閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

938 氷のあつかひ

 或る休みの日、暑さ…熱さと云つても誤りにはなるまい…に負け、近所で"特製 冷し麺"を食べた。冷し中華をラーメン風に仕立て直した感じ、と云へばいいか。ちがふ気もしなくはない。麺料理の分類學は専門外だから、この稿では、下の画像で誤魔化しておく。

 うまかつた。ソップなのか、たれと呼ぶのか、好みで云ふと甘みが稍、まさつた感じもしたが、総じて纏りの宜しきを得た出來だつたと思ふ。

 尤もひとつ、困惑させられた点がある。丼の底に氷が入つてゐたのがそれで、すりやあ"冷し麺"なんだから、冷さなくちやあと云へる。云へはする。併しそんなら、最初から十分に冷したソップ乃至たれを用意するのが、望ましくはないか知ら。溶けた氷で薄まる心配もないのだし。

 思ふに中華料理の系統は、恐ろしく幅が広く、器も深いけれど、"冷す"技法…所謂冷製の料理に限ると、多少の見劣りが感じられなくもない。要はその手の食べものが求められなかつた結果だから、そこはさうなのだと思へば済むけれど、東都の片隅で、その眞似はしなくてもいいでせう。

 どうしても氷を使はざるを得ないと云ふなら、ソップ乃至たれ自体を凍らせれば解決する。溶けるのを前提に、味の変化をつける工夫を凝らす…この場合、かき氷のやうにするのがよささうな気がする…のも方法だらう。どこの中華料理屋でも、ラーメン屋でも、好きにお試しください。完成したのを一ぱい、奢つてもらへたら、こちらに文句は何もない。