閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

967 潜り込むやうな話

 レンズ交換の出來るカメラに、是非とも用意してもらひたいのは、マクロレンズニコンは頑なにマイクロと呼んでゐるが、この稿ではマクロで通しますよ…だと思ふ。

 マクロレンズの定義は六つかしいから、大雑把に"一般的なレンズより、被冩体の近くに寄つて撮れる"ことだとしておく。またマクロレンズには、近接撮影専に特化したのと、無限遠まで使へるのに大別出來て、この稿では後者を指すと念を押してもおく。

・マクロプラナー(ツァイス)

・マイクロニッコール(ニコン)

・ズイコーマクロ(オリンパス)

辺りが有名か。マクロタクマー(ペンタックス)やマクロロッコール(ミノルタ)もあつたし、マクロキラー(キルフィット)なんて、些か物騒に感じる名前も思ひ出した。

 デジタルカメラで、近接撮影を誇る交換レンズは、ところで余り見掛けない。わざわざ謳はなくても、多くが不便の無い程度には寄れるからで、どんな事情があるものか。簡単にフォーマットのちがひか、と思ひたくなるが、根拠があるわけではないから、詳しいひとのご教示を待ちたい。

 最初に使つたのは、Ai-Sのマイクロニッコールだつた。型式から判るとほり、銀塩時代の製品である。最前面のレンズが奥まつた獨特の形。焦点合せをすると、ファインダ内で被冩体が像を結んでゆく変化が、普通のレンズより大きく感じられて、その中に潜り込むやうな気分になつた。どんな冩眞が撮れたか、覚えてゐない。出來が惡かつたのだらう。

 實際、マクロレンズを使ふのは、定義附けより厄介なのは間違ひない。焦点合せや構図は勿論、寄つて撮ると、自分の影が邪魔になつたりする。外で草花を撮らうとするなら、風の吹き具合にも、気を配らねばならず…幾ら私が図々しくたつて、それらの諸條件がぴたりと嵌つた一枚を、簡単にものに出來るとは思はない。

 にも関らず…詰り使ひこなせるかどうかはさて措き、自分が使ふレンズ交換式のカメラには、マクロレンズがあつてほしいと思ふ。結像するに従つて、目に留らなかつたディーテイルが浮きあがる、特有の没入感(と呼べばいいのか知ら)を味はひたいからで、かういふ態度が、レンズの設計者にどう受け止められるのか、多少の不安がある。