閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

869 廉な呑み屋での話

 某日、久しぶり…半年余りは空いていたと思うのだが…某所の呑み屋に足を運んだ。チェーンのごく廉価な呑み屋。そこの店長がスポーツ好き野球好き(熱心な西武ライオンズのファンでもある)で、そういう話をしたくなったのだ。

 「や。お久しぶりですね」

お店に入るなり聲を掛けられたから嬉しくなった。どうもご無沙汰ですと応えて、焼酎ハイと厚揚げを註文した。ここは変なところで眞面目なので、厚揚げは註文の後で揚げる。手際よく用意をしつつ、WBCはどうでしょうねと云う。

 「今永を温存して決勝で先發させれば、優勝出來ますよ」

初見殺しですからとつけ加えて、大笑いした。着眼点が面白いなあと思いつつ(というより、そもそも決勝まで進むのが前提になっている)

 「先發は整っているから、球数制限の分、セットアッパーとクローザーが肝になるんじゃあないか知ら」

 「ああ。確かにそこは大事です。ダルビッシュなんかは無理でしょうし」

 「田中のマー君を召んで、クローザーを任せられないものかなあ」

他愛ない噂話をしながら、厚揚げ…生姜と刻んだ葱、たっぷりの削り節に醤油を掛け回したのを出してくる。ありきたりと云えばありきたりだけれど、好きな話題が調味料になっているから實にうまい。

 店長は他のお客からの註文を捌きつつ、ホークスの工藤元監督は案外と投手を使い潰しましたよね、などという。あのひとは無事是名馬の典型で、怪我と無縁だったからねえ。

 「その辺の投手が、眞似出來るものでもないのに」

 「ああ、それ判ります」

その工藤公康上原浩治桑田真澄の三人が、綺麗な投球フォームだったと合意を見つつ、ハラミと豚バラとピーマンと葱の串と、焼酎ハイのお代りを追加。そうこうしていると、早番だろう店員さんがお早うございますと出勤してきて、彼女もおれの顔を覚えてくれていたのか、こちらを見て

 「どうもいらっしゃいませ」

と云ってくれたので、焼酎ハイの味が佳くなった。そこに註文していた四本の串が出てきた。豚バラがことに宜しい。たれで頼んだが、これなら塩でも十分にいけるだろうと、えらそうなことを思いつつ、三杯目は抹茶ハイ。

 そろそろお店が混雑してきた。

 常聯さんも次々に來ている。

 名残りに肉詰めピーマンと抹茶ハイのお代りを平らげて、今日は御馳走さまと云った。店を出る時、店長が

 「WBCが始ったら、また來てください」

と聲を掛けてきたので、すりゃあ勿論と応じた。いい醉い具合を感じながら帰った。