呑みすぎは、いけません。
何の本だつたか忘れたけれど、某政治家が同じ道に入つた伜に垂れた訓戒を讀んだことがある。覚えてゐるのは
「幾つかのパーティに招ばれたら、最初の會場で前菜、次にメインディッシュ、最後にデザートの順で食べ、満腹になるまで、喰つてはならん」
「すべてのパーティに出た後、帰宅して一ぱい引つ掛ける余裕を残さねばならん」
といふ二点で、賄賂の上手な受け取り方だの、失言への対応だの、新聞記者のあしらひ方だの、欠片も触れてゐないのがいい。この親父、何度も失敗したんだらうな。
ところでこの訓戒は、まことに有用であつて、パーティの箇所を梯子酒にすると、我われ…失礼、私にも通用する。我が身を振り返れば、胃袋と肝臓が経年劣化を起してゐる、と見立てる方が正しいが、それは横に措く。
一軒目で焼きものや揚げものを摘みに
麦酒や酎ハイ
二軒目では焚きものや和へものを肴に
お酒や葡萄酒
帰つたらシャワーを浴びて
ナイトキャップにもう一杯
これくらゐで収まれば、ほろ醉ひが精々だから、翌朝に残らない、あるいは残りにくい。帰つてまで、呑みたいかと訊かれたら、首を傾げつつ、その手の余裕を感じられるのは、惡くない心持ちだと応じたい。それでこの何ヵ月かは、さういふ呑み方をしてゐる。政治家を目指す積りは無いけれど、その訓戒は役に立つこともある。曰く。
呑みすぎは、いけません。