念を押すとGRⅡではない。
随分と旧型の機種である。
詳細な仕様はいちいち書かない。リコーのサイトを見れば直ぐに判るし、現代のデジタル・カメラと較べて、どこをどう見ても優る箇所は見当らない。
鞄の隙間に滑り込ませるくらゐの大きさは、挙げてもよささうだが、畢竟それは受光部の小ささ故に過ぎない。それではと近接撮影の強さを挙げたくなつてきて、ただその特徴はGRデジタルのⅢやⅣにも引き継がれてゐる。
詰り今から…今さらGRデジタルⅡをわざわざ買ふ理由は無いのだと云つていい。
併し慾しい。
現行機種であるGRⅢはもつと慾しい。但し現行機を慾するのは、GRの系譜がここでひとつの完成に到つたと思ふからで、さう思つたそもそもの切つ掛けはGRデジタルⅡにある。
何の云つてゐるか、判らないでせう。
わたしも同感である。
要は感情、気分の問題なのだ。と先づは居直る。GRデジタルⅡが現行機の頃、どうやら同Ⅲが出るぞといふ噂が流れて、それは正しかつた。新品の値段がぐつと廉になつたのが證拠で、その時期に買つた。値段に釣られての衝動買ひだつたのは確かである。油断せず、ポイントを使つて外附けのファインダも買つたから、ヨドバシカメラだつたのだらう。
ぱつと見て何かに似てゐると思つた。
ほんの一瞬考へて、リコーのR1sやGR1v(どちらも銀塩のカメラである)だと解つた。こちらも細かい説明はしない。ざつと現行のGRⅢの源流であり、湧水地なのだと理解しておけば宜しい。
上から見た時のシャッター・ボタンの形や、ダイヤルの配置が似てゐる。さう気が附いて感心した。R1sやGR1vの時点でデジタル化を意識した筈はなく、といふことは、初代GRデジタルを出すにあたり、遡つて(強烈に)先代を意図したと想像して間違ひにはなるまい。
かういふ例は過去にもあつた。オリンパスのペンは、上から見た時のレイアウトが、オリジナルから續く機種にも引き継がれてゐる。但しこちらは米谷美久といふ際立つた技術者があつて成り立つた機種である。それにかれがオリジナルを設計した時点で既に、自動露光のEEと大口径レンズを使ふDの素案を持つてゐた気配は濃厚に感じられるから、GRと同列に置くのは六づかしいけれど
「基本的なレイアウトを大きく崩さない意図」
で機種を展開させた点は共通してゐるし、わたしの知る限り、さういふ意図を感じる機種は(他に挙げられるのはキヤノンのEOS kissくらゐか)ごく少い。何の話だつたらう。
さう。GRデジタルⅡだつた。
保存してゐる画像を確めると、平成廿一年から廿三年にかけて、それから平成廿五年に撮影してある。全部で千三百枚足らず。使つた期間を考へると決して多くないが、こちらは素人である。閑々にちよいと撮る程度と思へば、こんなものかと云へなくもない。とは云へその間の撮影が何といふか、まつたく樂かつたのは忘れ難い。
間に一年の空白があるのは、一度手放し、中古で買ひなほしたからで、買ひなほしたのを直ぐ手放したのは、その個体の具合が惡くなつた為である。レンズの前面に、電源のオンオフと連動するカヴァがあるのだが、それが途中で引つ掛かる症状。GRデジタルの名を冠するのは全部で四機種あり、いづれにも共通する持病といつていい。いつだつたかのカメラ・ショウでリコーのひとに訊いたら
「確かにさうでした」
と認めてゐたから、勝手な決めつけではないと念は押しておかう。余談ながらその欠点は、GRⅢに到つてやうやく解消されたといふ。一ぺん、そんなリスクに関はる知識と経験を得ると、改めて手を出しにくくなる。それで手を出しにくくなつたまま、GRデジタルⅡを見掛けること自体が稀になつた。失敗つたかなあ。
最初にGRデジタルⅡを買つた時、同時にファインダを購入したのは既に触れた。實はその後、専用のケイスやストラップ、フード、ワイド・コンヴァータも入手し、コンヴァータ以外は手元に残してゐた。
何でまた。
と思はれる讀者諸嬢諸氏の為に云ふと、カメラの賣買を繰返した経験から、本体やレンズなら手放しても再入手出來る可能性は持てるが、デジタル・カメラのアクセサリは、そもそもの流通量に期待を持てない。詰り本体の生産が終つた後に改めて入手するのは六づかしい。
(さう考へると、コンヴァータを賣り払つたのは間違ひだつたなあ)
括弧書きは兎も角、事情はさういふことで、ただ本体のないアクセサリ群は、如何にも中途半端で困る。これもまた経験から云ふのだが、中途半端なアクセサリ群は、必ず本体を(再び)呼び込む。まあ別に、カメラ特有の話ではないかも知れないけれど。
