閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1042 訓戒

 呑みすぎは、いけません。

 

 何の本だつたか忘れたけれど、某政治家が同じ道に入つた伜に垂れた訓戒を讀んだことがある。覚えてゐるのは

 

 「幾つかのパーティに招ばれたら、最初の會場で前菜、次にメインディッシュ、最後にデザートの順で食べ、満腹になるまで、喰つてはならん」

 「すべてのパーティに出た後、帰宅して一ぱい引つ掛ける余裕を残さねばならん」

 

といふ二点で、賄賂の上手な受け取り方だの、失言への対応だの、新聞記者のあしらひ方だの、欠片も触れてゐないのがいい。この親父、何度も失敗したんだらうな。

 

 ところでこの訓戒は、まことに有用であつて、パーティの箇所を梯子酒にすると、我われ…失礼、私にも通用する。我が身を振り返れば、胃袋と肝臓が経年劣化を起してゐる、と見立てる方が正しいが、それは横に措く。

 

 一軒目で焼きものや揚げものを摘みに

 麦酒や酎ハイ

 二軒目では焚きものや和へものを肴に

 お酒や葡萄酒

 

 帰つたらシャワーを浴びて

 ナイトキャップにもう一杯

 

 これくらゐで収まれば、ほろ醉ひが精々だから、翌朝に残らない、あるいは残りにくい。帰つてまで、呑みたいかと訊かれたら、首を傾げつつ、その手の余裕を感じられるのは、惡くない心持ちだと応じたい。それでこの何ヵ月かは、さういふ呑み方をしてゐる。政治家を目指す積りは無いけれど、その訓戒は役に立つこともある。曰く。

 

 呑みすぎは、いけません。