閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

804 曖昧映画館~エイリアン2

 記憶に残る映画を記憶のまま、曖昧に書く。

 原題は確か『ALIENS』だつたと思ふ。複数形の"S"がポイントで、英語圏の人びとはこの一文字で

 「今回はあのエイリアンが二体以上、出るのだな」

と解つたのだらう。日本で『エイリアンズ』のタイトルだつたら、へんに恰好をつけた野球のチームにしか思へない。

 簡単に云つておくと、前作は"閉ざされた宇宙船"の中、"姿の見えない怪物"に翻弄される少数の人間といふ、古典的なホラー、或はサスペンスの形式だつた。時系列とし直接の續篇になるこの映画を撮つたジェイムズ・キャメロンは、どうやらそれを引つくり返すところから、發想を広げたらしい。

 広大な空間。

 十分な(筈の)武装した集団。

 何より兇暴な怪物の群れ。

 前作を監督したリドリー・スコットが惜しみに惜しんだエイリアンの姿は、お腹がくちくなるくらゐ、露骨に立て續けにあらはれ、人間は数が多い分、あつさりと死んでゆく。その絶望的な状況で、シガニー・ウィーバー演じるエレン・リプリーは、同じキャメロンの『ターミネーター2』で、リンダ・ハミルトンが演じたサラ・コナーのやうに、タフであり續ける。監督好みのキャラクタなのだらう。尤もエレンは、更なる續篇の『エイリアン3』で

 「(ここで生きるには)誰とファックすればいいのか知ら」

と云ひ放つ女になつてしまつたけれど。

 余談はさて措き。

 映画は如何にもアメリカ的に進む。重厚な兵器。派手な爆發と崩壊する建物。内輪揉め。自己犠牲。偽りの勝利からの大逆転。そして脱出。判りやすい娯樂アクションの要素がすべてはふり込まれ、そこにエイリアンといふ訳のわからない怪物がわらわら湧いてゐて…なーんだ、この映画つて、S.F.の皮を被つたゾンビーものぢやあないか。

 などと莫迦にしたものではない。観客が何を望むか、キャメロンは心得てゐて、昂奮も恐怖も驚愕も、パズルのピースを当て嵌めるやうに、ぴたりとあはせてくるから嬉しくなつてくる。秋の長雨の夜、ヰスキィを嘗めながら観るのに、よく似合ふ一本と云つておかう。