閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1059 歯触り

 お馴染みになつた(と自分では思つてゐる)呑み屋で、ホッピー(黑)のお供にと、久し振りに蛸の唐揚げを註文した。鶏の唐揚げも浮んだけれど、お晝がチキンカツだつたから、ここは蛸に任すのが、流れだらうと思つたのである。

 この手帖で以前、蛸の味に就て触れた記憶がある。味はひ云々でなく、歯触りが蛸だとか、書いたんではなかつたか。えらさうだなあ。摘むと果して、これが蛸の味だ、とは感じなかつた。ざくざくした衣と一緒に、軟かいのだか硬いのだか、兎に角蛸の足獨特としか云へない歯触りがあつて、これだなとは思つた。

 鶏とも烏賊ともことなる、この歯触りが蛸とすれば…私にはさう思へる…、唐揚げに仕立てるのが、歯触りを樂むのに最良ではないかと云ひたくなつてくるのだが、我が親愛なる讀者諸嬢諸氏は如何だらうか。