閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

902 本の話~宇宙人とお弁当

『日曜日には宇宙人とお茶を』

『大冒険はおべんと持って』

火浦功/ハヤカワ文庫JA

 "みのりちゃん"シリーズと銘打たれた短篇聯作集。

 

 タウン誌の記者、一応は常識人でもある山下(後に編集長代理に出世する)と、その後輩(助手でもあるらしい)暢気で適当なサトルが、マッドサイエンティスト(但し仮免許)のみのりちやんの發明に振り回されるのが基本的な筋立て。

 話が進むと、世界征服を企むOLの祝雅子さんことマイティ・マサコが登場して、みのりちやんのマッドサイエンティスト振りが些か萎み気味になるのが残念ではあるが、SFの要素(たとへば時間の量子を掘る為のシャベルを使つたタイム・トラベル。或は銀河地下鐵東西線で行く遊園地こと"大冒険惑星")は忘れずに取り入れつつ、ふんだんなパロディとナンセンス…落語的な趣は変らない。

 

 尤もどの一篇も極端な口語体で綴られてゐるから、ひとによつては何とも云ひにくい違和感があるかとも思はれる。そこで奥附で文庫の發行を見ると、昭和五十九年、同六十二年がそれぞれの初版。丁度、昭和軽薄体…我がわかい讀者諸嬢諸氏よ、さう呼ばれる文章の一群があつたのだ…が全盛だつた時期と重なつてもゐる。火浦がその一派に属してゐないのは間違ひないが、何十年振りかに讀み返して、遠い親戚程度には面差しが似てゐると思へたし、その表を覆ふ落語めいたかるさは、寧ろ令和の今、活字に不馴れな諸君に向いてゐるのではないかとも思へる。わざわざ"表"と云つたのは、がつちりした架空の理窟を附ければ、重厚なお話に仕立て直すのも無理ではないからで、尤も重厚になつてしまふと、"おべんと持つた大冒険"に出掛けるのは六つかしくなる。