閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

652 偶然

 先に色々口八釜しさうなひとの為に書いておきます。

 平成廿七年の七月十九日に撮りました。どこで撮つたかは云ひません。使つたのはパナソニックのGF1とシグマの30ミリ/F2.8の組合せ。ホワイト・バランスと露光はカメラに任せました。確めると、どうやらこの時の感度はISO100、絞り値はF3.2、シャッター速は1/1300秒…但し三分ノ二段は手動で切り詰めてありますけれど。

 

 下らないなあ、それが何になるのだらうと思ふひともゐるでせうね。わたくしもさう思ひます。冩眞を見て、何を使ひましたかどんな設定でしたかと訊いて、役に立つものでせうか。あくがれの冩眞家…たとへば植田正治…なら兎も角、仲間内でそんな話をしたつて、低級な社交辞令の域を出ないと思はれるのですが…惡口雑言は止めませう。スマートではないし、わたくしの得意とするところでもありませんので。

 

 さて云ひ訳も終りましたし、(一応の)本題、詰り画像の話に入るとしませうか。なーに、本題と云つても大したことではなく、これまでに撮つた何千か何万か冩眞の中でも、かなり好きな一枚なのです。

 念を押すと、我ながらいい冩眞だなあと思つてゐるわけではありません。経験の豊かなひとならきつと、まあねこんなものでせうなと批評するでせう。好ききらひと良し惡しは別なのです、残念ながら。

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 自分で云ふのも何だけれど、わたくしにしては珍しいスナップであります。いやスナップを撮らないのではなく、その成功例…少くとも失敗には到らなかつた例、くらゐは云つても傲慢と咜られはしないでせう。

 苦手なのですよ、スナップは。

 数をこなせば馴れるし、苦手でもなくなりませうと云はれても、眞面目に冩眞を學ぶ積りなら事情も異なるでせうが、わたくしはさうではない、怠惰な冩眞好きですもの。我が親愛なる讀者諸嬢諸氏には、その辺りのご賢察をば、ひとつ、お願ひしますよ。

 

 ところでわたくしはどうして、この冩眞を気に入つてゐるんでせう。質問ではなく、疑問ですよ、これは。

 被冩体の少女に尽きるのかな、とわたくしは考へます。

 まことに失礼ながら、所謂(都市的な)美少女とは云ひにくい顔立ちではあります。纏ふ衣裳の所為もあるでせう、垢抜けない感じもされます。併しなんとも愛らしく、令和三年の今はきつと、少々古風な、愛嬌のある南國風の美人になつてゐるにちがひないとも思へます。

 露光を切り詰めた結果、ざらつとした感じになつたのも、この場合はよい方向に働いたかと思へます。半世紀くらゐ、遡つた雰囲気になつた…と云へば大袈裟ですが、少くとも平成の冩眞とは思ひにくくなつて、そこもまた、彼女には似合つてゐるのではないでせうか。

 

 撮る瞬間に、さういふことを考へ、或は感じたのではありませんからね、念の為。自分が撮つたので、身も蓋も無く云ふのですが、詰るところこの一枚は、偶然の賜物なのです。平成も終りに近い夏のある日に見掛けた、南の國から來ただらう少女の目に、東の町はどう映つてゐたのでせう。今からでも訊ねてみたいと思ふ瞬間が無いと云へば嘘になります。次の偶然は、あるのでせうか。