閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

558 迷ひの樂み

 [553 帰つてきたGRデジタルⅡ]で、ほんの少しカメラ・バッグについて触れた。要はGRデジタルⅡとアクセサリを持運ぶ手段で、この稿を書いてゐる時点で、どうするかは決つてゐない。迷ふ。などと云つたら、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏はきつと
 「どうせ迷つてゐるのを樂んでゐるんだらう」
と苦笑を浮べるにちがひなく、またその苦笑は正しい。慌てて決める必要はないのだし、寧ろ先送りする方が、樂みを續ける意味で、好もしいのではないかとも思つてゐる。

 そもそもGRデジタルⅡの"アクセサリ"は、どこまでがさうなのか。

 手元には二本のストラップ、外附けファインダ、フードとそれを附ける為のアダプタがあつて、狭い意味で考へれば、後は充電式で揃ふ。
 併しわたしは"純正品至上主義者"ではない。
 ライカニコンのユーザに見掛けることが多いですな。フヰルタ一枚でも、ライカニコンの銘でないと我慢ならないひと。面倒だらうなあと思ひはするが、そこまで徹底出來るのは凄いとも思ふ。
 まあ、わたしはそちらに与しない。それに主義主張を横に措いても、何せGRデジタルⅡは型落ちも甚だしい。所謂"純正品"だけでどうかう出來ると見立てる方が間違つてゐる。

 詰り(わたしの場合)、"アクセサリ"と呼べる、もしくは呼びたくなる境界は曖昧になる。

 大慌てで云ふのだが、アクセサリの"定義"の話ではない。さういふのは専門家に任す。この稿では、あくまでも
 「"わたしの手元にある"GRデジタルⅡに関はる事情」
を考へたいので、外のたれの参考にもなりません。そこはちからを込めて保證する。
 さて冒頭はカメラ・バッグの話だつたのに、何故アクセサリについて触れるのか。
 すりやあ本体と一緒に(本体だけなら専用のケイスにカラビナを附けてあるから、どこにでもぶら下げれば済む)何を持ち出し、どのくらゐの嵩になるかで、鞄の大きさが変る。目を瞑るわけにはゆかんでせう。

 最初に思ひ浮ぶのは電池周りである。予備の電池が手元に無いので、充電器や単四の乾電池は用意したい。乾電池は矢張り充電式が望ましく、だとするとそつちの充電器も必要になつてくる。
 さうまで気にしなくたつて、いいよ。
 と苦笑ひされるだらうが、わたしは半日程度の外出でも、電池切れに不安を感じるたちなので仕方がない。乾電池くらゐなら、どこでも買へると云はれれば、それまでではあるけれど、保険は掛けておきたい。

 もうひとつ、フードとそれを附ける為のアダプタを忘れてはならない。ごく軽い。但し嵩張る。序でに野暮つたい。とは云へ、間にリングを入れて、フードは元より、フヰルタを使ふ時に必要となるから、持ち出さざるを得ない。またリコーが用意したのでなく、他社製のフードを附けるとなると、それも持ち出したくなる。
 いや併しGRデジタルⅡにさういふあれこれを附けるのも、野暮な態度ぢやあなからうか。
 まことにすすどい。ストラップ一本、後は精々外附けのファインダが、GRデジタルⅡの理想的な姿なのは認めたい。認めはするが、アダプタをひとつ、用意しておけば、スマートさはさて措き、弄る樂みが増すのも確かである。それにわたしは面白さうな小物をうつかり買ふ惡癖の持ち主でもあるから、持つてゐて損はしまい。

 更に云へば三脚も使ひたい気がする。ここで云ふのは卓上で用ゐる小型の三脚の話。手元にはマンフロット社の型番は判らないが、畳むと平らになる小さなやつがある。飲食の撮影はわたしの趣味で、かういふ時に具合がいい。そこに高さをかせぐ為の円筒形グリップ(こつちは無銘)も附けたい。使ふ頻度は低からうから、ここまで含めなくてもよささうでもあるが、念の為の意味で記しておく。
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 ここまで色々と挙げ、また書いてから、呆れられるのは承知して云ふと、持運びで鞄に膠泥する理由は無いと気が附いた。要は小さく纏まればよい。
 澤乃井の布袋がある。五寸壜が二本入るくらゐの大きさ。生地が薄いから保護には向かないが、乱雑な造りではない。詰めてみると、ほぼ綺麗に収まつた。流石にこのまま持ち歩けはしないが、これを別のトート・バッグなんぞにはふり込めはする。

 惡くない。
 惡くはないが、気に入つたとも云ひにくい。

 詰めただけ、といふより、詰めるしか出來ない袋だし、ぴつたりではなく、きちきちでもあつて、納得し難い気分が残る。繰返すと惡くはない。移動だけの時には便利さうでもあるから、かういふ入れ方もあると覚えておく。
 その"覚えておく"でもうひとつ。何と呼べばいいのか、お弁当箱を入れる保温乃至保冷用の函型の入れもの。澤乃井袋より収まりが宜しい。底の面積は取るし、澤乃井袋同様、そのまま持ち出せないにしても、函型で蓋がある分、別のバッグに入れても、外の荷物(たとへばタオルや財布)とごちやごちやになりにくいのは嬉しい。

 カメラ・バッグを併し無視するわけにもゆくまい。
 さう思つて見回すと、ロゥプロのNOVA1が余つてゐた。カメラ・バッグだけあつて、小ささの割りに分別しながら、ある程度の量を収納し、多少の余裕も残る。また頑丈でもあつてこの辺りは、カメラ用品の強みを感じさせる。ただ實用品のいかにもな造りだから、普段から使ふのが躊躇はれる野暮さなのが残念。
 だつたら気に入つた鞄を入手するのが、最良の方法ではあるまいか。
 さういふ指摘は判らなくもない。判らなくもないが、気分を別にしても、(極端な話)夏と冬で鞄の使ひ勝手は大きく異なる。となると"最良の方法"は季節に応じて、幾つかの鞄を使ひ分ける意味になる。お金が掛かる上に面倒なのは気に喰はない。といふより、お金を遣つて解決に辿り着くのが気に喰はない。第一、迷ふ樂みが失せて仕舞ふぢやあないか。