閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

827 新品

 GRⅢを買はうと思つてゐる。

 リコーの"高級コンパクト・デジタル・カメラ"…と云つたら、我がカメラ好きの讀者諸嬢諸氏はきつと、失笑を浮べるだらう。おれもさうだ。GRⅢは發賣から暫く経つてゐるのになんでまた今さら。とも云はれさうで、そつちはおれがリコーとGRのファンだからと応じる他にない。

 "高級コンパクト・カメラ"といへば、京セラ・コンタックスのT2が思ひ出される。フヰルム・カメラですよ、勿論。金属製のずしりとした仕上げ。確か今上陛下が皇太子の頃に御愛用なすつてゐたとか、そんな噂を耳にしたことがある。流行つたね。コニカがへキサーを出し、ニコン35Ti28Tiを出し、ミノルタがTC-1を出した。ペンタックス富士フイルムは出さなかつたがリコーは出した。GRの源流であるところのGR1である。同s、同vと派生機に当る同21を経て、GRデジタルに到る直接のご先祖といつていい。参考にならないことを云ふと、T2の前機種であるTとへキサー、28Ti、それからGR1vを買つた。

 えーと、そこで、GRの話。

 おれが感心したのは、實のところ、GR1vではなく、GRデジタルⅡを初めて(GRデジタルⅡは通算で三度、買つてゐる)手にした時であつた。全体の形もさうだが、釦やダイヤルの配置が非常に近しかつたからで、大したことだと云はねばならない。何故かと云へば、最初の設計…厭な言葉を使へば"コンセプト"…が正しくなければかうはならない。GR以外では知る限り、ライカM型しか同じ例はない。尤もライカM型はスタイリングの点で…と云ひたくなつてきたが、止めておきませう。また話が逸れる。

 GRⅢは思ふに、GR1に始り(本当は遡つてR1からと云ひたいけれど、そこに目を向けると長くなる)、GRデジタルを経たシリーズの完成形である。性能は勿論として、先代先々代で一旦崩れ掛けたスタイルが戻つたのが宜しい。フラッシュは省かれてゐるが、それは些細な点だし、そもそもおれはフラッシュを使はないんだから、寧ろ好もしいくらゐである。一体GRⅣを出すとして、どんな改良をすればいいのか、見当がつかないよ。リコーのひとは生眞面目(にちがひない)からきつと、細やかなあれこれに気を配るんだらう。

 手に入れるなら新品である。

 この稿を書いてゐる令和四年霜月だと、十二万円弱くらゐが相場らしい。GRデジタルⅡを初めて買つた時は、終賣直前で四万円かそこらだつたのを覚えてゐる。十年余り前の四万円との比較は出來ないけれど、技術の進化だの何だのを考へたら、三倍の差は妥当と云つても差支へあるまい。それで一緒に何を買ふかも考へたい。記録用のメディアと予備のバッテリは必要として、後は…さうだなあ、ストラップとケイスは慾しい。帆布のやつ。フードを附けるならアダプタが要るし、ワイド・コンヴァータだつて慾しくなる。さうなるとバッグを誂へたくもなりかねない。但しかういふアクセサリを附けたら、コンパクトさが損はれるのが悩ましい。それにストラップやケイスの撰択にも影響する。尤もこの手のアクセサリはいざ探す段になつたら、ひと苦労させられるのは経験として知つてゐるから、そちらの点でもまた悩ましい。あれこれを追加すると、出費が嵩むのも問題と云へば問題であつて、呑みながら、またリコーのサイトを見ながら、さて何を撰ばうか、全体として幾らまでを許容範囲にするかを考へ、まことに愉快な気分を感じ、感じ續けた。

 GRⅢを買はうと思つてゐる。