閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

943 用心

 我がGRⅢには無く、我がGRデジタルⅡに用意されてゐるアクセサリが、テレコンバージョン・レンズである。型番で云へばGT-1…28ミリを40ミリに変換する。リコーのWebサイトで確めたところ、当時の価格は一万五千円。尤も取り附ける為にはフード&アダプター(GH-1)を要する。同じく当時の価格で五千円。交換レンズ(一応附きであるはにせよ)一式を、この値段で提供してゐたのは、廉と考へるべきか。

 

 GRデジタルⅡは都合三度、買つた(その三台目が今も手元にある)けれど、テレコン(と以下は省略する)は一度も手にしたことがない。あれは特殊な、または明確な目的がある時に使ふ物と判断したからで、その見立ては今も間違ひではないと思つてゐる。このテレコンが現行品だつた十数年前、GRデジタルⅡも現行品だつたわけで、折角コンパクトでかるくてシャープに冩るカメラを、不恰好で持ち出しにくくする必要性を当時のユーザ聯中が感じなかつたとして、何の不思議もありはすまい。

 

 ライカのビゾフレックス…ここで云ふのは銀塩用の方…を例に挙げれば、望遠や近接の撮影が必要な向きには有用だとしても、さうではないひとには単に、大きくて重たい、不恰好な塊に過ぎない。尤も銀塩のライカを趣味で使ひ、游ばうとするなら、あつて困りはしない。大きく重く不恰好でもそれは、冗談の範疇に収められる。さういふ冗談…訂正、(屁)理窟が不意に浮んだ結果、ここ最近、テレコンが浴しいと思つてゐる。但し見当らない。皆が大切に保管し、使つてゐる機器とも思へず、賣れなかつたのだな、きつと。

 

 併しである。令和五年の半ばも過ぎた今、GRデジタルⅡはシリアスに使ふ域を脱し、眞顔の冗談で使ふのに似合ふ一台に到つてゐる。このカメラが、發賣から十数年を経てゐると思へば、まつたく大したものだと手を拍ちたくなる。さういふ…即ち眞顔の冗談…使ひ方を考へた時、テレコンはあつてこまらない。駆けまはつて探す積りではないけれど、この手の物品は忘れた頃、不意に見つかるのが常でもある。用心に越したことはない。