閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

985 平日休みの或る午后に

 少し前、多摩方面に行く所用があつた。所用と云つても、仕事がどうかうではなかつた。だからお酒を買つた。その中のひとつが、下の画像である。

 石川酒造は[多満自慢]のカップ

 なんだカップ酒かと笑つてはいけません。しやんとした酒藏が醸るカップ酒なら、その藏の特徴といふか癖といふか、兎に角さういふのが、はつきり解る。我らが石川酒造が、しやんとした酒藏なのは云ふまでもなく、従つて[多満自慢]を含めば、かういふ系統のお酒なのねと解る。

 簡単に印象を云ふと、口当りがごく柔かい。ラベルには辛くちとあるけれど、舌に乗せた最初は、寧ろ甘みが感じられる。但し決して厭みではなく、詰り呑み易い。ここで云ふ呑み易さは、純米や吟醸

 「純然としたお酒のうまさ」

を追ひ求めた結果(この手のお酒は少くない)といふより、湯豆腐やらお漬物やら、簡便な肴を摘みながら、やつつけるのに似合ひさうの意味。まつたくのところ、平日休みの或る午后に相応しい。