好もしい。

 (とは云え、箸休め…酢のもの寄りの味でもある)

些かの物足りなさを感じたところにハムカツがやってきた。熱いところに辛子を塗ってウスター・ソースを掛けまわし、かぶりついてからホッピーを呑み、更に鶏皮ぽん酢を摘むと具合がいい。矢張り酢のものに近い位置附けなのだな。ホッピーの中身をお代りする序でに焼賣…ここの焼賣は中々いけるのだ…を追加しつつ、次回は摘みの順序を多少、調整しないといけないなと考えた。