閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

991 ふはふは、續き

 西上に就て、未だふはふはしてゐる。ふはふはさしてゐると云ふ方が正確かも知れない。切符を贖へば、そこから先、新大阪驛までの予定は、自動的に決まる。迷ひに迷つた挙げ句、結論に到らなければ、指定席の取れるのぞみ號に乗ればよく、眞剣さに欠けたふはふはと批判されるか知ら。

 それはさうとして、小田原といふ土地に触れる。我が日本史好きの讀者諸嬢諸氏ならきつと、伊勢新九郎こと北条早雲と、五代にわたる後北条氏の繁栄と滅亡を聯想するでせう。私もさうである。豊臣秀吉による小田原攻めから、徳川家康が江戸に入府して以來、関八州に占める地位は些かひくくなつたものの、東海道の宿場町としての坐は、現代に到るまでがつしり守つてゐる。

 その小田原には、ニューナンブ公式のビジネスホテル、即ち東横インがある。厳密を期せば、昭島と甲府が御用達なのだが、その辺は曖昧でかまふまい。且つ小田原は、ひかり號こだま號の停車驛でもある。新宿から小田急ロマンスカーで小田原に出て、東横インで一泊して、翌日に小田原からひかり號乃至こだま號に乗る方法は如何だらう。

 

 新宿小田原間のロマンスカーが、二千三百円くらゐ。

 東横インの一泊が、七千五百円ほど。

 小田原から新大阪が、ほぼ一万三千円。

 

 うーむ、東京新大阪間を、のぞみ號のグリーン車に乗るより高い。夜は小田原名物の蒲鉾とおでんを肴に、[松みどり]を呑むと考へれば(どうせさうなるに決つてゐる)、もつと高くつく。新幹線に乗る前に、蕎麦なんぞを啜ることになつたら、更に高くつく。そんならグリーン車を奢るか、新幹線車内の酒肴に遣ふ方が、有用ではなからうか。…などと考へる事情は、小田原の町に就て、私の知るところが實に少いからである。有り体に云ふなら、驛に併設した建物にあつた蕎麦屋くらゐか。過去形のとほり、今は無い。中々うまい店だつたのなあ。後は早川の漁港が精々で、ここは機會を改めて満喫せねばならぬ、と思つてゐる。

 その町に七千円余りを遣ふのは、無駄といふより、勿体無い気がされる。裏を返すと、知るところがあれば、一泊も吝かではなくなる。それに午前十時のチェックアウト後、小田原發の一ばん早い便に乗れば、午后二時頃には新大阪に着到する。朝が弱い身にとつて、東京から直に乗るより、時間に余裕を持てる。有難い。詰り悩ましい。悩ましさは兎も角、動線の撰択肢は、多めに用意して、損にはならない。ゆゑにひと先づ、小田原の東横インの予約はした。驛の近くには、立ち呑み屋が少なくとも二軒、あるらしい。部屋に篭りきる心配はせずに済みさうである。計劃といふか予定、或は見込みが変つたら、キャンセルをすればよい。要は眞剣みに欠けた、ふはふは気分が續いてゐる。