正月元日にウィーンの樂友堂で開かれる、ウィーン・フィルハーモニーの公演で、一ばん最後に演奏されるのが恒例となつてゐる。かろやかで花やかで賑々しく、詰りシュトラウス一家のポルカやワルツ、マーチで彩られた、年の始めの演奏會の締めくくりによく似合ふ。
歌詞はない。
演奏にあたつては、指揮者のタクトや指の動きにあはせ、聴衆が手を拍つのが約束事。聴衆も巻き込む形で、樂友堂ぜんぶが巨大なウィーン・フィルに変貌する。この演奏會自体に、眞面目と溢れる冗談、諧謔が混つてゐるのは、今さら云ふまでもないとして、テレビジョンで観る側…私のことだ…からすると、まつたく羨ましい。
歌詞はない。
併しそれは問題と見ないでもらひたい。茶目つ気たつぷりな表情の指揮者、嬉しさうな愉快さうな手拍子、滑かで歯切れのよい律動こそ、ラデツキーを讚へるこの行進曲を、誇らしく飾る詞と気がついて、私はテレビジョンの前で、(ご近所に遠慮しつつ)手を拍つたのであつた。