閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

400 新しい機種について

 一ヶ月ほど前だつたか、スマートフォンを新しいの…シャープのAQUOS sense3(au版)にした。スマートフォンは通算で三台目。二台目に續いてのシャープ製端末。三台目に到つて初めて筐体の色が黒になつた。本当は赤がよかつたのだけれど(前二機種はどちらも赤だつた)、用意されてゐなかつたから止む事を得ないし、文句を附ける事でもないでせう。詳しい仕様までは触れない。幾らでも調べられるのだから、それくらゐの労を惜しむのはいけません。

 買替へた理由はごく簡単で、先代の電池が決定的に保たなくなつたから。朝八時頃、満充電で仕事に出掛け、十九時頃に帰宅したら残が六割程度では我慢ならない。たかが四年弱しか使つてゐないのに。大急ぎで念を押すと、仕事場では眞面目を気取つてゐるから、こつそり弄るなんてしませんよ。一体わたしはスマートフォンの電池の消耗に妙に神経質なところがあつて、だつたらモバイル・バッテリを持ち歩けばいいぢやあないかといふ指摘は尤もだとは思ふのだが、今度はそのモバイル・バッテリの消耗が気になつてくるだらう。

 もうひとつ。OSの問題なのか経年劣化なのか(後者だと思ふ)、三日に二へんくらゐの割りで強制的に再起動が掛かるようにもなつて、腹立たしいね、これは。繰返して云ふ、たかだか四年弱しか使つてゐないのに、脆弱すぎやしませんかね。などと云ふと

 「スマートフォンは四年も使ふものぢやあない。一年は早く買替へるべきだつたね」

と論評するひとが出さうな気もする。云はんとする事は判らなくもないが、わたしはスマートフォンでゲームをしたり、何か凝つた作業をするわけでもない。機能的な面だけで云へば先代でも支障は無かつたので、その指摘は使ひ方次第ですよのひと言で退けられる。詰り今回の買替へは概して止む事を得なかつた。愚痴のひとつくらゐ、云はせてもらひたい。

 この機種を撰んだのは電池容量に余裕がありさうだと思へた事と、新機種なので動作は安定するだらう…少くとも機械的な部分では…事で、上の不満はどの程度だか判らないにしても改善の期待が持てたから(實際の評価は三年以上使つてからになるけれども)である。もうひとつ、データの保存容量が先代に較べて大きくなつたのを挙げませうか。わたしが保存するデータなんて個々は小さなものだし、microSDカードも使ふから極端に神経質になる必要もないが、余裕があるのに越した事はない。更にひとつ、本体の代金がまあまあ納得出來たからなのもあつた。スマートフォンに五万円以上のお金を出すのはどんなものだらう。

 手續きはキャリア・ショップで、待ち時間を含めて二時間ほど掛かつた。担当したのはMさんといふ女性。事前に料金のプランだのを調べて、確認をしながら。それで

 「データの移行を含めた設定その外は全部するので、必要最小限の開通だけ、してもらへませんか」

とお願ひしての時間だから、プランの内容を最初から聞き、先代でのプランと比較しつつ検討をして、開通に伴ふ作業まて行つてゐたら、もつと長く掛かつたらう。面倒なものだなあと口に出して仕舞つたら

 「色々、すみません」

とMさんが苦笑を浮べた。手際が惡かつたのでなく、料金体系の複雑が原因だから、ちつと申し訳無い気持ちになつた。その一方で彼女はキャリアの看板を背負つてもゐるから、文句を附けられても仕方ないとも云へるわけで、曖昧に

 「まあ。貴女の責任ではないのだけれどね」

と誤魔化すに留め、電源が入つた端末をポケットに突つ込んでショップを後にした。

 最初にmicroSDクラウドにバックアップしてあつたデータを取り込んだ。それから先代機で使つてゐたアプリケイションを入れた。radikoにらじるらじる。EvernoteEdy、それとLINEも(履歴ははふつて)入れた。テキスト作成のアプリケイションが見当らなかつたのでCOLORNOTEを、画像の編輯が貧弱さうだつたからAdobeLightRoomを追加。待受画像の変更。アイコンの整理。ログアウトしてゐるサイトへの再ログイン。かういふ操作を充電しないまま進め、バッテリの減り具合は(当り前なんだが)酷くなかつたので安心した。

