閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

904 令和最初の甲州路-打合せ

 以前から幾度か、或は幾度も触れた話をすると、我われニューナンブは殊の外、打合せを重く視る。それぞれの思惑を擦合す必要がある…のは口實で、さういふ傳統なんである。今回の甲州行が例外にならないのは云ふまでもない。それで某日、リモート形式ではあるが、打合せに臨んだ。

 互ひの素案を出しあつた結果、金曜土曜日曜で二泊にする合意は得られてゐる。

 まるきの葡萄酒藏。

 サドヤの葡萄酒藏。

 身延山久遠寺

 県立の美術館。

 限られた時間と便利とは云ひにくい交通を基に、日程と経路を纏めねばならない。

 

 初日の経路で少し迷つた。勝沼のまるきへ行くのは決まりとして、朝八時發のあずさ號で一旦甲府まで出るか、八時半發のかいじ號で直接、勝沼へ行くか。前者だと發が半時間早く、勝沼着はかいじ號に較べて半時間遅くなる。但し荷物を甲府のロッカーに預けられるから、身動きはかるくなる。私は兎も角、頴娃君は荷物が多い男だから

 「さういふ動き方も、ありますが」

と提案すると、頴娃君は確めてから

 「勝沼にもロッカーはあるです。平日だから、混んではゐない筈ですから、直に勝沼を目指しませう」

かれが平気と云ふなら、こちらに否やはない。初日はかいじ號で勝沼に降り、ぶどうの丘で試飲とお晝をしたためて、まるきへと行く流れが出來た。

 

 問題は二日目。身延山久遠寺は頴娃君からの提案である。甲府からふじかわ號で身延へ、そこからバスに乗り継ぐ。それはまあ、かまはないのだが、肝腎の久遠寺には二時間程度しか滞在出來ない。ざつと調べた限り、身延山久遠寺はほぼ一体だから、二時間では表面を撫でるのが精一杯だらう。

 「往復に掛かる時間と、滞在の時間(晝めしも含んで)が大体おんなしなのも、如何なものかと」

 「すりやあ、一理ある」

それに私は葡萄酒を味はひたくもある。ならば代案を出すのが筋といふもので

 「登美の丘が、ツアーと試飲を再開してゐますな」

 「成る程その手がありますか」

調べると某土曜日に空きがあつたので、早速、午前中のを予約をした。登美の丘では残念ながら、お晝をやつつけられない。そこは甲府の市内に戻つてからにする。併せてその日の午后のサドヤの藏と、前日のまるき藏の予約も済ませた。これで自動的に日程が確定したことになる。

 

 三日目は県立美術館でミレーのお針子に逢つた後、頴娃君にとつて欠かせない蕎麦を啜り、帰りのあずさ號に乗る。何號に乗るかは、頴娃君の都合で決めてもらふことにした。

 全体に無理の少い予定で、綺麗に纏つたと思ふ。どうせ我われは往路のかいじ號から、麦酒だの何だのをきこしめ(ここで問題。かいじ號で何を摘むのが望ましいだらうか)、二泊三日を醉つぱらひ續けるのだ。余裕を持たせたところで、持て余さないのは自明である。實に有意義な打合せと満足出來たので、麦酒を呑みに行くことにした。

 事の序でに確めると、前回の甲州行は平成卅年、まるきを訪ねたのは平成廿九年だつた。まつたく久し振りに葡萄酒に溺れられるわけで、ちよいと昂奮してゐる。