大坂は梅田に[八百富写真機店]といふカメラ屋がある。
カメラを扱ふのにどうして"八百富"なのだらう。
八百屋から始まつた店が、商ひを代へても"八百"の看板を掛け續けた例は、聞いたことがある。併し[八百富写真機店]の店主だか社長だかには失礼だが、同じ線だつたとすると、八百屋のどら息子が冩眞に入れあげた挙げ句の印象が散らちら見える気がしなくもない。
大坂から東京へ行く際に時間を縫つて、ちよいと覗いたらそこに、GRデジタルⅡがあつた。
参つたなと思つた。
まつたく期待してゐなかつたから、喜ぶ前に困惑した。
取急ぎ出してもらつて、電源のオンオフを何度が繰返してみた。動きはよつこらせといふ感じ。元々からさうだつたのか、少くともスムースとは呼べない。カヴァに引つ掛かる様子は見られないが、いつまで保つやら解らない。それでも
(今のところは、だが)
動いてゐる。惡くない。値札を確める。妥当な価格になつてゐる。惡くない。第一この機会を逃したら、次がいつになるか、見当もつかず…さうじつくり考へた。
と云へばまつたくの嘘であつて、三分も迷はなかつた。
いや迷つたのも正確ではなく、買はない理由が無いかを探して、見つからなかつたから腹を括つた。
これ、もろてきますわ。
玉葱や馬鈴薯のやうに、古新聞でくるまれなかつたのは、些か残念に思つた。
新幹線の車内でバッテリの充電をした。
それからSDカードを買つた。
帰宅してから、がらくた函に入れてゐたアクセサリを取り出した。ストラップが二本(GR DIGITALの縫取りと、RICOHの縫取りがある)と、RICOHのマークが入つたレンズ・ポーチまで見つかつた。
ひとまづシャッター回数を確める(参考までに書いておくと、SCENEモードにして、再生ボタンとマクロ・ボタンの同時押しで表示される)と、二千二百枚余り。内ほぼ千枚でフラッシュ使用だつた。
それから設定を一旦リセットした。以前に使つてゐた時、諸々自分好みに変更したが、今も同じとは限らない。標準的な設定で暫し使つてから、改めて今の自分に好もしい設定を施さうと思ふ。
それでストラップをどうするか考へた。GRデジタルⅡには三ヶ所、ストラップの取附け位置があるので、ライカM5のやうな縦吊りも出來る。当り前に云へば、折角見つけたストラップを使へば済むのだが、かういふカメラに長い紐を附けるのは気に入らない。
待てよと思つて再びがらくた函を見ると、ライカ社のリスト・ストラップ(製品番號18685)があつた。コンパクト・デジタル・カメラ向けで、太い紐で作られた環が手首にやすやすと通る。これを使ふことにした。
序でだからもう少し、がらくた函を覗くと、ステップ・アップ・リングが二種、出てきた。フードやコンヴァータを附ける為のアダプタにこれを噛ませば、取りつけの撰択が増える。アダプタを附けたGRデジタルⅡは、スマートさが著しく損はれるから、實際に用ゐるかは判らない。但し遊びの幅が広くなりさうなのは、決して惡くないと思はれる。
エエ感じやないのさ。
ほくそ笑んだのは勿論こちらの勝手な思ひ込みだから、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は相手にしなくて宜しい。
後は掘り出したがらくた類を含め、どうやつて持ち運ぶかが残つてゐる。ひとつひとつは小さくても、ある程度纏まると、それなりに嵩高くなる。
犬印鞄製作所の小振りなショルダー・バッグがあつた。入る。入りはするが、他が入らない。他とわたしが云ふのは、塵紙やハンケチや財布、煙草や手帖の意味で、これでは満足とは云ひ難い。使つてゐなかつたエツミのカメラ・バッグに入れると、犬印より収まりはよい。が、何となく気分の収まりが惡く、気分の話を文字にするのは六づかしい。
とは云ふものの、それを不満と呼ぶのは憚られる…これもまた気分の話。
妙なことを云ふが、十分に満足でないのがいい。エエ感じがする。あれこれ試す余地があるからで、こんな風に云ふと
「いいから先づ撮りなさいよ」
と叱られさうである。その指摘は正しい。そこは認めるとして、GRデジタルⅡに現役の最前線で使ひ倒すだけの余力の持合せは無い。従つて使ふのは勿論だが、撮る以外の樂みが慾しくなるし、その樂みは満たされないのが望ましい。帰つてきたGRデジタルⅡを掌に包みまた撫でながら、おれはいい買ひ物をしたものだと自讚した。
