閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

964 古式驛弁がよささうな話

 宇都宮、大坂、神戸、上野の各駅驛のどこかが、發祥だと云はれてゐる。おにぎりとたくわんを、竹の皮で包んであつたといふ。驛弁の話。驛で立賣りしてゐたさうで、どの驛が發祥としても、何しろ明治の頃ですからね、その辺りは止む事を得ない。

 列車内で食べるお弁当は旨いし、また樂くもある。尤も令和の現在、立賣りの驛弁を樂むのは、かなりの…ごく一部の驛では、賣つてゐるさうだが…無理がある。だから驛構内の驛弁屋で買はなくてはならない。さういふ驛弁は大体、割高である。尤もそれを理由にして、予め買つておくのは、面白さに欠ける。まして自身でサンドウィッチなんぞを作つておくのは、列車内で食べる樂みの大半を捨ててゐる気がする。高額なのはだからまあ、我慢してもいい。

 併し一点豪華(何とか牛とか)で高額になるのは、正直なところ、気に入らない。以前にも何度か触れてゐるとほり、私が幕の内弁当好みの所為である。ではあるけれど、一点豪華式の驛弁の場合、その一点が口にあはなければ、施す手が見つからなくなる。博奕を打つのも躊躇はれるし、こまる。

 そんな時に、元祖スタイルの驛弁があつたら、嬉しいだらうなと思ふ。丸々そのまんまである必要はない。

 大振りのおにぎり(梅干しと昆布の佃煮がいい)

 お漬物(白菜、胡瓜、たくわん、柴漬け、野沢菜漬けの中から二種類)

 それから鰤の照焼きか鮭の塩焼き、でなければ(甘くない)玉子焼き。

 後は緑茶とお味噌汁を用意すれば、ほぼ完璧なかるめの食事になるでせう。罐麦酒(及びお酒や葡萄酒)に、あはしにくいのは問題だが、それくらゐを別に用意する手間は、惜しんではなるまい。さうして古式の驛弁でお腹を満たた後、チーズだの鶏の唐揚げだのミンチカツだのを摘みに、悠々と罐麦酒(及びお酒や葡萄酒)を開ければ、列車内の食事は完成に到ると思ふ。

 

 かう書いてから、宇都宮驛で、その古式驛弁の復刻版が賣られてゐると知つた。これはまづい。非常にまづい。