閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

954 解決を望…

 長年の疑問がある。

 解決してゐない。

 「カレー・ライスに適ふ酒精は何か」

 といふのがその疑問で、いやそこの貴女、笑はれてはこまります。こちらは大眞面目なんですから。

 麦酒。

 ハイボール

 葡萄酒。

 いづれもしつくりこなかつた。何といふか、一体感に欠けた感じがする。我が國のカレーが英國渡りなのは、つとに有名な話だが、かの國の紳士淑女は、カレーを相手に何をきこしめてゐるのだらう。

 「氷水でなければ、麦茶があるぢやあないの」

本心を云へば、氷水乃至麦茶こそ、(英國渡りの)カレー・ライスに最良とは思ひますよ、確かに。ただそれを云つては御仕舞ひなので、人間、希望を失つてはならない。

 「ふーむ。そんなら、氷水風は兎も角、麦茶風は如何」

世の中の廉な呑み屋には、大きくお茶割りと呼べる、抹茶ハイだの紅茶ハイ、茉莉花茶ハイ、烏龍ハイ、緑茶ハイだのはある。中々いいもので、もつ煮や串焼き、串かつによく似合ふ。併し私の知る範囲ではあるが、お茶割りグループの中に麦茶ハイを見た記憶がない。詰り、さういふことである。

 とは云ふものの、カレー・ライスには、"酒精としての主張"…それ自体がうまい…が甚だしくない方が、適ふのは間違ひなささうで、さういへば、酎ハイは試してゐないのを思ひだした。乙類は措いて、甲類なら、冒頭に挙げた三種より好もしいのではないか知ら。

 またひとつ、思ひだした。何年前だつたか、シードルをあはせて、あれは惡くなかつた。不自然ではないあまみと泡が、カレーのからさといい具合に噛み合つたのか、偶さかの結果だつたのか、その時以來、試す機會に恵まれないから、何とも云ひにくいが、ほのあまさがカレー・ライスに似合ふ可能性は残されてゐる。だつたらサングリアも適ひさうで…シードル同様、常飲に向かないのが難点か。

 つらつら考へを進めてきたが、結局のところ、けふ現時点で解決には到つてゐない。ここまでくれば、寧ろ未解決のまま、人生の終りを迎へるのがいいのかも知れない。