 この一連の作業は意図的に手持ちで進めた。掌への収まり具合を確めるのが目的で、惡くはない。細かい事を云ふと、音量と電源のボタンが先代と逆さになつてゐて、案外と使ひ易い。飛び出してゐるのが指先ではつきり解るのがいいのだらうか。全体に先代比で大きく重くなつてはゐるのだが、気になる程度ではない。わたしが不器用な所為もあるとして、片手での操作には少し無理がある。尤も片手で使ふ積りは無いから、ここは目を瞑つてもかまはない。充電の規格はタイプCが採用されてゐる。当面は変換アダプタで対処するとしたが、さていつまで対処出來るものやら、些か心許ない。

 未だ把握してゐないからだらうか、この機種はカメラ機能のレンズがふたつ搭載されてゐる。広角も標準のと同じくらゐ使へますとかいふ惹句を見た記憶があつて、また広角好きでもあるから期待してゐたのに、どうも怪しい。広角にすると、標準の状態で設定してゐる三分割のガイドラインが表示されなくなるし、タッチでのオート・フォーカスも無効にされるみたいで、何か見落しがあるのか知ら。併し見落しがあるとして、わざわざ探して設定しないといけないのなら、随分と莫迦にした設計だし、設定出來ないのなら"同じくらゐ使へる"惹句だか何だかは誤りだといへる。シャープの眞面目な設計者が

 「広角なんです。そこまで神経質にならないでもかまひませんし、ちやんと撮れますよ」

と反論する事も考へられるが、その手法が有効なのは風景やスナップである。こちらは広角で寄つて、焦点の位置も(ある程度になるのは仕方ない)指定したい。ひよつとしてかういふ撮り方は少数派に属するのだらうか。ファーム・アップか何かでの改善を望む。

 もうひとつ。こちらは期待してゐなかつたが、日本語入力の貧弱さには文句を附けておかう。S-Shoinといふ名前だからシャープ製だと思ふ。それともiWnn(オムロン製)の方だらうか。先代もさうだつた。バージョンがどうなのかは判らないが、相変らず歴史的仮名遣ひでの変換が出來ない。送り仮名も長い。またしてもシャープのひとは

 「使ふ頻度が低いんではないでせうか」

さう云ふかも知れない。併しシャープが提供するダウンロード辞書を見ると、顔文字だの葡萄酒の銘柄だのがあつて、寧ろかういふのをたれが使ふのか、さつぱり判らない。歴史的仮名遣ひの方が余程需要がありさうに思ふ。ここで話を無理に膨らませると、辞書は言葉の記憶を保存する巨大な倉庫なのだから(この譬喩はわたしの獨創ではないので念の為)、そこでは保守的…伝統的な言葉遣ひや文字が、より高い場所をあてがはれるのが本筋でせう。その理窟をスマートフォンの入力と変換と辞書に適用するのは当然だし、それは伝統の保守に資する事にも繋がるだらう。

 AQUOSに戻りますよ。不満序でに云ふと、充電のケーブルを外した時、画面の明度が一ばん暗い状態になるのも気に入らない。明度の自動調整を切つてゐるからだらうか。併しその自動調整の具合が好みに適はない。手動で調へるのはほんの少しの手間だといへばさうだとして、その手間を掛けさせないのが本当の筈である。自分で好きに設定出來るのがいいんですといふのは、元の作り方がいい加減で構はない事を意味しないんです。

 文句を附けて終らすのは本意ではない。なので最後にひとつ、褒めておく。この機種はどうやら筐体に金属を採用してゐるらしく(シャープへのインタヴューで触れてゐた記憶がある)、通信をどうするかに苦心したさうだ。先代と較べて手触りがちがふ。かどうかは判らないが、気分の部分としては實に嬉しい。カメラがさうでせう。プラスチック製が惡いわけではないにしても、金属だと(實際はどうあれ)如何にも手間を掛けたなあと感じられる。勿論それで機能は向上しないし、使ひ勝手が変りもしない。併し色々文句を云ひながらも、最近のスマートフォンなのだから、普段の利用に致命的な欠陥を感じはしない。外のメーカー、外のキャリアでも事情は同じ筈で、詰り機能に直結しない部分…マテリアルだとかボタンを押した時の感触、掌への収まりや手触りが大事になつてきさうに思ふ。さう考へた時、この機種は未完成であつても、ひとつの方向を示してはゐる。無駄に高機能化を狙はないで、どこまで進められるだらう。