閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

885 チャートの内外の話

 興奮が續いてゐるから、GRⅢに関る話題を續ける。これを書いてゐる時点ではまだ、使ひ始めの前。我が沈着な讀者諸嬢諸氏には呆れられるだらうが、辛抱してもらひます。それで何を取り上げるのかと云ふと、リコーのWebに載つてゐるシステム・チャートを見たからで、いちいちURLまでは書きませんよ。直ぐに検索出來る。

 眺めると些か貧相な気がする。ケイスとストラップ、ファインダ、アダプタとそれを介するコンヴァータくらゐ。コンパクト・デジタル・カメラだもの、当り前でせうにと云はれたら、まつたくその通り。GRⅢは本体だけで殆ど完結してゐるし、わたしの使ひ方程度なら、貧相呼ばはりした筈のシステム・チャート(以下チャートと略しますよ)の製品すら、手に余るボリュームと云つていい。

 

 ライカ…わたしが云ふのはライカがライカだつた、詰り七十年余り前の時期である…のチャートを見たことがある。思ひ出すと、その複雑怪奇さにうんざりした記憶が薄つすら、残つてゐる。当時のユーザはどう感じたのだらう。ちよつとしたパズルの親戚だつたのか。とは云へ現代の目で見ると、何とも豊穣な感じがされるのは、不思議でもある。

 ああ、さうだ。誤解されてはこまるから念を押すと、上に書いたのはわたしの間違つた印象ですよ。ライカ・チャートがパズルになつたのは、元のライカが不完全だつたのと、その不完全の補ひ方が場当り的だつた結果に過ぎない。ライカを軽んじはしないけれど…いや脱線しさうだ。

 リコー・チャートの下段に目を向けると、自社製品の紹介がある。更にリンクを辿つてイメージングストアのページを見ると、他社のアクセサリも紹介してゐたから、少し感心した。ストラップ、ケイスやポーチ、ボディ・スーツの類。勿論すべてを網羅するわけでなく、汎用品でGRⅢにも転用出來るものは載つてゐないけれど、サード・パーティ品も無視してゐないですよと云つてゐるみたいで、好感を持てる。尤もチャートとストアに掲載された各種製品で、わたしの下顎を擽るやうな物は無かつた。残念だなあ。

 併し下顎を擽られないのを、サード・パーティ製品全般に当て嵌めるわけにはゆかない。アクセサリ・シューに取り附けるサムグリップは(見た目は兎も角)使へさうだし、實用性の点で首を傾げる余地はあるが、木材を用ゐた外附けグリップもある。アダプタを介したら四十九ミリのフヰルタだのフードだので游べもする。記憶に誤りがなければ、角形フヰルタを使ふ為の製品もあつた筈で、さう考へるとGRⅢは意外な程、チャート外の玩具、訂正製品が充實してゐると思へる。

 

 ニコンのFM10を思ひ出した。コシナOEMと云はれるフヰルム式でプラスチックの一眼レフ。發賣当時、地味なズーム・レンズと人造皮革のケイスがセットで五万円くらゐ。ニコン銘の最廉価だつたのは云ふまでもない。ある時期このカメラに夢中だつたけら、その型録にニコンのアクセサリ用や他社製レンズの型録から、対応する製品(使はないだらう物も含め)の情報を切り貼りした。云はば手製のチャートを作つたわけで、当時のわたしは何を考へてゐたものか。その手製チャートは、今も陋屋のどこかにある。

 とは云へ。飛び飛びの情報を一括りにする手法自体は、決して惡くなかつたし、この方法をGRⅢでも使はない手はなからうとも思ふ。醉狂なのは間違ひない。一方でそんな眞似をする暇があるなら、さつさと使へばいいといふ指摘は当然である。アクセサリの要不要が使つて判るのも珍しくはない。準備はどうしたつて万全にはならないものだ。そこは理解しつつ併し、それとこれは別の樂みでもある。ひとつ寄り道をしてGRⅢの型録を手に入れて、游んでみることにしようか。