閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1058 リスタート

 手元にはGRⅢとGRデジタルⅡ、それから三台のマイクロフォーサーズ機に四本のレンズがある。銀塩機(KマウントやEFマウント)を足すともつと増え、ひとりで持つには随分な数である。それで偶に、そのカメラ群が残らず無くなり、一から揃へるなら、何にするか知らと考へることがある。

 銀塩は撰ばないだらう。撮る目的に使ふのは六つかしい。ねぢマウントのライカに、無用のアクセサリをあれやこれやと附け外すのが、樂いのは知つてゐるけれど、手すさび以上にならないのは間違ひない。併し撮る目的で一から揃へるとして(この際だから財布の事情には目を瞑り)、何か好もしい機種はあるものか。

 前提として、大きくて重くて嵩張るのは避けたい。となると、ライカ判フルサイズ(叉はそれより巨きなフォーマット)は、ミラーレスも一眼レフも候補から全部外れる。シグマのfp、ソニーのα7C辺りは小振りだぞ、との指摘は正しくもあるのだが、原則的にレンズのサイズは、フォーマットに比例する。よつて総体としては大きく重くなる。こまる。

 機能性能と上の條件の案配を取るなら、APSフォーマットなのだらう。(所謂)上位機種が、さうするのが責務のやうに重くなつてゐるのは、不思議と云ふ他はないとして、撰択肢が広いのは確かだし、有り難くもある。ただ広い筈の撰択肢は、ミラーレスに偏つてゐるのも事實(ペンタックスといふ例外はあるにしても)で、銀塩一眼レフの末期に似た様相と云へなくもないが…批評的な話は止めませう。

 APSフォーマットから撰ぶとして、併し機能性能の比較は殆ど意味がない。少くともこの十年…電池の保ちを考慮すれば五年以内か、それくらゐに發賣された機種なら、何を撰んでも大きな不満は感じまい。要するに必要十分は既に満たされ、熟成されてもゐて、附加価値…スタイリングやブランドはいいが、動画撮影だの各種のエフェクトだの…で他社製は勿論、自社の既存機とも差別化にも熱心なのが、現在のデジタルカメラ事情だと、私は睨んでゐる。叉話が逸れた。

 現状、そのAPSフォーマット機を造つてゐるのは、ペンタックスキヤノンニコン富士フイルムソニーだつたと思ふ。この中でライカ判フルサイズ機を造つてゐないのは、富士フイルム(別枠扱ひで、それより大きなフォーマット機はある)、ミラーレスを造つてゐないのはペンタックス。撰ぶならどちらかがいい。

 気分の問題と承知して云ふと、キヤノンニコンソニーでは、フォーマットの大きさ、發賣時期と階級が一致してゐる風に見える。ペンタックス富士フイルムの場合、その辺りが曖昧或は融通無碍に感じられるのがいい。叉お財布の事情で、型落ちや中古品を買ひ、表向きに"これが気に入つたから贖つた"と云ひ張つても、許されさうに思へる。そんなら、どつちだ。と訊かれたら、この稿では前段の條件に則つて、富士フイルムにする。

 實は富士フイルムのカメラには殆ど、縁がない。買つた記憶があるのは、銀塩コンパクトカメラのティアラと、デジタルの型番を忘れたコンパクト機(乾電池駆動だから、廉価だつたのは確かである)くらゐか。なので印象がごく薄い。

 今はXと呼ぶ機種を展開してゐる。X-Pro、X-T、同Sだつたか。ProとTは同格、SはTの下位互換…ではなからうか。以前はProの下位として、X-Eと同Aがあつたと思ふ。位置附けの正しさは保證しませんよ、為念。Pro系とT系は要するに、ライカ風かニコン風かのちがひ。単純な見た目なら、ニコン…一眼レフを好もしく思ふけれど、富士フイルムのXシリーズはすべてミラーレスである。ミラーレスはペンタプリズムを要しない構造なのに、一眼レフ擬きのスタイリングなのは、どうも気に入らない。

 であれば、ライカ風のPro系が、ミラーレスに似合ひのスタイリングなのだらう。しかしそのProは私の目に、不必要に大きく思へてしまふ。前段の條件を満たさないし、有り体に云つて不恰好。従つて半ば自動的に、X-Eか同Aを(富士フイルムのひとには申し訳ないが)中古で、探さざるを得なくなり、所謂"標準"ズーム附きがいい。大体はこれで撮れる。必要(物慾込)を感じたら、サードパーティ製も含め、単焦点の入手を考へるとして…初心者への助言でよく聞く話をトレースするやうな流れだな。併し一から揃へなほすのが、リスタートを切るのと同じと思へば、奇妙とは云へない。我ながらうまく纏つた。

 

 ここまで書いて最後に念を押すと、私の今の主軸はGRⅢであり、叉気に入りでもある。従つて實際的に考へると、GRⅢの買ひ戻し一択になることは、附けくはへておきたい。