閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

944 不毛

 カメラを上から見て、ほぼ眞ん中にある、四角形の部品をアクセサリ・シューと呼ぶ。形状や大きさは、ライカの原型を作つた、オスカー・バルナックが決めたといふ。元はただの嵌め込み坐だつたが、フラッシュの利用に伴ふ接点だの、電気的な諸々のアクセサリだのを使ふ差し込み口だのが追加され、現代では基本的な形状と大きさ以外、共通した規格ではなくなつてゐる。

 我がGRⅢにも、アクセサリ・シューはある。あるけれど、一体にリコーは、初代のGRデジタル以來、この部品には冷淡な態度を取り續けてもゐる。GRデジタルの派生機であるGXRでは、外附けのEVFを用意した(GR系の本流ではOVFのみ)のだから、技術を持つてゐないわけではない。リコーのひとからすれば

 「GRの系譜では、要らないと思ふです」

くらゐの反論はしたくなるだらう。併し仮にGRⅣ…後継機が出るなら、この辺りしか、改良の余地は無ささうにも思はれる。ズームレンズや可動式の液晶を採用したら、GRのスタイリングが崩れてしまふ。穿つた見方をすると、GRⅢが幾つかのヴァリエイションを出したのは、後継機の開發に迷ひがあるからではなからうか。

 

 勘繰りは止めませう、品が宜しくない。

 それより我がGRⅢのアクセサリ・シューに何を嵌めればいいか、似合ふのかが問題である。ごく当り前に考へれば、OVF…光學ファインダが浮ぶ。確かに持つてはゐるんだが、使ふ頻度は非常にひくい。こちらの視力が惡い所為で、液晶画面の方が使ひ易い事情があり、鼻の頭の脂つ気がそこにつきさうなのもこまる。ライツ社のVIDOMなら、後方へ飛び出すだらうから、鼻の頭の心配はしなくていいが、大きさが適はないと思ふ。

 他にごく小振りなストロボを嵌めることは考へられる。とは云へ、それを内蔵してゐないのも気に入りであるGRⅢに

 「なんで嵌めにやあならんのだ」

と考へたら、わざわざ撰ぶ理由は見つからない。詰り、我がGRⅢのアクセサリ・シューで使へるアクセサリは、(今のところ)無ささうだ。實用の点で云へば。

 飾りつけの視点ならどうだらうか。たとへばライツ社の単獨距離計やスポーツ・ファインダ(枠だけで素通しのやつ)、コシナフォクトレンダー銘で出した露光計。惡趣味を承知で、廿一ミリ用のファインダを嵌め、買ふ積りも無いのに

 「ワイドコンバージョン・レンズ用だからね」

など理窟を捏ねる場面だつて、想定出來なくもない。併し落ち着くと、それならGRデジタルⅡが(現役を一歩引いた意味で)、適任とも考へられる。何がなんでも、アクセサリ・シューに取りつける物品が必要なのではないから、勘繰りと同じく、この辺りで止めにしておくが、かういふことを考へだすのは要するに、GRⅢでもちつと、撮る以外に游びたいからかと思はれる。不毛といふべきか否か。