閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1055 気取るのも甚だしい

 何の本で目にしたか、日本の料理の供し方は、西洋料理と較べて、器の撰び方が特徴的とあつた。うろ覚えで書くと、西洋人はお皿に珈琲のカップ、ナイフやホークに到るまで、統一的に用意する一方、日本だと複数の焼きもの、漆器を用ゐるさうで、妥当かどうかは兎も角、さういふ比較もあるのかと感心した。

 それで思ふのだが、黑い…も少し曖昧に、色みの深い器を使ふのは、もしかして日本の料理の特徴ではないだらうか。私の経験なんぞ、参考になりやしまいが、洋食屋やちよつとしたレストランで、黑は勿論、群青や深緑のお皿やお椀を目にした記憶がない。優劣の話でないのは当然で、兎にも角にもちがふらしい。

 黑は食卓に相応しくない。と考へるのは大体の場合、正しい。併しそこに何を乗せるか次第で、その食べものが寧ろ引き立つ場合もある。目立たせるのではなく、過ぎる派手やかを落ち着かせ、引き締めると云はうか。西洋式の純白に金の縁のお皿が歌劇の舞台なら、黑いお皿は私に、歌舞伎や能狂言のそれを聯想させる。

 陰翳礼讚を気取るのも甚だしいと、呆れられるだらうか。