閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

791 赤い星

 暑い時節に呑む麦酒は壜詰が望ましい。

 生麦酒だと一ぺんに干して仕舞つて、いやそれも喉の快感ではあるのだけれど、酷暑に適ふのは壜詰だと思ふ。好みの話だから、気にしなくても宜しい。

 併し最近になつて思ふのは、わたしが好きで、且つ壜麦酒を置いてゐる店は、サッポロを用意してゐることが多い。それも高い確率で赤ラベル。生麦酒を黑で出し、壜は赤といふ隙の無い布陣。嬉しいねえ。キリンもその気になれば、ラガーと一番搾りで出來る筈なのに(アサヒとサントリーは無理がある)、見たことがない。

 他社に文句は附けまい。

 大事なのは壜麦酒…赤ラベル…正しくはサッポロ・ラガーがうまいことで、麦酒純粋令の信奉者なら

 「不純物を用ゐた呑みものを、麦酒とは呼び難い」

きつと渋い顔をするだらうけれど、そこまではこつちの知らないことである。

 小ぶりのコップがいい。

 注いでは呑み。

 呑んでは注ぎ。

 その繰返しが、どう云へばいいか、リズムを刻んでくれるのだと、ここでは纏めておかう。この場合、スーパードライやオリオンのやうにかるいのは宜しくない。ああいふのは背の高いコップに注いだのを、くーツと呑むのが正しい。一面を見るなら、背の高いコップなりジョッキなりの麦酒を、ひと息に干すには、喉から胃袋にかけて、それだけの量で、炭酸混りの液体を受け入れるだけの余裕がなくてはならず

 「ああ成る程、丸太はもう、その余裕を持てない…詰りリズムを刻めなくなつた、さういふことだな」

ジョッキのリズムに関しては認めざるを得ない。認めはするが壜麦酒…赤ラベル…正しくはサッポロ・ラガーのリズムだつて惡かあない。赤ラベルと小さなコップでリズムを作りながら、ハムカツなぞ囓つたり、烏賊フライや焼き鯖を摘むのはいい気分である。

 「何と云ふか、貧な感じが拭へないねえ」

などと笑つてはいけない。わざわざ壜麦酒、然も赤ラベルを用意するくらゐの呑み屋であれば、一枚のハムカツが十分に美味いのは、簡単に見当がつく。サッポロが品書きを手伝つてゐるとは思はないが、勝手な繋がりを聯想するのも、またひとつの摘みになる。