閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

701 同盟

 メロンパンの何が、或はどこがメロンパンなのだらう。メロンのやうな見た目だから、メロンパンなのですよと、我が親切な讀者諸嬢諸氏は教へてくれる筈で、おそらく正しいのだらう。併しそのメロンは、我われが頭に浮べるムスク・メロンではなく、眞桑瓜だよといふ説もある。ムスク・メロンの別名が麝香瓜(この麝香をmusk…ムスクといふ)なのでも判る通り、どちらも胡瓜属の植物。どちらもメロンパンから逆引き出來るほど、似てゐるとは思ひにくい。

 形状は大きく半球形と紡錘形の二種。わたしは前者をメロンパンと呼ぶが、後者をメロンパンと呼び、前者はサンライズとする地域もあるさうだ。半球形の模様を太陽に見立てた名附けらしい。英語が敵性言語扱ひされた時代なら、旭日とでも呼ばれたのだらうか。さうなるとメロンパンは麝香瓜麺麭とかそんな名になつた可能性も出てきて、英語漬けの名附けには多少、批判的な気分を持つわたしでも、すりやあないよと云ひたくなる。

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 ここからは半球形のをメロンパンと呼びますよ。どこのマーケットでも、コンビニエンス・ストアでも、麺麭の賣場で必ず見掛ける。見掛ける度に買ふ。となつたら、メロンパン會社は手を拍つだらうが、そんなことはない。ああメロンパンが置いてあるなあと思ひ、そのまま通り過ぎるのが殆どである。と云ふよりそもそも

 「メロンパンを食べたくて、我慢ならんのぢや」

と思つた記憶がない。何かの拍子で買ふのだが、その時も偶にはメロンパンでも食べるかと思ふからで、メロンパン會社で開發を担当するひとには申し訳ない気がする。

 併しぜんたい、メロンパンをいつ、どんな風に食べればいいのか知ら。朝食やおやつの代りくらゐしか思ひつかない。朝食の麺麭だつたら当り前にトーストの方がいいし、わたしはおやつの習慣を持たず、詰りメロンパンを食べる時間と場所の見当が附かなくなる。さういふひとは外にも少からず、ゐるだらうと思ふのだが、事はどうもさう単純ではないらしい。チョコレイトの粒を埋め、何やらのクリームを入れ、或はムスク・メロンつぽい匂ひをつけたメロンパンがあるのがその證拠で、メロンパン愛好家がゐなければ、わざわざ新しいのを作りはすまい。

 さういふ人びとは一体、どんな気分でメロンパンを味はふのだらう。愛好の諸嬢諸氏は、メロンパンを菓子パン(或はお菓子の一種)ではなく、獨立した"メロンパンといふ食べもの"と理解してゐるのだらうか。日本のどこかにメロンパン愛好同盟などといふ秘密結社があつて、日々新しいメロンパンの可能性について、侃々諤々の議論を戰はせてゐると想像すると、世界もまだまだ捨てたものではないと思へる。さうさう。同盟が實在するなら是非とも、メロンパンに適ふ飲みものについても、議題にあげてもらひたい。ミルク・ティくらゐしか、思ひ浮ばないのである。