閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

910 GRⅢでも使へる棒

 一脚が慾しくなることがある。

 買つてどうすると訊かれたら、こまるけれども。

 いや事情が無いわけではない。

 何しろ私はヘルニア持ちな上、どうかすると膝まで痛くなる男なので、一脚が杖の代用になると思ふのだ。自由雲台を附ければ、GRⅢでも使へるし。

 順序が逆さか知ら。

 併しGRⅢは、手振れの補正が強力だから、卓上三脚は兎も角(食事を近くで撮る際にはたいへん便利)、一脚が無ければ撮るのが厳しい状況は想像しにくい。

 更に併し。杖代りで使ふのを主として、頻度がどの程度になるか、疑問はのこる。だつたら慾しがることもあるまいと思はれさうだし、またそれは正しくもあるのだが、この稿を書いてゐる今は、五年振りの"甲州制服襲學旅行"が近い。詰り時期が非常に惡い。

 天候に恵まれれば、初日の勝沼である程度、もしかすると相応に歩く。こちらは、"居酒屋 あずさ號"から呑みだし、降りてからは葡萄酒を満喫し、(かろく)醉ふ算段だし、勝沼町内の移動には、タキシを奢るのもいいと思つてゐる。一方で同道の頴娃君は、歩くことにまつたく、苦を感じない男である。その辺は摺合すとして、坂道の多い町を歩くのだ、杖になる一脚があつて、損にはならないだらう。

 その日は。

 ぢやあ持つて帰つてからはどうなるか。普段の自分を考へれば、膝が痛むほど歩きはしない。仕事に出る時、腰が痛んで杖を要する恐れはあるにせよ、毎日、足を引き摺る羽目にはなるまいし、さうなつたらそれはヘルニアの再發が現實問題なので、杖より先に車椅子を考へねばならなくなる。要するに"甲州制服襲學旅行"以降、一脚を使ふ場面はごく限られると思はれて…場所塞ぎになる確率が高い。

 更にさらに併し。

 一脚は(当然ながら)三脚に較べれば廉である。専業のジッツオやマンフロットやスリックも例外ではなく、精々が数千円くらゐだし、場所塞ぎと云つたつて、棒切れ一本なのだから、大した邪魔にもならない。それで突然の腰痛に、程度はともあれ、対処出來るとしたら、出費としては惡くない。それにGRⅢでも使へるのだ。一ぺんじつくり、見てみませうかと、串焼きを摘みながら考へた。