随分と旧型の機種である。
詳細な仕様はいちいち書かない。リコーのサイトを見れば直ぐに判るし、現代のデジタル・カメラと較べて、どこをどう見ても優る箇所は見当らない。
鞄の隙間に滑り込ませるくらゐの大きさは、挙げてもよささうだが、畢竟それは受光部の小ささ故に過ぎない。それではと近接撮影の強さを挙げたくなつてきて、ただその特徴はGRデジタルのⅢやⅣにも引き継がれてゐる。
詰り今から…今さらGRデジタルⅡをわざわざ買ふ理由は無いのだと云つていい。
併し慾しい。
現行機種であるGRⅢはもつと慾しい。但し現行機を慾するのは、GRの系譜がここでひとつの完成に到つたと思ふからで、さう思つたそもそもの切つ掛けはGRデジタルⅡにある。
何の云つてゐるか、判らないでせう。
わたしも同感である。
要は感情、気分の問題なのだ。と先づは居直る。GRデジタルⅡが現行機の頃、どうやら同Ⅲが出るぞといふ噂が流れて、それは正しかつた。新品の値段がぐつと廉になつたのが證拠で、その時期に買つた。値段に釣られての衝動買ひだつたのは確かである。油断せず、ポイントを使つて外附けのファインダも買つたから、ヨドバシカメラだつたのだらう。
ぱつと見て何かに似てゐると思つた。
ほんの一瞬考へて、リコーのR1sやGR1v(どちらも銀塩のカメラである)だと解つた。こちらも細かい説明はしない。ざつと現行のGRⅢの源流であり、湧水地なのだと理解しておけば宜しい。
上から見た時のシャッター・ボタンの形や、ダイヤルの配置が似てゐる。さう気が附いて感心した。R1sやGR1vの時点でデジタル化を意識した筈はなく、といふことは、初代GRデジタルを出すにあたり、遡つて(強烈に)先代を意図したと想像して間違ひにはなるまい。
かういふ例は過去にもあつた。オリンパスのペンは、上から見た時のレイアウトが、オリジナルから續く機種にも引き継がれてゐる。但しこちらは米谷美久といふ際立つた技術者があつて成り立つた機種である。それにかれがオリジナルを設計した時点で既に、自動露光のEEと大口径レンズを使ふDの素案を持つてゐた気配は濃厚に感じられるから、GRと同列に置くのは六づかしいけれど
「基本的なレイアウトを大きく崩さない意図」
で機種を展開させた点は共通してゐるし、わたしの知る限り、さういふ意図を感じる機種は(他に挙げられるのはキヤノンのEOS kissくらゐか)ごく少い。何の話だつたらう。
さう。GRデジタルⅡだつた。
保存してゐる画像を確めると、平成廿一年から廿三年にかけて、それから平成廿五年に撮影してある。全部で千三百枚足らず。使つた期間を考へると決して多くないが、こちらは素人である。閑々にちよいと撮る程度と思へば、こんなものかと云へなくもない。とは云へその間の撮影が何といふか、まつたく樂かつたのは忘れ難い。
間に一年の空白があるのは、一度手放し、中古で買ひなほしたからで、買ひなほしたのを直ぐ手放したのは、その個体の具合が惡くなつた為である。レンズの前面に、電源のオンオフと連動するカヴァがあるのだが、それが途中で引つ掛かる症状。GRデジタルの名を冠するのは全部で四機種あり、いづれにも共通する持病といつていい。いつだつたかのカメラ・ショウでリコーのひとに訊いたら
「確かにさうでした」
と認めてゐたから、勝手な決めつけではないと念は押しておかう。余談ながらその欠点は、GRⅢに到つてやうやく解消されたといふ。一ぺん、そんなリスクに関はる知識と経験を得ると、改めて手を出しにくくなる。それで手を出しにくくなつたまま、GRデジタルⅡを見掛けること自体が稀になつた。失敗つたかなあ。
最初にGRデジタルⅡを買つた時、同時にファインダを購入したのは既に触れた。實はその後、専用のケイスやストラップ、フード、ワイド・コンヴァータも入手し、コンヴァータ以外は手元に残してゐた。
何でまた。
と思はれる讀者諸嬢諸氏の為に云ふと、カメラの賣買を繰返した経験から、本体やレンズなら手放しても再入手出來る可能性は持てるが、デジタル・カメラのアクセサリは、そもそもの流通量に期待を持てない。詰り本体の生産が終つた後に改めて入手するのは六づかしい。
(さう考へると、コンヴァータを賣り払つたのは間違ひだつたなあ)
括弧書きは兎も角、事情はさういふことで、ただ本体のないアクセサリ群は、如何にも中途半端で困る。これもまた経験から云ふのだが、中途半端なアクセサリ群は、必ず本体を(再び)呼び込む。まあ別に、カメラ特有の話ではないかも知れないけれど。
