閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

932 我慢ならない夕方の

 生麦酒を呑むことが減つた。廿年前なら、最初の一ぱいは必ず生麦酒の中ジョッキで、三口か五口で干すものだと思つてもゐた。今は壜麦酒。コップ半分ほどに注いだのを、順次干す。樂でいい。我がわかい讀者諸嬢諸氏よ、齢を経るとはかういふことなんです。

 併しあまりに蒸し暑くなつたら、喉の奥に麦酒の塊をはふり込みたくなる。そんな場合、コップだと物足りない。ジョッキ入りが恋しくなる。それで或る晩…正確には夕方、どうにも我慢ならなくつて、生麦酒を呑んだ。實に何ともうまかつた。

 ハムカツはこの後にやつてくる。