閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1054 怪しいなあ

 何の記事で目にしたのか、あやふやな記憶で云ふのだけれど、巷では"オールド・コンデジがブーム"なのださうな。冩りすぎる現代のカメラに較べ、不完全な感じになるのが人気なのだといふ。怪しい。旧式のコンパクト・デジタルカメラなんて、使へるメディアが限られてゐるし、電池の入手も六つかしいし、動きだつて随分とにぶい。スマートフォンの軽快に馴れきつた若ものが、我慢出來るものか知ら。

 さう云へば、ロモ・ブームなんてのも、耳にしたことがある。簡単に云へば、日本のカメラを盗んだソヴェトのカメラが流行した、といふ話で(詳しく知りたいひとは、ご自身でお調べなさい)、あれも相当に怪しかつた。身も蓋もなく、少数の数寄ものが大聲を張り上げれば、ブームは作れるんだね、さう云つてもいいが…生臭な方向に進むのは本位ではない。止めにしませう。

 "オールド・コンデジ"に戻すと、仮にさういふカメラに興味を持つ讀者諸嬢諸氏がゐたら

・電池の入手が容易(乾電池対応ならなほよし)

・メディアはSDHC以降に対応。

の二点を條件にするのを、覚えて損にならないと思ふ。生産が終つた専用電池で、xDピクチャーカードだの、メモリースティックだのを用ゐる廉価な機種は、その辺りの入手に存外な苦心と出費が求められ、使ふ前にきつと疲弊する。こんな風に考へを進めると、"オールド・コンデジ"を入手する方法は、信頼出來る知人から譲り受けるのが最良ではないかと思へて、實際、私の手元にはさういふ一台がある。遡ること十五年、平成廿一年の發賣だから、"オールド・コンデジ"と呼んだつて苦情は出まい。ワン・オウナーもので、予備の電池と充電器まで附けてもらつた。

 元オウナーの忠告に曰く、ホワイトバランスの取り方が下手だからね、用心し玉へ貴君、とのことだつた。難点乃至弱点が判つてゐれば、手は打てる。なのでこのカメラは、モノクローム専用にしてゐる。小さくかるく、そこそこの倍率のズームも備へ、手ぶれ補正まであるのは中々便利である。但し画質は十五年前のコンパクト・デジタルカメラ並み。感度をすこし上げると、途端に首を傾げたく程度に落ちる。それらも叉、弱点であり難点であり、現代の目で見るなら欠点であつて、活かすにしても抑へるにしても、多少は冩眞の経験が求められる。"オールド・コンデジ"が流行つてゐるなら、技術的な話題もありさうなのに、目にした記憶がない。"冩眞も撮れる洒落た物体"がブームなのだらうか。だとしたら矢つ張り、怪しいなあと云はざるを得ない。