大坂は梅田に[八百富写真機店]といふカメラ屋がある。
カメラを扱ふのにどうして"八百富"なのだらう。
八百屋から始まつた店が、商ひを代へても"八百"の看板を掛け續けた例は、聞いたことがある。併し[八百富写真機店]の店主だか社長だかには失礼だが、同じ線だつたとすると、八百屋のどら息子が冩眞に入れあげた挙げ句の印象が散らちら見える気がしなくもない。
大坂から東京へ行く際に時間を縫つて、ちよいと覗いたらそこに、GRデジタルⅡがあつた。
参つたなと思つた。
まつたく期待してゐなかつたから、喜ぶ前に困惑した。
取急ぎ出してもらつて、電源のオンオフを何度が繰返してみた。動きはよつこらせといふ感じ。元々からさうだつたのか、少くともスムースとは呼べない。カヴァに引つ掛かる様子は見られないが、いつまで保つやら解らない。それでも
(今のところは、だが)
動いてゐる。惡くない。値札を確める。妥当な価格になつてゐる。惡くない。第一この機会を逃したら、次がいつになるか、見当もつかず…さうじつくり考へた。
と云へばまつたくの嘘であつて、三分も迷はなかつた。
いや迷つたのも正確ではなく、買はない理由が無いかを探して、見つからなかつたから腹を括つた。
これ、もろてきますわ。
玉葱や馬鈴薯のやうに、古新聞でくるまれなかつたのは、些か残念に思つた。
新幹線の車内でバッテリの充電をした。
それからSDカードを買つた。
帰宅してから、がらくた函に入れてゐたアクセサリを取り出した。ストラップが二本(GR DIGITALの縫取りと、RICOHの縫取りがある)と、RICOHのマークが入つたレンズ・ポーチまで見つかつた。
ひとまづシャッター回数を確める(参考までに書いておくと、SCENEモードにして、再生ボタンとマクロ・ボタンの同時押しで表示される)と、二千二百枚余り。内ほぼ千枚でフラッシュ使用だつた。
それから設定を一旦リセットした。以前に使つてゐた時、諸々自分好みに変更したが、今も同じとは限らない。標準的な設定で暫し使つてから、改めて今の自分に好もしい設定を施さうと思ふ。
それでストラップをどうするか考へた。GRデジタルⅡには三ヶ所、ストラップの取附け位置があるので、ライカM5のやうな縦吊りも出來る。当り前に云へば、折角見つけたストラップを使へば済むのだが、かういふカメラに長い紐を附けるのは気に入らない。
待てよと思つて再びがらくた函を見ると、ライカ社のリスト・ストラップ(製品番號18685)があつた。コンパクト・デジタル・カメラ向けで、太い紐で作られた環が手首にやすやすと通る。これを使ふことにした。
序でだからもう少し、がらくた函を覗くと、ステップ・アップ・リングが二種、出てきた。フードやコンヴァータを附ける為のアダプタにこれを噛ませば、取りつけの撰択が増える。アダプタを附けたGRデジタルⅡは、スマートさが著しく損はれるから、實際に用ゐるかは判らない。但し遊びの幅が広くなりさうなのは、決して惡くないと思はれる。
エエ感じやないのさ。
ほくそ笑んだのは勿論こちらの勝手な思ひ込みだから、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は相手にしなくて宜しい。
後は掘り出したがらくた類を含め、どうやつて持ち運ぶかが残つてゐる。ひとつひとつは小さくても、ある程度纏まると、それなりに嵩高くなる。
犬印鞄製作所の小振りなショルダー・バッグがあつた。入る。入りはするが、他が入らない。他とわたしが云ふのは、塵紙やハンケチや財布、煙草や手帖の意味で、これでは満足とは云ひ難い。使つてゐなかつたエツミのカメラ・バッグに入れると、犬印より収まりはよい。が、何となく気分の収まりが惡く、気分の話を文字にするのは六づかしい。
とは云ふものの、それを不満と呼ぶのは憚られる…これもまた気分の話。
妙なことを云ふが、十分に満足でないのがいい。エエ感じがする。あれこれ試す余地があるからで、こんな風に云ふと
「いいから先づ撮りなさいよ」
と叱られさうである。その指摘は正しい。そこは認めるとして、GRデジタルⅡに現役の最前線で使ひ倒すだけの余力の持合せは無い。従つて使ふのは勿論だが、撮る以外の樂みが慾しくなるし、その樂みは満たされないのが望ましい。帰つてきたGRデジタルⅡを掌に包みまた撫でながら、おれはいい買ひ物をしたものだと自讚した。