味噌。
醤油。
醪。
豆腐。
厚揚げ。
油揚げ。
枝豆。
もやし。
きな粉。
雁擬きに凍み豆腐に揚出し豆腐に雪花菜に湯葉に豆乳…外にも挙げてゆけば切りがなくなるから、これくらゐで止めておくが、すべて大豆または大豆由來である。応用篇だの何だの(たとへば麻婆豆腐や豆腐ハンバーグ)を加へると、まことに豊かな大豆世界が現出して、いや凝つた眞似をしなくても、枝豆や雪花菜をつまみに麦酒…内田百閒を尊敬するわたしとしては、シャムパンと云ひたいが、百閒先生の流儀に倣ふと、雪花菜に入れるのは銀杏が精々だし、檸檬を絞らなくてはならない。だからここは我慢をする…を呑み、豆腐のお味噌汁と、醤油を垂らした焼き厚揚げか、もやし炒めでごはんを食べてごらんなさい。ちよつと気取つた飯屋が好む(のではなからうか)“何々尽し”の大豆版が出來あがる。貧乏つたらしいなあと苦笑するひともゐさうだが、またその指摘は同じく苦笑でさうだねと応じざるを得なくもあるのだが、食べるだけでなく、飲み、更に調味でも使はれてゐると思へば、この植物の偉大さ…と云ふより寧ろ凄みが感じられる。鮪でも牛肉でもきつとかうはゆかない…と書くと
「だけど和風でしか食べられないのは、ねえ」
さう肩をすくめるひとが出さうだが、そこは心配しなくてもいい。大豆と鯖の水煮(鶏肉や豚肉、ベーコンでもいい)をトマトで煮るのが一ばん簡単。好みでバタを加へ、大蒜や葱、或は茹で玉子を入れて、バゲットと葡萄酒とチーズを用意すれば、洋風の大豆だつて満喫出來る。麻婆豆腐と厚揚げに甘酢あん(茸をたつぷり使ひませう)があれば、中華風になるから紹興酒にあはせるのだつて、無理ではない。メキシコやブラジルやアルゼンチンではひよこ豆やレンズ豆を肉と煮込んで食べるさうだが、調理の手順や味つけを工夫すれば、南米風の食卓(ないし酒席)でも大豆が活躍する余地は、たつぷりあるにちがひない。…かう書いて思ふ、ひよつとすると、宗教の禁忌や政治的な主張の異なるひとが集まる食卓で、たれからも忌避されずに済む、もつと云ふと歓ばれる数少ない食べものに、大豆を挙げるのは、正しい見立ではあるまいか。それに(わたしの理解の外にあるけれども)ヴェジテアリアンからだつて、非難の聲はあがるまい。尤も呑み助の立場から云へば、大豆で醸造または蒸溜される酒精が見当らないのが気に入らない。お酒や葡萄酒でいいでせうにと、呆れられるかとも思ふが、旨い大豆酒があれば、食卓でも酒席でもまつたき大豆の王國が完成するのに、残念な話ではありませんか。
…ここまで書いて、念の為に確かめると、大豆の焼酎があると判つた。世の中は広いんだなあ。