閑文字手帖

馬手に盃 弓手に肴

1050 黑喰ひ

 この稿では"シホコブ"と訓んでもらひたい。

 ざつと調べた範囲で云ふと、明治の初期に原型が出來たらしい。内國勧業博覧會に出品したさうだから、注目に値する技術と考へられたのか。昆布を煮詰める技術じたい、もつと以前に確立されてゐたことを思へば、明治日本の可憐に微苦笑を浮べてもいい。

 好物である。そのまま摘むのが旨ければ、ごはんに乗せるのも旨い。海藻を悦んで貪るのは、我われが御先祖から受け継いだ習慣であつて、中華は勿論、イタリーにもフランスにも、かういふ食べ方は見当らないと思ふ。蛸を好むギリシアや、鱈のコロッケを誇るポルトガルではどうか知ら。

 塩昆布が有難いのは、調味料としても使へることで、画像はその一例。品書きには"塩キヤベツ"とある。胡麻油をあはし、くどいのだか、あつさりしてゐるのだか、曖昧なのがいい。こいつを横に、唐揚げだのハムカツだの、串焼きの盛合せだのを摘み、焼酎ハイなんぞをやつつけると、昆布喰ひでよかつたと思へてくる。