閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

951 椒

 四川料理ときけば、即座にからいと応じたくなる。

 花椒と唐辛子。

 麻婆豆腐、回鍋肉、青椒肉絲

 我ながら貧弱と嘆きたい聯想だけれど、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏だつて、大して変らないんぢやあなからうか。

 もうひとつ、思ふのは冬の食べものの印象なのだが、四川省の気候は、それほど寒冷ではないらしい。椒を頻用するのは、四川人の好みといふことか。

 正直なところ、からい食べものは苦手である。香りつけとか、ちよつとした刺戟に用ゐるなら兎も角、舌を痺れさすからさを、たれが好むのか、不思議でならない。…他人さまの嗜好に口を挟むのは、御行儀が悪いね。慎みませう。第一、決して食べないわけでもないのだ。

 その證拠が画像で、外の看板には、"豚肉の四川風生姜焼き"とあつた。豚肉の生姜焼きは大好物だし、四川風ではあるが、このお店は信用を置ける。だから註文した。

 白髪葱をあしらつてほしかつた。

 粉山椒はどうも感心しなかつた。

 不満はこの二点。えらく細かいことを云ふと、呆れないでもらひたい。全体がよく纏つてゐると、さういふ箇所が却つて目立つ。確かにからかつたけれど、痛くて不愉快になるやうな辛さではなく、ごはんにもよく似合つた。最初の三口くらゐは、麦酒を追加すべきかと考へ、食べすすむうち、椒と麦酒の相性は、そこまで高くないと気がついた。四川人は一体何を呑んでゐるのだらう。