閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1010 "辛口!!"

 拉麺に就ては詳しくない。だから拉麺と湯麺が、どこで区別されるのか、よくわからない。大体が拉麺じたい、この國では、無秩序な展がりを見せてゐる。

 ややこしいことを云はなければ併し、寒い日の晝にやつつける拉麺乃至湯麺は、決して惡くないもので、お店の品書きに"辛口!!熟成味噌湯麺"と書いてあつたのを註文した。辛口と云つても、このお店の味つけは穏やかが基である。"!!"が冠にあつたつて、何と云ふこともあるまい。

 

 まづソップ。無造作に飲んだら、ひりりとしたものが、喉からお腹へ流れた。"!!"の冠は伊達でなかつた。

 それから麺。品書きに"中太のストレート"とあつた通りである。ちと軟らかに思へるが、好みの範疇か。

 乗つてゐるのは、大きめの煮豚、もやしとキヤベツ、おそらく細く刻んだ大葉、半分に切つたうで玉子。

 

 ソップ…熟成味噌が立ちすぎ、煮豚の味や大葉の香りが飛んでゐたのは惜しまれるとして、その熟成味噌はうまかつたし、味噌がさういふ食べものであり、さういふ調味料を兼ねてゐるのは知つてゐる。惜しいとは思ひつつ、気にはならなかつた。寧ろ玉葱や青梗菜を炒めたのを乗せてくれたら、味はひだけでなく、歯触りにも変化が生じたらうなあ。

 麺と具とソップを平らげると、汗がじわり、滲んだ。お勘定を済ませて(値段は書かないが、十分に妥当と云つていい)外に出た。その後、熟成味噌の"辛口!!"が、舌にも喉にも残つてゐないと気がつき、少々驚いた。さつぱりした辛さと云へばいいのか知ら。味噌拉麺だつたら、舌や喉は勿論、胃の腑まで味噌味になり、不快になる場合もあるのに。それで成る程これが、拉麺と湯麺のちがひなのかと思つた。

 果して本当かどうかまでは、責任を持ちませんよ。